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    nmhm_genboku

    @nmhm_genboku

    ほぼほぼ現実逃避を出す場所

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    nmhm_genboku

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    腹心シリーズ

    ##腹心シリーズ

    11代目黒龍花垣武道の腹心「あれ?東卍サン?」
    「なっち」
    「んははッ!その顔めっちゃウケんね。あの男からなんか言われたん?」
    「まぁ。…ちょっとね」
    「ふーん」

    素直なのは良いことだ。そう言って小さく笑う九条を見ながら、マイキーたちは目の前に広がる惨状に息を潜める。血を流し、呻く人々の真ン中にぽつんと真っ白な特攻服を、あの祭りの時と同じようにマントに変形させた九条だけが立っていた。屈託なく笑う彼のその手の中には、チームのトップが無残にも殴られすぎて腫れあがった顔をしていた。

    「ふはッ…。怖いなら俺の事探さなければよかったのに」

    そう言ってパッ、と胸倉をつかんでいた男を離す。呻き声を発する地面に興味すらなくしているようで、今日はどんな用かな?と尋ねた九条に、マイキー達はジッと九条を見つめるだけだった。

    「…なにかな?」

    一種のむず痒さを覚えながら、眉間にしわをよせ、コツ、と踵を鳴らす。嫌な感じだな、とそう思いながら、九条はスライダーを引き下げ、特攻服をもとの形に戻しながら首を傾げた。こちらを見つめる黒曜石のように真っ黒な瞳を見ながら、両者動かないまま時間が過ぎるのをただただ待っている。その不思議な息苦しさを纏う均衡を破ったのは、新しく陸番隊に入った稀咲の部下で特攻隊である“丁次”だった。無言の応酬からの、動作。飛び出した丁次を止めるのに、稀咲は遅れた。待て!と嫌に焦った声を弾いて、マイキー達の怒声を振り切り、九条に鉄パイプを振り抜こうとした矢先。

    バチッ。と九条と視線が絡んだその瞬間、男はヒュッ、と息を飲み、次いで視界が揺れ、地面に倒れ伏していた。痛みはなかった。ただ、どくどくと心臓が破裂しそうなほどの痛みを伴う丁次を、まるで興味すらないとでも言うように一蹴して、くありと欠伸を漏らした。

    「ちょっとー。自分の部下ぐらいちゃんと躾といてよ」
    「す、みません…」

    ひゅ、っと息が詰まる。予想だにしない出来事。傍から見れば、彼と九条が目を合わせた瞬間、丁次が倒れたように見えた。けれどそれは、稀咲の場所が死角だからそう見えたのであって、マイキーたちはしっかりと、九条が相手の側頭部に蹴りを入れたのを見ている。痛みを感じていないのは、彼の異名と相まって脳の理解が遅れているからだろう。先入観というのはなんとも使い勝手のいい麻薬だろうか、と九条は思った。

    「俺の前に現れたのって、喧嘩売るためじゃないッショ?」
    「うん」
    「じゃぁ…同盟?」
    「…でもなっち達がそう言うのは興味ないだろうし、そう簡単に同盟組めるかって聞かれたら、たぶん無理だって答えるんだろうなって、今分かった」

    海を丸ごと手に入れるなんて事、俺たちには無理だろうし。そう言ってゆっくりとこちらへと歩み寄るマイキーをジッと見つめながら、九条はよくわかってんなァ、と感心した。

    マイキーの唯我独尊の性格を知っているからか、何をされても怒らないでいる自信がある。そのせいか、流れで彼の動向を探ろうとしていたその一瞬のゆるみを見抜いて、マイキーから肩を掴まれ、足払いされて地面にしりもちをついた。まぁ、足払いされた瞬間マイキーの特攻服を掴んで一緒に地面へと倒れることになるのだが。その一連の動作にキョトンと瞬いた後、九条はくふくふと小さく笑いながら掴んでいたマイキーの特攻服から手を離し、顔を覆った。笑うなという方が無理だった。

    「なwんwでwwww」
    「気に入らなかったから?」
    「くっはwwww」

    やべぇ~www暴君過ぎるwww
    なんてゲラゲラと笑いながら地面に横になって腹を抱える九条を見て、そこまで笑わなくてもいいじゃないか、とマイキーは思った。確かに一緒に転んだのは予想外だったけれど、その行動に至ったのは九条のせいなのだから、と。

    「んははッ…!逆に褒めてぇぐらいだわ!」

    よくもまぁ、こんな荒業思いついたな、と再度笑う九条に、マイキー達はジッと九条を見つめた。クツクツと年相応のその顔には見覚えがあったのだ。

    「もしかして、なっち俺らが東卍結成したとき、居た?」
    「ンぁ?あー、…?覚えてない」

    興味ないことは忘れるンだってば。そう言って申し訳なさそうに笑う九条を見て、マイキーはジッとその顔を見る。思い出してしまえば、鮮明に蘇る彼の言葉。
    “新勢力誕生って感じがして面白いね”
    そう言ってシャッター音を響かせたあの6月。太陽の光を浴びた銀の髪が、蒼を滲ませた黒々とした瞳が、印象的だったはずで。なぜ忘れてしまっていたのか、マイキーは分からない。分からないけれど。あの時と変わらない九条のその姿に、何故かゾッとするとともに、その空気を纏って生きている九条を見て、何故か無性に喪失感に襲われた。

