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    ru_za18

    @ru_za18

    とうらぶやtwstのSSや小説を書いています。
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    11/5 「江華絢爛♡darling!!」

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    ru_za18

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    企画提出作品
    歴代最高位の審神者の孫である少女のお話。
    最後、軽く松さに

    捏造設定等あり
    刀剣破壊表現、軽い流血表現など暗い表現、お話になるので注意

    花弁も舞わない シャン、シャンと神楽鈴の音が鳴る。その中で膝を付き、頭を垂れた少女が一人。その少女に榊で作られた冠が乗せられる。それを合図だとでも言うように、そっと頭を上げた少女は、太陽のように笑った。
    「それでは、期待していますよ」
    「はい!祖父のように、素晴らしい審神者になれるよう努めます」
     かつて、歴代の審神者の中でも最高位だと崇められた審神者の孫。それが笑ってみせた少女だ。
     長らく存在を隠されていた少女を見つけた時の、時の政府の喜びようは凄まじいものであった。『あの審神者の孫なのだ』 『さぞかし素晴らしい才能を持っているのだろう』と時の政府のみでなく、他の審神者をも巻き込んだ噂が駆け巡った。そんな中で、笑みを崩さずに日々を過ごしていた少女は、なんとも自信に溢れていた。
    「私は、この続いている戦を終わらせたいの。……ううん、終わらせてみせる。だから、みんな一緒に頑張ってくれる?」
    「あぁ、任せろ」
    「そうじゃ!わしらに任せちょけ」
     皆が『是』と応えてくれる様子は、少女からすればさぞ心強かっただろう。
     ――一緒に戦ってくれる仲間がいるんだ!
     高揚する心に緩む頬。それは、間違いなく喜びから来るものだった。自らの刀剣男士の期待に応える為、そして捜索されていたという己の力を示す為に、少女は日々励んだ。出陣に遠征、演練、内番、実務。それらを、流石と言うべきか。舌を巻くような素晴らしいセンスでこなしていく様を、間近で見ていた刀剣男士達は実感していた。『主こそが、次に名を残す審神者だろう』と。それを、誰もが信じて疑わなかった。


    「え?発注されてないんですか?」
    「あぁ。何も来てないよ」
     審神者の任に付き、約一年が経っただろうか。そんなある日のこと。万屋へ、政府経由で頼んでいた備品を取りに行った。発注した際の注文番号を持ち、万屋へ行けば、先の通りだ。何も発注されていないという。けれど手元には、注文番号が記載された紙がカサリと音を立てて、存在を主張している。それに注文した際の画面には、到着予定日まで載っていたのだ。
     ――発注ミス、じゃないと思うんだけど……。
     とはいえ、届いていないのは事実だ。
    「んだぁ?発注し忘れか?」
    「わからない。……あの、ここで発注も出来ますか?」
    「出来るよ。聞こうか?」
    「はい。お願い致します」
     和泉守が横で見守る中、不思議に思いながらも万屋で発注して事なきを得る。『良かった』と思ったのも、その時のみ。
     この日から、おかしなことが始まった。何かを頼んでも、注文されていないという事が頻繁に起こり、ついには食糧や備品が届かなくなった。また、出陣した先では予定していた座標がずれたり、年代がずれることもしばしば。そして、果てには演練だ。
    「あなた、あのすごーい審神者の孫なんじゃないの?弱いったらないわ」
    「…………手合わせ、ありがとうございました」
     修行に出した男士達がいるとはいえ、少女が審神者の任に付き、まだ一年。だというのに、玄人とも呼べる審神者達と組まされるようになったのだ。幾度と政府や演練の受付で問い合わせをしたが、『それは現地での判断なので』 『あの審神者のお孫様なので、強い者と組むようにと指示があった』 『紙面での指示なので、誰から来たかはわからない』など、のらりくらりと逃げられてしまう。不当な扱いだということは、少女もわかっていた。けれど、歳を重ね、善も悪も備えた知恵のある先人達に比べて、少女は幼く、それらを躱す術など知り得なかった。
    「みんな……ごめんね……」
    「大丈夫だよ。さ、帰ったら畑で採れた物で美味しいご飯にしよう」
    「そうだぞ!光坊がこれから、主があっと驚くような飯を作ってくれるさ」
    「そうだね。鶴さんのご飯だけ、唐辛子をたくさん入れることにするよ」
    「なっ!悪い、光坊。許してくれ……」
     暗い気持ちを掬い上げてくれるようなやり取りに、笑みが浮かぶ。けれど、『最高位であった審神者の孫』という肩書が、少女の心にじわりじわりと重りを落としていった。どうしたって、また心は沈んでいく。
     ――今のままじゃ駄目。早く、追い付けるようにならなきゃ。
     審神者としての目標であり、誇りである祖父を思えば、なんとか気持ちを引き上げようと踏ん張れる気がした。『今日が駄目でも、明日なら』 『次はどうにかなるかもしれない』そう考えながら、幾度も幾度も鉛のようになっていく心を懸命に引き上げてきた。みんなと頑張れるのなら、どうにか出来るかもしれないと希望を持って――。


