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    凛花(おがわ)

    @gentian1031

    ◯遙か5風花記のリンドウさんを推しています
    ◯コミケ100にてリンゆき再録本発行
    ◯イベント当日まで再録本の内容を紹介していきます
    ◯時々、慶くんも話題に出します
    ◯プロフィールのゆきちゃんはaiさんが描いて下さいました🥰

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    凛花(おがわ)

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    ■神子江戸残留捏造ルートのお話です。この辺りから調子に乗ってリンドウさんの兄姉を好き勝手に書いています。リンゆきですが、リンドウさんの悲観的な考え方を反映した少し仄暗いお話です。
    <作品メモ>
    2012年10月に発行した「もしもの話」というコピー誌に収録されているお話です。

    籠の中の鳥は 江戸に龍神の神子がやってきて、怨霊騒ぎだとか何だとか。その裏では攘夷だの倒幕だの。
     嵐のような日々が過ぎ、一旦は一橋慶喜が将軍となり落ち着いたかと見えた政局はこれまた一気に覆された。
     
     其れというのも、その一橋慶喜——
     第十五代将軍 徳川慶喜
     そのひとが、一年も経たずに政権返上を今上帝へ奏上したことに端を発する。
     色々と思惑はあったのだろうけれど、あらゆる思惑が入り乱れ、周囲が画策する倒幕の算段に時代の波が重なって日本は大きく変わることになった。
     その後、幕府の廃止が正式に宣言され、政治は新しい主体者達の手に渡った。
     将軍職を退いた慶くんは勿論、幼い天皇陛下の摂政を務めていた我が兄上も、職の廃止ともに一線を退き、今は比較的穏やかな日々を送っている。
     