    「俺の記憶が正しければ、なっち、お前俺らが渡したインスタントカメラで俺ら撮ってた奴だろ」
    「あぇ?記憶ねぇ~!!」
    「俺は思い出したのに。あの時、お前に迎えに行くから待っててって言ったのに、なんで覚えてないの?」
    「うっわメンヘラ彼女みたいなことになった」

    ちょっと誰かとめてあげて~。はぁ、とため息を吐きながらそう言って、九条は自身の襟首を掴み、揺さぶりながらも記憶にないことを言ってくるマイキーの好きなようにさせてあげながら、必死に思い出そうと奮闘していた。流石に忘れたままというのは申し訳ないので。

    ただ一向に思い出せない。言い方は悪いが、九条の記憶に残るのは、面白いか面白くないか、ただそれだけである。彼からしてみればマイキーたちは面白そうだというよりも、いつか遊んでくれそうなチーム、という枠組みなのだ。どうしても記憶の片隅に飛んでいくその存在に、九条は覚えておくことが出来ない。恐らく、あの半間と言った存在も、随分昔の自分であれば覚えていただろう。されど、勝手に“海に溺れてしまった存在”を気に留めてやれるほど、九条は甘くないのだ。どうすれば記憶に残る人間に成りえるのか。覚える価値のない存在だと言わせないためにはどうすればいいのか。そんなもの、とうの昔に答えは出ている。

    「今日の副ボスは機嫌がいいなァ」
    「ん?おや、今日はココがお迎え?」

    珍しい日もあるんだね。そう言って先ほどからずっと座ったままマイキーの奇行を受け止めていた九条だったが、自分の身内が来たとなれば話は別である。さっさと立ち上がるついでにマイキーを小脇に抱え、龍宮寺の方へともっていって渡す九条に、ココ以外の誰もが驚愕の顔を見せた。九条の見た目はまるで小枝だ。そこら辺の男よりも断然細いし、軽い。そんな九条が、マイキーを小脇に抱えた。その体躯ではムリだと思っていた事をされたせいで、 脳が拒否反応を示して、マイキーたちは思考を止めた。

    「は?」
    「んぁ?何?」
    「俺抱えられた!?」
    「軽かったね?」

    俺が言えた義理じゃないけど、もう少し食べた方がいいよ。そう言ってマイキーの頭を撫でつけた後、九井とその場を立ちさる九条に、マイキーはもう一度は?と声を出した。場は途端に爆笑の渦となった。そんな彼らを無視してココは九条のバイクのケツにまたがって、今日はデートしようぜ、と声を上げた。

    「お家デートね」
    「そう言えば副ボスの家に今日俺から服が届くから、受け取った後ファッションショーしようぜ」
    「耳が遠くなった気がする。タケのところ行こうぜ」
    「んー、辛辣」

    でもそういうところ嫌いじゃないぜ。と笑って言うココに向かって、九条は眉間にしわを寄せた。

    「ココは…俺に一度遊ばれてんのに怖くねぇの?」
    「んー?またそれかぁ。なぁ、副ボス。いつも俺らは言ってるだろ?」

    俺達はお前が忘れようともまた覚えてもらえるようにする、って。そう言った彼の偽りのないその顔を見て、九条はそっと息を吐いた。

    「ごめんね」
    「謝るぐらいなら、そろそろ俺に貢がれてもいいんじゃねぇの?」
    「あ、そう言うのは良いっす」
    「チッ!!」

    舌打ちしないでもらってもいいっすかね!?と声を上げる九条と、意味が分からないという顔をするココ。取り敢えずタケに説教させようと決意して九条は武道へと電話を掛けるのであった。





    九条夏樹(♂)
    1人でチーム潰していた時にマイキー君たちに出会う。ちょっと遭遇率が他の人たちより多いのが怖いな、と思っている。
    この後単独行動していたせいで三日間ぐらいは外に出られない生活が待っている。

    花垣武道(♂)
    今回出番のなかった総長。
    九条の単独行動に頭を悩ませる日々。情緒不安定な時によく単独行動する事を知っているので、同じベッドで寝て起きてずっと一緒にいるよアピールしまくる確信犯。
    この後三日間の軟禁生活を送る。

    ココ&イヌピー
    この後ボスと副ボスをふたりじめ出来るので幸せ。大寿くんには家族旅行をプレゼントした。

    大寿くん
    家族旅行を存分に楽しんだ人。
    お土産渡す時に4人から知らないバスボムの匂いを嗅いで拗ねる程には4人が大好きだよ!