    「初期刀が……折れた……」
     希望が潰えたのは、その言葉を聞いたときだった。目の前に座る、先程まで出陣していた部隊達。そして、白い布の中には刀だったものの破片。恐る恐る手を伸ばし、触れた破片はひやりとしていた。
     ――いつだったかな。前に触らせて貰った時は、温かかったはずなのに。
     じわじわと目の前が滲んでいく。少女が落ち込んだ時、重圧に押し潰されそうになった時、いつも励ましてくれたのは彼だった。『よく頑張っている』 『そのままで良い』と言ってくれた言葉に、どんなに救われたか。
     そして、少女が彼をどれだけ大切に思っていたかを知っている他の男士達は、何も言えずに座り込むだけ。少女の頬を伝う涙が零れ落ちては、破片を濡らして伝い落ちる。まるで、お互いに離れてしまうのが悲しいのだと涙し合うように。
     初期刀の破片が埋められたのは、少女の部屋からよく見える中庭。少し盛り上がった土に刺さった木杭が目印だった。少女は、朝にそこで手を合わせる事が日課になった。そして、少しばかり話をするのだ。
     ――私は、これからどうしたら良いのかな……。
     共に歩み、導いてくれた彼はもういない。けれど、歩みを止めたくても、少女は変わらずに刀剣男士達を導かなければならない。少女は、審神者という責務を負っていたのだから。
    「主、ここにいたのかい?」
    「松井」
    「もう時間だよ」
    「わかった」
     後ろから聞こえた声に振り向けば、そこにいたのは松井だった。初期刀が折れてしまってから、実務を主に行っていた松井が、そのまま近侍を担うことになったのだ。だから、こうして執務が始まる時間だと少女を探しに来たのだが。
     座り込んでいたことで、お尻に付いてしまっていた土を払い、松井の横に立つ。少女を幼子と思っているのだろうか。少女の手を取り、引く姿はまるで仲の良い兄妹のように見えた。そして、この時ばかりは少女も心の安寧を得ていた。