     僕も、その直後から京の実家に戻り、目まぐるしい時代の変化を横目にのんびりとした生活を送っていたのだけれど……。
     
    ***
      
    「奥方様、御文が参っておりますわ」
    「ありがとうございます」
     ゆきが、女中が持って来た文箱を受け取って手紙に目を通す。さっと一通り眺めた所で彼女は思い出し笑いを堪えた。
     流麗な筆致は一見すると一本の長い線の様に見える。そんな風に思っていた頃も今は遠く、すっかりこの時代の文字にも慣れて私文書などは問題なく読みこなせるようになっていた。
    「誰からの手紙?」
     横から声をかけると、彼女はこちらを向いて笑いながら言った。
    「義姉上様からです。今度、親王殿下と夜会に出席されるそうで、一緒にドレスを見繕ってくれないかと……」
     またか、という思いが表情に出ていたのだろう。大きくため息を吐くと、ゆきが宥めるように言葉を継ぐ。
    「今は、時代が変わったばかりだから仕方がないですよ。アーネストみたいな外国の人たちがたくさん入ってきますし、外交は大切です。それに、私でも役に立てる事があるのは嬉しいです」
     ゆきの言葉に嘘は無いのは瞳を見れば分かる。
     しかし、リンドウのため息の理由は別にあった。
     彼女が自分の一族に煩わされ嫌な思いをしていないか、は当然として、ゆきを婚約者として本家へ連れ帰ってからというものの止む事の無い過干渉に内心呆れ返っていたのだ。
     すでに実質は『奥方様』として家内でも周知の間柄であっても、中々婚儀をあげるに至れないのは、こうした状況に嫌気がさして、彼女が家を出るなどと言う事になったらという不安が大きく影響している。
     なるべく心残り無く諸々綺麗なままで逃がしてあげたいという、これまでの自身にはあり得なかった新たな臆病風のなせる業であった。
     事実、宮家に嫁いだ筈の実姉は、どこで聞きつけたのか、ゆきが二条の家に入ったその日には自ら迎えに駆けつけ、以降何かと理由をつけては、せっせと文を送って自邸に足を運ばせようとしている。最近流行りの話題は明治政府が成ってから頻繁に行われるようになった『西洋風の夜会』である。ゆきが英語を話すことや欧風の衣装などに詳しいから…というのが、姉が彼女を呼び出そうとする際の常套句であった。
    「ほんとに無理しなくていいよ。返事も適当にしておけばいいからさ」
    「でも……」
     実際はあんまり良く無いのだが、そのくらいの泥は自分が被ろうと心中でもう一度ため息をついた時だった。
    「神子殿はいらっしゃるかな。宜しいだろうか」
    「はい。おります」
     本来ここで聞こえてはならない人の声がした気がする。
     ゆきが出迎えようと立ち上がると、待ち切れない様子で襖が開かれた。
    「こんにちは、神子殿。ご機嫌いかがか」
    「こんにちは、義兄上様」
     やってきたのは、摂政関白を退いたとはいえ、今や最高位の貴族として名を連ねる実兄である。
    「そこの愚弟に苛められてはいないかな」
    「とても元気ですし、リンドウさんとは仲良くしています」
     それは結構と、満足そうに初老の男は頷いた。
    「ちょっと、ご当主とも有ろうお方が、実弟のとは言え他人の妻を勝手に訪ねられるとは無礼じゃありませんか?」
    「これは失礼した。神子殿、申し訳なかったね」
    「いいえ、私は気にしていません」
     ちょっとは気にしてくれ…という心の叫び虚しく、微笑むゆきを間に兄弟の火花が散った。
    「兄上。官職を退かれたからと言って、そうお暇じゃないでしょう?」
    「それが、出仕することもなく、陛下のお傍近くに侍ることも無くなったら以外と気ままな身の上となってね。もちろん、神子殿にお会いする為なら多忙であっても時間など幾らでも作りましょう」
     いけしゃあしゃあと述べると、ゆきへの世辞も忘れない。この辺の抜け目の無さが在りし日を彷彿とさせて尚更不快である。
     自分自身が勿論そうなのだから、非難出来る立場には無いとは言え、一族内でのゆきの構われ方は異常であった。
    (これが星の一族の役割ねぇ……)
     客観的に見ると、相当鬱陶しい。
     今は、彼女も何の疑問も抱かずにこうした境遇を楽しんでいるようだが、これではまるで一族の大きな掌がやんわりと彼女を包んで逃すまいとしているようだ。
     そんな物騒なことを考えていると、兄上はゆきに向かってあれこれと話を続けていた。
    「それで、神子殿にもぜひご覧頂こうと」
     言って手を打ち鳴らすと、待ってましたとばかりに、幾人もの女中が衣装箱を手に室へ入ってくる。
     次々と畳の上に広げられたのは、色鮮やかな夜会服であった。
    「わぁ、素敵ですね」
    「どうですか。どれかお気に召したものはありますか?」
    「あれ、あの薄桃色のドレス。優しい色ですし、胸元の飾りが落ち着いていてとても素敵です」
    「なるほど。他にはいかがですか?」
    「もし君が着るなら、その白地に淡い藤色のはどう?似合うと思うよ」
     兄上に言われるまま、楽しそうに目を輝かせて衣装を眺める様に、少しの嫉妬を込めて口を挟む。
    「はい、素敵です。とても綺麗」
     うっとりとした様子で、彼女はその衣装を手に取った。
    「それなら、そちらの衣装は神子殿へ贈らせて頂きましょう」
    「え!?そんな」
     微笑ましげにゆきの様子を見ていた兄上は、慌てて衣装を置き直した彼女に一層笑みを深くして告げた。
    「遠慮なさらず。元々貴女にも一着お贈りしたいと考えていたのです。何なら、今度夜会に同伴して頂けませんか」
    「でも……」
    「ぜひ。その衣装を着た神子殿はさぞかし美しいでしょうからね」
    「はいはい。とりあえず、君は遠慮せず衣装は受け取ればいいよ。あと、兄上。ゆきは夜会には行きませんから」
     言いくるめられそうになっている所に割って入る。当然予想していたであろう兄上は、笑み深く言葉を継ぐ。
    「それでは神子殿。選んで頂いた衣装は早速、親王妃に届けさせましょう。そんなわけで、私は失礼致しますよ」 
    ——これ以上長居すると、弟に呪われそうですから。 
     余計な一言を残して兄上は去っていった。
     