    前々回でイヌピーのタトゥーの場所を腕と言いましたが、前言撤回します。彼のタトゥーの場所は尾骨辺りです。



    「そういや、花垣も九条も観に行くのか?」

    10月下旬。暑さも和らぎ、少しだけ寒さを覚えるこの頃。不意に、何かを思い出しかのようにそう尋ねるイヌピーに、二人で首を傾げた。

    「観に?、何をですか?」
    「なんかイベントあったっけ?」

    装飾がハロウィン一色になるこの季節。飾りが面倒だ、後片付けだどうだという理由で俺らのテーブルに鎮座する100均のハロウィングッズを見ながら、今年のコスプレ何にしようかな、と能天気な事を考えていたら、二人して知らないのか?と尋ねて来たので、俺もタケも首を傾げた。

    「なんかあったっけ?」
    「覚えてないなァ…むしろそう言うのを俺が覚えていたら奇跡じゃない?」
    「確かに」

    否定できない。そう言って二人で悩んでいれば、ため息とともにハロウィンの日に東卍と芭流覇羅との抗争があるだろと言われたけれど、俺もタケもあまり興味が無いせいで、へぇ…、といかにもな声しか返せなかった。

    「興味ないなァ」
    「まず芭流覇羅って何?」
    「東卍に勝てない連中が集まった集合体じゃない?俺が記憶しているチーム名の中に芭流覇羅は入ってないし、比較的新しいチームでしょ?」
    「正解。副ボスはチーム名なら覚えられるのになんで人の名前は覚えねぇんだろうなァ…?」
    「興味ないからなぁ…」

    敵か味方かわかっていればいいし、人の名前を覚える気分でもないから必要ないよ。そう言ってタケを見れば、少しだけ悩んだ顔を見せながら、その抗争観戦だけでも出来る?と聞いたせいでせっかくのハロウィンが敵チームの抗争観戦である。

    「大寿くん、ほら、アレ弟君じゃない?」
    「お前が見ているのは八戒じゃなく三ツ谷だ…」

    はぁ、とため息を吐かれたし、今日はもう喋るなと言われたのでお口チャックしておく。酷いよね。俺だってちょっとは覚えていたと思ったのに。

    「ムリして興味を持たなくてもいい」
    「んぁ?」
    「お前が覚えたいと思う興味の対象が俺たち以外で今はいないのなら、今はそれでいい」

    覚える気のない人間に覚えろというのが酷なのだ。それなら覚えようと思った時にまた教えればいいことである。

    「ふぅん?まぁそう言ってくれると助かるよ。と、いうか、この抗争ってなんで起きてんの?」
    「噂によれば、宣戦布告を出したのは芭流覇羅で、それに乗っかったのは東卍だな」
    「へぇ?うちとは180度違うなァ。」
    「アイツは“穏便派”と呼ばれる部類だからな」
    「逆に副ボスは過激派特攻な」
    「魚は自分の棲み処を荒らされるのが人一倍嫌う種族だからしかたねぇダロ」

    それにうちのボスはよく絡まれるから仕方ない犠牲ってやつな。そう悪びれる様子もない顔で言った九条に、大寿やココ、イヌピー含めた部下数名も、確かに、と頷いた。

    「…今俺もしかしなくても貶された?」
    「「「気のせいだろ」」」
    「俺がタケを貶すわけ無いだろ~?」

    気にしすぎだなァ、お前は~。そう言って、きゃらきゃらと笑いながらタケミチの頭を撫でる九条を見ながら、その場で会話を聞いていた全員が嘘だな、と思った。

    「それにしても結構人間って集まるもんだね」
    「まぁ、“無敵”のマイキーがこの数相手にどこまでやれんのか気になるヤツが多いってことだな」
    「なるほど」

    面白いなぁ、と含み笑いとともに声を出し、九条はゆったりと目を細めた。そんな九条を、半間はジッと見つめる。あの祭りの日に出会ったのは、偶然か、必然か。出会いたくなかった、といえば嘘になる。九条の存在はこの不良界隈で見ても大きく広がっていて、いつか選択を強いられる時が来るだろう。そしてその選択は、時と場所を選ぶことはない。
    今回、半間や稀咲にとって、九条たちがこの場に来ることは賭けに等しかった。

    抗争に紛れて花垣を人質にすることも視野に入れ、九条を黒龍から脱退させる。その後弱り切った黒龍を吸収し、彼の居場所を無くすところまで稀咲は全部考えた。彼を利用して、佐野万次郎を闇へと道ずれにするところまで、全部。それを、それを!!!

    「ん~…タケ、無事?」
    「無事だよ」

    ありがとう。そう言って欠伸を漏らす九条の背後を武道は思わず見る。彼の背後。武道に見せまいとしたその世界の先は、血だまりだった。

    「あ、みちゃだめだよ」

    なるべく手加減はしたけれど、見せられるものじゃないし。そう言って小さく笑う九条に、やりすぎじゃない?と花垣は声を上げた。一番酷いのは稀咲と半間で、その次が止めようとした芭流覇羅の人間たちだ。チョメとチョンボというやつは脱臼した肩を抑えながら、鼻血と、恐らく九条の反撃の際に口内を怪我したのか、ボタボタと血が滴っている。
    生きているのは視認できるが、結構重傷だった。その次に東卍の彼ら。動けるが、それでもボロボロだった。どいつもこいつもボロボロで、無傷で花垣に手を差し伸ばす九条の圧倒的存在感は、だれの目から見ても異質だった。

    「それにしても悪いね。君らの抗争邪魔しちゃって。でもこうでもしないと俺らのボスは返してくれなかったしなァ…」
    「咎めることはしねぇよ。それが一番の解決策で、俺らのこの怪我は、俺らが勘違いして出来ただけだからな…。と、いうより良く反応で来たな。お前」
    「んぁ?」

