甘え上手な唇今日はふーふーちゃんとデートなのに少し体調が良くない。でもこのくらいだったら全然歩けるし、せっかく開けてもらったスケジュールを無駄にしたくない。
待ち合わせ場所に向かうと先に待っていたふーふーちゃんがこっちに気付いて手をふってくれた。
「おまたせふーふーちゃん」
ふーふーちゃんに近づくとこちらをじっと見た後「浮奇、今日はやめておこうか」
「え、どうして?」
ぐるぐると頭を駆け巡るのはやな事ばかり。変な格好してたかな、それとも気に障るようなことをしてしまったのかもしれない。
その言葉に俯く俺の冷たくなった頬を真っ赤な両手で包んだふーふーちゃんは、心配そうな顔で、
「顔色が悪いな、いつからだ?」
「え?」
「熱は?」
「ふーふーちゃん、あの」
「ん?」
ふーふーちゃんの顔がキスする時ぐらいに近づいてきて、冷えてたはずの俺の顔が赤くなっていく。
「ふーふーちゃん近いよ」
「ほら、普段のお前だったらこういう時でも積極的なのに今日は別だな」
「そんなことないもん、早く行こうよ」
「ダメだ」「やだ」「浮奇」「や」
言い合ううちに自分の目が熱くなってくるのがわかる。
「やだ………」
目の前が潤んで、ふーふーちゃんの綺麗な顔が霞んで見える。
「うき、」「…やだもん……せっかくのデートなのに、っ」
目尻に溜まった涙が瞬きでポロリと溢れ落ちると、そこからはひっきりなしに流れていく。せっかく綺麗にアイメイク出来たのに、このままじゃ涙と一緒に流れていってしまいそう。
「無理させたくないんだ」「むりじゃない」
「おうちデートしよう、ネットフリック観て、ソファでのんびりするのはどうだ?」「…………や…」
「んー、それなら一緒にベッドでゆっくりするのは?」
「...キスもそれ以上のこともしたくなっちゃうもん」
「治ったら浮奇がもう無理ってなるくらいしよう」「キスもだめ...?」
「浮奇がベッドに一緒に入ってくれるなら考える。」
どうだ?と尋ねながら両手で俺の頬をムニムニと揉んでくる。
「...じゃあ今日はしょうがないからふーふーちゃんの言うこと聞いてあげる」
「ありがとう。浮奇は俺のわがまま聞いてくれて優しいな」
「ふーふーちゃんこそおれに言う事聞かせるの上手なんだから」
「俺は元気な浮奇とデートしたいからな」涙の跡を拭うようにそっと頬を撫でて、そのまま頭をよしよししてくれる。優しいふーふーちゃん、おれがふーふーちゃんのわがまま聞いたんじゃないよ、ふーふーちゃんと一緒にいられるならどこだっていい。
「ね、途中でアイス買う?」「ばか、冷えるからダメ」
「もう、じゃあ何味のキスがいい?」
してやったり、と揶揄うように見つめると、一瞬面食らったような顔をしておれの耳元に唇を近付けて来た。
「いちご、のリップ味」
手を繋ぎながらふーふーちゃんの家に着くと、玄関に入ってすぐふーふーちゃんは俺をドアに押し付けた。
「浮奇、リップ出して」「...え?」「はやく」「えっと...はい」
リップを渡すとふーふーちゃんは自分の口にリップを塗りキスをしてきた。
「...ふふちゃ...待って」長く続いたキスで息が上がってしまう。
「ごめん、抑えきれなかった。あまりにも浮奇が可愛いから」
「ひひ、ふふちゃんもかわいい、もっかいする?」
こんなに性急に求められるなんて思ってなかったから、少しだけ息が追いつかない。おれのことをギラギラとした飢えたふーふーちゃんの綺麗な瞳で見詰められるのも悪くないけど、駆け上がった鼓動が少しだけヒールを履いた足元をぐらつかせる。それを見計らってか、ふーふーちゃんにぎゅっと抱きしめられた。
「んん、うき…」そう言って俺の首筋に顔を埋めたふーふーちゃんから、ウード·ウッドのセクシーな香りが俺を包んで、クラっとした。
「ふーふーちゃんシたい...だめ...?」
そう問い掛けると無言で首を振られてしまう。
「でもふーふーちゃんもシたいでしょ?お願い」「...ダメだ、今は無理させられない」「んん〜」「キスだけ」
「...ふふちゃんのばか」「そうだな、俺はかわいい恋人を泣かせてしまう大馬鹿物だ」「......心配かけてごめんなさい」
「浮奇が無理してでも俺に会いたいって思ってくれたことが嬉しいよ」ふーふーちゃんは俺を抱えて寝室まで向かう。ベッドの上にはいつも泊まっている時に着ている服があり、俺を座らせるとふーふーちゃんは俺の服に手をかけた。
「シャワー浴びれそうか?」
「んん、このまま着替える…」「OK、じゃあバンザイしような」
「もう、子供じゃないんだから」