    ***
     
     取り残された僕とゆきは、しばしの沈黙の後、お互いに顔を見合わせる。ほっと息をついた。
    「まるで嵐の後だよ」
    「ちょっと驚きました。あんなに沢山のドレス……」
     驚いたのは、そちらか……と、彼女の天然具合に半ば呆れつつも、その腕の中にある夜会服の裾を手に取った。
    「それより、この夜会服着て見せてよ」
    「今、ですか?」
    「もちろん。僕が選んだんだから、きっと似合う」
     それならばと、彼女は続きの間へ夜会服を持って入っていった。
    「少し待っててくださいね」
    「うん。楽しみにしてる」
     想定よりも長いこと、彼女は続きの間から出てこなかった。慣れない和装を解くのも時間がかかるのだろう。
    (慣れない和装か……)
     ここで頭を過ったのは、ゆきを連れて本家に帰った日のことだ。この世界で生涯を共に生きると誓ったはずなのに。
     まだ、時折不安に苛まれる。
    「リンドウさん、出来ましたよ」
     明るい、ゆきの声で現実に引き戻された。
     続きの間の襖がゆっくりと開けられて、白と藤色のコントラストが美しい夜会服姿が現れる。
    「……っ」
    「どうですか?」
     くるりと彼女が回ると、裾が風をはらんでふわりと持ち上がる。ピタリと沿った上半身に対して腰から膨らんだその優美な曲線の流れに目を奪われた。
    「綺麗だ。凄く……」
     思わず真顔で呟くと、ゆきは恥ずかしそうに頬を染めた。
    「こんなお姫様みたいな衣装、初めて着ました。子どもの頃に読んだ童話だと、着替えたらお城の舞踏会で王子様と踊るんです」
    「へぇ。どんな風に?」
     すると、ゆきは僕の手をとって立たせると、長い夜会服の裾を器用に捌いて不思議なお辞儀をした。
    「こんな感じで踊るんです」
     両手をとって。時には片手だけを繋いで彼女の身体は遠くに離れていく。
     行かないで、と心に念じたのと時を同じくしたかのように、再び彼女の身体はくるりと回転して元に戻ってくる。その間も、薄い絹で出来た夜会服の裾は、曲線が波打つように空間に残像を残す。
     最後にまた両手を繋いで、彼女が微笑んだ。
    「留学していた時にちょっとだけ。こんな風に踊るんですよ」
    「何だか不思議だけど、衣装の裾がひらひらして天女の羽衣ってこんな感じなのかな」
     何だかロマンチックですね、と彼女は僕の知らない言葉で言った。
    「それで、王子様って言うのは何?この世界で言う皇族みたいなもの?」
     ゆきは、しばし思案したあと言った。
    「そういう意味でもありますけど、私が想像しているのは、お姫様の危機を助けてくれる優しくて勇敢な男の人です。どんな時でも傍で勇気をくれるような」
    「何だか妬けるな。そんな男が現れたら勝てる気がしないよ」
     すると、彼女が無言で再び僕の両手を握った。
    「ゆき?」
    「私にとっては、十分リンドウさんは王子様です」
    「君、何言っているの」
    「だって、私の腕が消えてしまった時だって、運命に押し潰されそうになった時も、傍に居るって言ってくれて……守ってくれたじゃないですか」
     強く抱いて腕の中に閉じ込める。つむじあたりに顔を埋めて軽く口づけた後、畳ばりの居室の中に一脚だけ置いてある椅子に彼女を座らせた。
    「ありがとう……」
    「リンドウさん?」
    「やっぱり、君には洋装が似合うね。着物姿も綺麗だけれど、そうやって椅子に座っている姿を見ると、外国の絵画みたいだ」
     それは、彼女が紛う事無い異世界の住人であることを証明しているようだった。
     君は、僕を愛してくれているけれど、この世界は君にとっては本当の居場所じゃない。
    (今は、気付いていないだけかもしれないね……)
     この世界は、彼女にとって今は輝ける未来だけれど、いつか夢から醒めて、ここが自分を閉じ込める大きな鳥籠だと知るかもしれない。
    (一族も、僕も。彼女を引き止めようと必死になっているけれど、そんな星の一族の運命こそ永久に閉じられた籠の中なのかもしれないね)
     
     それならば朽ちるまで、永遠に幸せな籠の中で二人過ごしていけたらいい。
     
     差し込む夕日に照らされた、美しき龍神の神子の頬に口付けて告げる。
     
    「ねえ。落ち着いたら二人だけで婚儀をあげよう?どこか、静かなところで」
     
    「はい」
     彼女がはにかみながら応える。微笑んで瞑られた目尻に一粒の涙が光っていた。
     
    「嬉しいです」
      
    ***
     
     幼い頃飼っていた小鳥。
     心からの慈しみを持って、来る日も来る日も話しかけて世話をしていたけれど、ある日思ったんだ。
     
     小鳥は、幸せだろうか。
     この愛情は伝わっているのだろうか。
     
     結局、僕は小鳥の幸せが分からなくなって、空に放った。僕は悲しかったけれど、小鳥も悲しかっただろうか。

    【FIN】
     
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    凛花(おがわ)

    MOURNING■初期に書いたお話です。この頃のリンドウの描写は、割と弱気というか殊勝な感じですね。
    <作品メモ>
    2012年遙かなる時空の中で5風花記が発売された直後のイベントで出した「はじめから恋だった」という小説同人誌に収録しているお話です。本のタイトルは【確かに恋だった(http://have-a.chew.jp/on_me/top.html)】様のお題をお借りしたものです。
    掌の上なら懇願のキスクロスを敷かれたテーブルを挟んで、向側に座っているのは誰だったかしら?

    ふと、そんなことを考えた。

    広大な公園の中にある天井と壁の大半がガラス張りのティールームはゆったりと開放感のある空間で、存分に射し込む陽光は、まばらに置かれた観葉植物の葉をきらきらと光らせる。テーブル上でほんのりと汗をかくガラスの水差しの中は、まるで星屑を詰め込んだように大小の輝きで満たされていた。

    向かいの人物は、スッと伸びた脚を組み、手にした本を繰っている。指はほっそりと長く器用そうに見える。細い黒縁の眼鏡越しに見える瞳は長い睫毛が縁取っていた。
    第二ボタンまで緩めたシャツに紺のジャケットが良く似合って居る。
    少し見える鎖骨がいやらしくなることなく清潔感を保っているのは、育ちの良さが見てとれる姿勢とか、どこか洗練された所作のせいかもしれない。
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