    背後から鉄パイプ振りかぶられて避けたの、お前だけだったろ。そう龍宮寺から言われてあぁ、と声を上げた九条は、起きていいよ、お前らー、と声を上げた。

    「…副ボス、もう少しボスには優しくしようぜ?」
    「敵を騙すなら味方から。タケの迫真の演技がなかったらここまでこいつら追い詰められなかったから、やっぱりタケは囮に使うのが一番」
    「泣いていい?」
    「慰めるぐらいしかしないけれど、それでも良いなら?」

    それにしても抗争を利用するなんて思いっ切った真似するよねぇ、と少しだけ楽し気に笑う九条を見て、地面に倒れ伏した稀咲と半間に視線を向けた。

    事の始まりは、10月30日まで遡る。

    「芭流覇羅の連中が東卍の陸番隊と手を組んでタケを狙ってる?」
    「あぁ」
    「それどこ情報?」
    「芭流覇羅に潜入させたうちの部下からだ」

    証拠として写真と音声渡しておく。そう言って受けとったその録音データを聞きながら、なんでこんなに執着してんのって思ったよね。タケはどこかで出会ったことなんてないだろうに。いや、でもそう考えるとストーカ気質溢れてるよね、この主犯の男って。タケの事こんなに調べて、こんなにも執着して。

    「オモシロ~」
    「は?」
    「いや、だって面白くない?こんなに一方通行な片思い気質の人間、俺初めて見た!」

    名前なんて言うんだろう。そう言って資料を再度手にしようとした腕をイヌピーに無言で捕まれ、体ごとソファからベッドへと回収された。

    「なんで…?」
    「…夏樹はソイツが気になるのか?」
    「名前ぐらい確認してもよくない?え?駄目???」
    「…気に入らない」

    嘘じゃん。思わずそう言ってしまったけれど、九条にとって、そう言われるとは思ってもいなかったのだ。彼らは自分にとっては特別で、どんなことが起きようとも忘れることはないだろう。それでも不安になるのは、自分の記憶力のなさにある。

    今では傍付きとして置いている大寿も、腹心として名を馳せているココやイヌピーであったとしても、もちろん、今や全幅の信頼を置いている武道でさえ、彼らを視認し、覚えるまで、九条は約1か月ほどかかった。興味がない。その言葉にどれほどの意味があっただろうか。幼少期から、彼らと出会うその間、ずっと一人で生きてきた九条にとって、チームというのは重しであり、枷でもあった。それを、彼らが変えたのだ。たかが興味を抱いただけなのだから、どうせ直ぐに忘れるというのに。

    「ま、お前らが気に入らないなら、覚える必要も無いかー」

    ぼふ、とベッドに横になってクツクツと笑う。どうせ当日になったら誰か教えてくれるのだ。別にどうでもいい。溢れた興味も、彼らの手によって消え失せた。

    「あーあ、面白いこと起きないかなー」
    「明日見学するんだから、別にいいだろ」
    「ま、それもそうだね」

    そうして迎えた当日。抗争は東卍の勝ちと仕切りが声をあげようとしたその瞬間、総長代理の半間がいつの間にか黒龍の彼らの背後から鉄パイプをフルスイングでぶちかます。それに反応したのは九条だけで、全員がその攻撃の餌食となり、花垣武道を人質に、彼が声を上げた。
    “まだ終わってねぇよ”と。

    「よぉ、九条夏樹」
    「…誰?」
    「ばはっ♡おめぇはそういう人間だよなぁ…知ってるよ」

    だからここで利用させてもらうわ、とそう言って笑う半間に、九条はふぅん?と声を出す。

    「望みは?」
    「東卍の奴らを潰せ」
    「でもそれ、君が望む内容じゃなくない?俺が彼らを潰したとして、君の勝ちにはならなくない?」
    「いーんだよ、その後じっくりこっちで痛めつけてやっからよォ♡」
    「ふーん?」

    ちろ、と彼らを視認し、コツ、と靴音を響かせる。やるなら徹底的に、だろう。

    「仕方ないかぁ」

    ボスを人質にされちゃァどうしようも出来ないしなぁ、と声を出し、ゆっくりと笑う。

    「おい!この抗争に黒龍は関係ねぇだろ!!」
    「ンな事知った事かよ」

    そう言ってくっ、と武道の首にナイフを当てる。早くしろ、と言ってこちらを見下ろしてくる。

    「しゃーなし」

    さすがにボスを見捨てるなんて出来ねぇわ。そう言ってくんっ、と近くにいた褐色の男を九条はぶん殴った。その初手に選ばれたが、まさか自分をこの立場へと使うことを決めた稀咲だと理解するのに、半間は少しだけ理解が遅れた。

    「馬鹿だなぁ」

    その声が背後から響いて、半間は思わずナイフを後ろへと振り払った。人間というのは、恐怖を振り払う時、自身の目的を忘れやすい。ここでナイフを花垣から離してはいけなかったのに、稀咲への襲撃に動揺が入る。その動揺が、次の一手を迷わせる。迷わせ、思考を戻すより先に恐怖を思い出させ、悪手を生む。
    その悪手を、生ませた九条は見逃すはずがない。カァンッ!と甲高い音が響いて、半間の手からナイフがはじき出され、トッ、と空中を魚が飛んだ。その光景を誰かが綺麗だと、呟いたその音ごと、半間は一瞬。九条が花垣武道をその腕から助け出す間の僅かな時間の意識を狩り落とされた。