さっきまでの空気を払拭するように、俺のお世話を焼いてくれるふーふーちゃん。そこかしこに仕舞われている俺のものを取り出して、テキパキと準備を整えていく。次にベッドに近づいてきたふーふーちゃんの手には化粧落としが握られていて、その甲斐甲斐しさに口角が上がってしまう。
「ほら、これで良かったか?」コットンに浸された化粧落としを見せられて、「ん、」と目を瞑って顔を差し出す。
「はは、俺がしてもいいのか?」「してくれる?」
コットンを俺の顔に当ててゆっくりとメイクを落としていく。
「冷たくてきもちい...」「熱出てきたんじゃないか?」「どうだろう、ふふちゃんの手も気持ちいい」
メイクが落ちきった頃には俺の瞼も落ちそうになっていた。
「浮奇、もうちょっとだけ頑張って」「ん...」
「ほら化粧水と乳液も塗るから顔上げて」「ふふちゃ...」
「どうした?」「だいすき」「俺も大好きだよ」
塗り終わるとふーふーちゃんは返事をしながら俺の瞼にキスを落とす。
「いっしょにねよ」「少しベッドで待っててくれるか?」「やだ、どこいくの」
どこかへ行こうとする手を引っ張って動けないようにする。
「薬とか飲み物とか持ってくるから待っててくれ」「いっしょがいい」
「......しょうがないな...ほら」ふーふーちゃんはそう言いながら俺を抱え上げた。
ひょい、と抱えあげられてふーふーちゃんの冷たい腕が俺の太ももの形をむにゅりと変える。金属の腕が触れてるところが冷たくって気持ちいい。
本当に熱が出てきたのかなと不安になる。「薬と、水と、体温計。あとは、」ふーふーちゃんはゆっくりと部屋を周り、リビングのテーブルに置いたままの飲みかけの小説も手に取った。
「ふふちゃ、」さっきよりもぼんやりしている気がする。ぐりぐりと首元に頭を擦り付けると、ふーふーちゃんの大きな手のひらが背中を摩ってくれる。
「浮奇、ほら下ろすぞ」いつの間に寝室に戻っていたんだろう、ふーふーちゃんのベッドにゆっくりと降ろされた。
そのまま力が抜けたようにベッドに倒れ込んでしまう。
「浮奇?大丈夫か?」「ふふちゃん...あつい...」
「ああほら服は脱ぐな」「あついのいやだ」
「これは本格的に熱出てきたな。顔も赤くなってる」手が頬に触れるとひんやりとして気持ちが良い。涙も勝手に流れていてそれを拭いながらふーふーちゃんは俺に話しかける。
「浮奇、あとちょっと頑張って熱測って薬だけ飲もう」「んんんー」
体温計を無理矢理脇に突っ込まれると身体が動かないようにと後ろから抱きしめられる。
「気持ち悪いとかどこか痛いとか何かあるか?」「ない...あついだけ」「38度か高いな。ご飯は食べられそう?」
「いらない」「じゃあ起きたら食べようか。薬飲んで寝よう」
「それもいらない」「ダメだ、治らないだろ」「ふーふーちゃんが居たら治るもん」
「早く元気になって次のデートのこと考えないとな」「んん…、ふふちゃ」
後ろから抱き締められる腕の中でぐるりと体制を変えてふーふーちゃんの胸板にぐりぐりと頭を擦り付ける。
「ほら、飲もう」「ごほうび」「ごほうび?何がいい?」
ふーふーちゃんはこういう時頑固だから、本当は薬を飲むのもやじゃないけど、ご褒美は欲しい。「のんだらちゅーして?」
「もちろん、じゃあ口開けて?」甘さをまとった錠剤が口の中へぽとりと落ちてくる。ふーふーちゃんが開けてくれたボトルを口に当ててゆっくりと飲み込んだ。
あー、と口を開けて飲んだことをアピールすると、ふーふーちゃんの唇が顔中にキスを落としてくる。
「くちにもちょーだい」
ふーふーちゃんは何も言わずに唇にキスを落とす。
「んん...もっと」ちゅ...ちゅ...としばらくキスが続き、ふーふーちゃんの口が開いてるのを確認すると舌を差し込む。
「ん、うき」「っは...ふふちゃっ...」「舌熱いな」
「ふーふーちゃんのもあつい」「もうおしまい」むっと口を尖らせていると、その上に軽いキスを落とし最後に軽く下唇を食む。
「げんきになったら、もっと気持ちいいことしてね?」
ふーふーちゃんはにっこり笑って俺を布団の中に入れて、自分も隣に入ってきた。
「ほら、浮奇が眠るまで一緒にいるから」「寝ても一緒にいてよ」
「目を覚ます時は一緒にいるよ」
肩まですっぽりふーふーちゃんの香りに包まれた俺は、押し寄せて来る眠気に抗えなくて、瞼がゆっくりと落ちてくる。
「ふー、ちゃ、おやすみ…」「おやすみ」
これなら悪夢も見なさそう。ぎゅっとふーふーちゃんの服を握ってホールドして、足も絡んでるからきっと。
額にキスを感じたのは夢か現か。