    後半へ続く。


    九条夏樹(♂)
    人の名前は覚えないけれど、チーム名は覚えている。後半惨状をつくる事が決定している。
    トコトン人間には興味を持たないため、今日の出来事も2、3日したら忘れる。

    花垣武道(♂)
    夏樹、これだけ暴れても本気じゃないからなぁ…と虚無を背負ったピーチ姫
    背後の襲撃は予想外すぎて気絶した。
    目が覚めたらお姫様抱っこされていて再度気絶する。

    ココ&イヌピー&大寿
    まさかの襲撃に意識を飛ばした3人。
    目が覚めたらボスをお姫様抱っこしていたので様子見するために気絶した振りをする傍観者たち。

    初手ぶん殴られた褐色の男
    稀咲鉄太



    九条夏樹という人間が、何故魚という愛称をもってこの界隈に名を轟かせているのか。それは、九条と戦ったことがある人間だけがよく知る、彼の柔軟性に基づいている。まるで魚が泳ぐかのように、柔らかに、滑らかに地面を泳ぎ、まるで魚がその身をもって外敵を追い払うかのように、しなやかに、時には力強く攻撃してくる。
    その両立した攻守の変動に、静から動への動き、動から静への動きの中で、彼のように“水の中”を思わせる人間は、きっとこの先どこを探しても見つからないだろう。
    だからこそ、彼は捕獲の難しい水の中を泳ぐ生物を指し示す“魚”と名付けられたのだ。そんな彼から、一時的とはいえ牙をむかれる。足元から蔓延るあの時感じた言いようのない恐怖が、また這いずって、喉を締め付けようとした矢先、陸番隊、稀咲鉄太をぶん殴ったのを皮切りに、九条の蹂躙が始まった。そう、始まったハズなのだ。

    「ッ…!」

    ただ、バジを含めた一番隊は、九条の行動がおかしい、と気づいた。あの陸番隊を殴った後、彼は東卍ではなく芭流覇羅を襲撃している。襲ってくる相手には仕方なく、それなりの手加減をもって相手をしているが、東卍の中に九条の手によって気絶させられた人間が初手の稀咲以外いない、その事実に困惑を隠せないでいた。
    彼等にとってはつい先日から入った陸番隊は素性の知らない部隊だった。何を考えているかわからないし、九条に向かって攻撃を仕掛ける人間がいるぐらい。時折頭のネジがぶっ飛んでる奴が東卍に入ってくるときもあるが、そう言うやつでも、強者のにおいを嗅ぎ分けられるほどには優秀だと思っている。そんなくだらないことに思考を飛ばしながら、バジは息を止める。目の前に自分のボスを横抱きで抱えて下から見上げるようにジッと睨めつけるようにバジと視線を合わせる九条がいた。
    その奇妙な行動に、全員が動きを止める。九条以外、落ちるだけだった意識が、ここで初めて浮上したと言っても過言ではない。

    「…珍しい」
    「あ?」
    「東卍サンは仲間思いだから、あの男を殴ったらある程度の思考を潰せると思ったんだけど、君、意識あるね。なんで?あの男、嫌い?」
    「…嫌いじゃねぇけど怪しんではいる」
    「へぇ!」

    怪しんでいるからこそ。深く意識を堕とさない。そう言われているようで、九条は思わずバジの言葉に目を見開いて、笑った。

    「やっぱり俺の予想は当たってたわ。あとでココに教えてやろ」

    ふふ、と横抱きにしたタケミチの頬にすり寄りながらそう笑って言葉を吐く九条に、場地は違和感のままに眉間にしわを寄せた。

    「どういう意味だ」
    「ん?」
    「さっきの。まるでこの状況を予想出来ていたと言ってるようじゃねぇか」
    「?、うん、最悪の状況の一つとして予想はしてたよ?でもまさか俺を使うとは思わなかったけれど」

    俺に対して動くなって言わない時点で負け確だと思うんだけれどなァ、と緩やかに、そう笑って言った九条を見て、バジは再度眉間にしわを寄せる。癖になるよ?と首を傾げる九条の言葉すら聞こえぬフリをして、ジッとその顔を見つめる。

    「なに?」
    「手ェかしてやろうか?」
    「うーん。いらないかな。ちょっと遊んでても問題ないみたいだし」

    それに君は東卍の人間だから、俺の手伝いするなんて一生無理だよ。そう言ってうっすらと笑って見せれば、そうかよ、と声を上げ、次いで、じゃぁ、と声を上げる。

    「踏ん張れ」
    「は?ッとォ…っぶね!」

    トトッ、と軽やかにステップを踏んでバジの猛攻を魚が躱す。横抱きに抱えている花垣が居なければ、まだ軽やかに躱せているだろうに、身動きのしにくい特攻服を見て、まるで水槽の中を泳ぐ熱帯魚だな、と何故か無性にバジは思った。マントのように変わることのない特攻服。己がボスを横抱きにしているせいで両手を塞がれ、いつもはしなやかに振り落とされる足技も、可動範囲外だというように、その足技は特攻服の中で息を潜めている。

    ただ、逃げ回っているだけ。それでもゆらゆらと水の中を泳ぐ魚のように躱すその姿には感嘆の声が上がる。美しいと思えば、それは武器になる。その姿を一目見ようと躍起になればなるほど人というのは醜く、執拗なまでの執着を見せてくる。九条は、その人の無意識下の中に潜む執着を刺激するのが大層得意だ。目の前の男…バジがムキになりそうなタイミングを観察し、そのタイミングに合わせて盛大に煽る。それを繰り返しながら、相手の体力を奪うという典型的だが確実な方法を使い、何とかこの場は適度に膝をついてくれればいいな、なんて。彼等に自分のジッパーを上げる音も。エレメントの噛み付く音も聞かせる気はないからこそ、今日の“喧嘩”という領域の中で、九条はここに居るどこの誰よりも慎重に生きている。

    普段であれば、目の前の半間の要望通り東卍を立ち上がらせないように動いているたが、東卍には名前すら思い出せないが、イヌピーが尊敬するバイク屋の店主の弟や、大寿くんの弟がいるのだ。ここで亀裂が入るのはあまり良くないと思考が鈍る。これが俗に言う板挟みか、なんて思いながら、呑気に目の前の男の拳を避け、ゆったりと笑って見せた。

    「あんまり生き急ぐなよ」
    「あ?…ッ!」

    ゴパッ、とバジの横っ腹を蹴り飛ばし、コツコツ、とつま先を叩いて九条はゆっくりと笑った。

    「悪いが…」

    東卍サンは討伐対象外なんだわ。ゆる、とそう言って笑う九条の言葉に、半間は思わず確認のため、チラ、と稀咲を見た。
    その視線の動きに九条はゆっくりと、なるほどね、と声を伸ばす。

    「てめぇとそこの男、グルか」
    「っ、…ちげぇよ」
    「あぁ、無理して声を出さなくてもいい。肯定も、否定も求めてないんだ」

    だってそもそもそういうのは求めていない。そう言って首を傾けてゆっくりと笑う九条の顔を、一体誰がちゃんと見ただろうか。そうして武道を抱えたまま、魚は泳ぐ。芭流覇羅の連中が、悲鳴を上げて逃げるのを見ながら、くっ、と九条は口角を上げた。抱き抱える武道に血が飛ばないように、綺麗なまま眠りから覚められるように、何も知らない赤子のまま、生きれるように。

    「ちょっとタケに見せる訳にはいかねぇからさ、悪いけど意識だけは飛ばすなよ?」
    「は?」

    そう言って自分の特服を脱いで地面に敷き、その上に武道を横たわらせ、九条はもう一度、悪いな、と声を上げた。

    「っ!?」
    「んはっ!よく反応出来たなぁ!」

    いい子ちゃんには褒めてやんよ!そう叫んで、くんっ、とガードされた腕に足を引っ掛け、ぐる、と遠心力を使って反対の足で半間の顎を蹴り飛ばした。

    「ゴ、フッ…!」
    「まだ終わってねぇよっ!」

    楽しませてくれるんだろ?そう言ってゴッ、と半間の顔をぶん殴り、よろけた足元を払い、そのまま腹を蹴りつける。どっ、と地面を跳ねるその身体を追いかけ追撃を入れようとした矢先、横からマスク男がこちらに向かって刃物を振り抜こうとした…その瞬間、まるで待ち望んでいたかのように、体ごとそいつへと向ける。

    「ッ!?」
    「あめぇよ、おまえ」

    やるならもう少し殺気を抑えな。そう言って振り返る際の慣性の法則のまま、その男…丁次の頭を九条は蹴り飛ばした。

    「ほら、遊んでよ」

    立ち上がってくれないと困るんだよねー、と笑って言う九条に、誰もが息を止める。そう、九条からしてみれば、ただの戯れだった。人が海に来た時に遊ぶように、九条もただ、彼らと遊んでいるだけ。

    「う…」
    「ん?起きた?」

    小さな呻き声をあげ、目を覚まそうとしたその存在に気づいた瞬間、ぶつっ、と張っていた緊張を切り落とし九条はおはよう、と言って笑う。惨状を色濃く残すその場所に相応しくない九条の甘えた声色が、この襲撃の着地点の様だった。


    九条夏樹(♂)
    初めから最後まで、ただ彼らと遊んでいただけ。

    花垣武道(♂)
    目が覚めたら惨状が広がっていて泣いた

    ココ&イヌピー&大寿くん
    副ボス楽しんでんなー
    止めに入った方がいいか?
    遊んでるだけだから別にいいだろ

    という会話をしながら傍観してたある意味強者たち。この後5人でボウリングに行く




    過去の話をしよう。九条夏樹と、佐野真一郎の出会いを。

    「オニーサン生きてる?」

    そう告げられた言葉に弾かれ顔を上げたその先。ボコられていた初代黒龍総長は昔の仲間の面影を見た。

    「めっちゃ怪我してんね。手当しよ?」
    「えっ、あ…助けてくれてありがと?」
    「んー?別にいいよ。なんかオニーサンほっとけなかったし」

    ヒーローみたいでかっこよかったよ、とケラケラ笑いながら九条はゆっくりと目を細め、女の人は無事に逃げていったよ、と声を投げた。

    「み、てた?」
    「うん。喧嘩強いのかなーって思ってたら弱っちくてびっくりしちゃった」

    直ぐに助けに入れなくてごめんね、と笑いながら言った九条に、大丈夫、と真一郎は答えた。歳下に弱いと言われるのは慣れている。実際自分の弟たちの方が強いのだ。ただ、なぜか、この目の前の少年が楽しそうに自分を見るその姿に、真一郎はむず痒さを覚えた。

    「なぁ…」
    「あい?」
    「おまえ、どこのチーム?」
    「オニーサンもしややんちゃしてた?」
    「まぁ、随分昔だけどな」
    「へぇ、意外。でも俺、今はフリーなんだよね。」

    そう言ってゆる、と笑ったその顔に、は?と真一郎は声を上げた。

    「フリー?」
    「え?あ、うん。何処かに属す気もないからさ。俺人の名前覚えるの苦手だし」

    はい、治療終わり。そう言ってガーゼを貼った九条に、真一郎は目を大きく見開いた。自分の弟達でさえ、もしや勝てないかもしれないと思わせるその存在が、まさかフリーだなんて、思わなかったからだ。

    「お前東卍に入ったら…?」
    「んん?面倒な気配を感じるなぁ…」

    東卍サンの知り合いですか?と緩やかに尋ねた九条に、マイキーの兄だと真一郎は答えた。誰もが知っている呼び名。今までの人生の中で、その呼び名を出して分からないと答えない人間などいなかった。そう、いなかった。この目の前の人間以外には。

    「マイキー?誰だろ…」

    俺人の名前覚えられないからわかんないや。そう困ったように答えた九条に、真一郎は酷く恐ろしいものを見た気がした。

    「まぁ、いいや。どうせ“直ぐに忘れる”し。オニーサン、家ここら辺?送ってくよ?」
    「あー…うん、じゃぁ、送ってくれ…」

    確か今日は昔の仲間がやってくる日だから、と思いながら、九条の緩やかないいよ、と言う声に甘えた。
    銀色の長い髪に、蒼を滲ませた黒々とした瞳をもつ九条を、真一郎はじっ、と観察する。その視線を咎めることなく、なぁに?と小さく笑いながら歩く九条に、真一郎は思わず綺麗だと思って、と声を出した。

    「…、初めて言われたなァ」
    「ふーん?勿体ねぇな」

    俺だったら。そう言葉を出そうとして、真一郎は我に返った。いくらフリーの人間だからと言って流石にこれは無い、と。女性を相手にしている訳じゃないんだから、と思って、ふと九条をみやる。見た目に騙されるやつは結構いるけれど、どっからどう見ても女のような顔立ちとその体躯に、こいつオカズにされてそうだな、と失礼な思考を生み出した。

    「…女に間違われそうだな」
    「あー…良く間違われるよ。だいたい周りの奴らのガタイがでかいんだよ…」

    そのくせ強くもねぇし、と、舌打ちと共に言葉を出して、しまった、と九条は思った。思わず愚痴を着いてしまったけれど、昔やんちゃしていただけで、この付随する殺気は怖がらせるんじゃないか、と思ったのである。

    「すんません」
    「えっ、なにが?」
    「…まじか」

    鈍感すぎやしねぇか?と思ったけれど、もしかしたらこういう人間が1番標的にされやすいのかもしれない、と思考を飛ばして、殺気浴びせられてた人生なんですね、と声を上げた。

    「あー、まぁ、強いやつに喧嘩売ってたし」
    「ウケるww」

    オニーサン結構やんちゃしてますね、と笑って言った九条に、お前もチームに入ったら分かるよ、と真一郎はかつての自分と、その仲間とのやり取りを思い出す。そんな彼を横目に、あいにくと他のチームに入る気分じゃないからなぁ…と申し訳なさそうに言った九条に、ふぅん?と真一郎は声を出した。別に勧誘なんてしねぇよ、と声を上げて、そろそろ自分の拠点としている家にたどり着こうとした時、九条はもしや、と声を上げた。

    「オニーサン、バイク屋?」
    「ん?そう言えば自己紹介がまだだったよな。あそこのバイク屋の店長してる、佐野真一郎だ。お前は?」
    「意外と近いところで喧嘩に巻き込まれてて草。さっきも言ったように、フリーの、九条夏樹です」

    もう1人で飛び出して行かないようにしてくださいねぇ、と声に出して、九条はじゃぁ俺は此処で、と声を出せば、待て待て待て、とその蒼色のバンカラマントを掴んで、茶でも飲んでいけよ、と声に出した。

    「世話ンなったのに何もしないで帰すとか俺の意思に反するんだよ!」
    「あー、そういうタイプか…」

    めんどくさいなぁ、なんて言いながら、されどそれを無下にできないので、九条は仕方なしにじゃぁ1杯だけ、と声を上げた。

    それが、九条夏樹と佐野真一郎との出会いだった。それがまさか数ヵ月後には自身が立ち上げたチームの黒龍に入ることになるなんて誰も思わない。まぁ、その時にはすっかりと九条の頭の中から自分の事など忘れられていたけれど。

    「あれ?オニーサンまた絡まれてンの?」

    そんな出会いと同じように、再度不良からボコ殴りにされていた真一郎を救った九条を見て、真一郎はごめんなさい、と声に出した。

    「ンははっ、何に謝ってんのかわかんないけど、いーよ、許すよ」
    「いや、もうほんと…助けてくれてありがとな…」

    この後バイクの受け渡しがあるから遅刻したら怒られるし、と困ったように声を出した真一郎に、オニーサンバイク屋なんですねぇ、と声を上げた。

    九条の何気ないその言葉に、言いようのない喪失感を受けながら、真一郎は、そう、バイク屋なんだよね、と声を出す。3度目の邂逅なのに覚えられていない、と言うのは些か寂しさが募る。

    けれど、それは仕方の無いことだと真一郎は知っている。九条はフリーの期間が長すぎて、“護る対象”の大切さというのを知らない。黒龍の11代目副総長として生きているが、その実、彼の世界はまだ自分を含め5人の人間だけで生きる狭い場所だ。きっと、これからだろう、と真一郎は理解している。その世界が広がるのは、すぐなのだと。

    「なぁ」
    「はい?」
    「俺、お前に助けられたの2度目なんだよな」
    「あー、何となく覚えてますよ。弱っちくてびっくりしちゃったし」

    ふふ、と緩やかに細められたその顔を見ながら、真一郎はあの時ちゃんとお礼出来なかったからさ、と笑って店に招き入れようとした。そう、この時真一郎は気づくべきだった。“九条夏樹”という異質な存在の強さ、というのを。3度目の邂逅だ。油断していたとはいえ、その存在を欲しがる人間の多さを、彼は知るべきだったのだ。

    「九条、夏樹…」
    「ん?誰?」
    「おー、お前ら!来てたんだ!」

    久しぶりだなぁ!そう軽やかな笑って、真一郎は紹介するな、と声を出す。

    「こいつは」
    「いや、その前によくシカト出来ますね??」

    めちゃくちゃ俺の事睨んでんじゃん。逆にウケる。なんてケタケタと笑いながら入口から1歩も動かない九条に、真一郎は首を傾げる。外寒いだろ、そう問いかけながら彼の腕を取ろうとして、止まる。

    「夏樹?」
    「うーん、俺、真一郎サンのこと、それなりに好きだけどさ」

    流石に教えてくれても良かったのに。そう言って困ったように声を出した九条に、真一郎は目を見開いた。だってさっきまで覚えていなかったじゃないか。そう言葉を吐こうとした真一郎に、九条はすんません、と声を出した。

    「どこで…」
    「あー、その…実はさっき?」

    見たことある看板だなぁ、と思ったら、と答えてそうか、と真一郎は声に出した。実際は違うんだろうな、というのが分かってしまったから。本来なら、九条は思い出すことなどしない。けれど、ある一定の条件が揃っていたせいで、無理やりにも思い出してしまったのだ。

    ひとつは佐野真一郎を助けたこと。1度目と同じ路地裏で助けたせいで、自身の総長の花垣武道の姿と被せてしまった。
    ふたつめは、店。3度目ともなればそれなりに覚えてしまうのが人間というもので、興味が無いにしてもそれなりに覚えてしまっていた。
    そして最後、みっつめ。目の前、店内でこちらを見る元初代の面々に、九条は為す術なくイヌピーにさんざっぱら教えられた人達のことを思い出してしまったのだ。

    曰く初代、伝説を作った人達、という何ともチープすぎる内容まで、全部。

    「俺、適当な人生歩んでいる人間だけどさ、流石に内緒にそれてたら悲しくなっちゃうわ」
    「…悪い。覚えてくれないと思って」
    「否定しないけどさ〜」

    でも流石に内緒にしないで欲しかったな、と困ったように言った九条に真一郎は再度ごめん、と声を出した。

    「あとめっちゃ睨まれてるから帰っていい?」
    「………あれ睨んでんじゃなくて、多分お前が俺になにかしないか見てるだけだと思う」
    「ウケる」

    流石にしねぇよ、と困ったように笑う九条に、明司達はふぅん、と声を上げた。

    「お前、今どこに所属してんの?」
    「あれ?もしかしてそんなに噂立ってない?」

    俺、今黒龍に入ってるんですよね、となんの前触れもなしにそういった九条の言葉に、彼らは盛大に目を見開いて、はあ!?と素っ頓狂な声を上げた。

    「てっきりオニーサンから聞いてるのかと 」
    「そういや教えてなかったわ」

    こいつ副総長な、とあっさり報告する真一郎を見ながら、振り回されているんだろうなぁ、と思った。

    「まさか魚が龍になるとはな…」
    「まぁ、実際成り行きですけどね」

    今ではあの時成り行きでも声掛けて正解だなって思ってますよ、と綺麗笑い、それじゃぁ、今日はこれで、と頭を軽く下げた九条に、またこいよ!と真一郎は声を上げた。とりあえず後ろでマジかよ、と声を上げている元メンバーに、魚のように綺麗に泳ぐ彼の事をちょっと脅してでも詳しく聞こうと思った。


    九条夏樹(♂)
    黒龍に入る前に実は佐野真一郎と出会っていた魚。
    3度目の邂逅でようやっと顔を認識したレベル。多分後でまた忘れる。

    佐野真一郎(♂)
    2度夏樹に助けられた人。いや、わざとじゃないんだ!目の前で女の子が路地裏に連れ込まれそうになったからつい!!
    この後元メンバーから説教を受ける

    元初代黒龍の3人
    まてまてまて、なんで真が魚と一緒にいんだよ!?というびっくり仰天ニュースを目の当たりにした可哀想な人達。
    後で荒師と今牛から人たらしと言われ、明司からは現黒龍なら引き抜きできるかなと言われけれど、諦めた方がいい。

    次回!魚と梵の共闘!






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