     パキリと、何かが割れる音がするまでは――。

    「門の前に敵が来ているぞ!」
    「畑にもだ!」
    「誰かこっちに回れないかー」
     瞬く間に上がる男士達の声。それと共に聞こえる刃がぶつかる音、肉を断つ音、物が壊れる音。そして、一際高い音を立てる――刀が折れる音。
    「松井、救援を呼ぼう。早く執務室へ」
    「あぁ。僕が貴女を守る」
     少女は、震えそうになる手足を必死に抑え、気丈に見せる。
     ――すぐ側に、松井がいて良かった。
     そうでなければ、少女はおそらく呆然としていたことだろう。“刀剣男士達を導く”という決意のみで、己を奮い立たせた。
     松井と駆け込んだ執務室。ここへ到着するまでに幾度となく襲って来たのは、普段相手にしているよりも格段に強い時間遡行軍だった。松井は、言葉通り少女を守っていた。けれど、幾つもある傷から血が滴り、ぼろぼろになってしまった服を赤く染める。なんとも痛々しい姿だった。
    「ごめんね、松井。早く、救援を呼ぶから……」
    「ふふ、大丈夫だよ。主が傷付いていないならそれで良いんだ」
     『落ち着いて』と言うように、松井の手が添えられる。少女の手は、どうやらカタカタと震えていたらしい。困惑からなのか、恐怖からなのか。何故手が震えてしまうのか、少女はわからなかったが、ただ一つわかったのは手の温かさに焦る心が凪いでいくことだった。
    「……ごめん。ありがとう、松井」
     感謝を伝え、そのまま架電のボタンを押す。
     ――ひとまず、近くの審神者さんに……!
    けれど、いつもならすぐに通信画面へ変わるというのに、目の前の電子画面は何も変わらない。留守なのかもしれないと、他の審神者や時の政府にまで架電したが、一向に人が映る気配はない。
    「どうして……⁉」
     焦りから、ボタンを押す少女の指に力が入る。何度も何度も試すけれど、電子画面が映すのは無のみ。審神者が架電に応答しないことはあれど、時の政府が応答しないことは一度だって無かった。
     ――何が起こってるの?政府は何を……‼
     焦りから苛立ちに変わった感情を抱いたまま、もう一度政府への架電を試みれば、パチリと画面が切り替わる。『何をしていたのか』と文句が口を突いて出そうになったのに、ぴたりと留まった。
    「こんのすけ……?人は?誰かいないの?」
     画面に映っていたのが、政府の人間ではなくこんのすけだったからだ。普段、こんのすけが通信を行う役割は本丸によりけりだが、見かけることもある。けれど政府、特に今かけている部署に関しては火急を要する案件を受け持つ為、人間か所属の刀剣男士が受電を行う。だからこそ、普段と違う画面に驚きが隠せなかったのだ。
    「誰かがいれば、私は応答出来なかったでしょう」
    「どういうこと?」
    「……政府は、貴女を見捨てるつもりです」
     ガツンと頭を殴られたような衝撃が少女を襲った。審神者になってからというもの、戦で少女は成績を上げてきていたし、鍛刀に関しても成果は素晴らしいものだった。特命調査でも活躍したほどだ。切り捨てられる要素が見当たらない。そして、少女も考えつかなかった。言葉を無くした少女の代わりに、松井が言葉を投げる。
    「何故僕たちが見捨てられるのか、意味が分からないのだけれど。期待以上の成果は上げていたはずだよ」
    「審神者様自身に問題はありません。ただ……審神者であった、お祖父様との確執故です」
    「確執……?」
     こんのすけが教えてくれたのは、少女の祖父と政府上部との間にあった話だった。祖父が審神者として強い力を持った頃、提案を行った。『この戦いに関して、政府はサポートに徹し、刀剣男士を率いて前線に立つ審神者主導に切り替え、戦終結を目指すべきだ』と。
     だが、政府上部としてはそれが面白くなかった。“政府は指示する立場であり、審神者は従う存在”だと考えていたからだ。審神者の活躍次第で、至る所から政府へ資金も入る。だからこそ、審神者に勝手をされる訳にはいかない。そう考えていたが、その頃の審神者達は祖父を支持した。政府は、泣く泣く祖父に従わざるを得なかったのだ。
     時が経ち、祖父が亡くなった後、自分達が考えていた体制へと徐々に変えていった。そして、ある程度体制を変えた頃に、ふと思い立った人がいた。
    『あの審神者には子供がいたはずだ。あの審神者は強過ぎて手が出せなかったが、子供ならば好きに出来るのではないか』
     そうして捜索された末に見つかったのが少女であり、審神者として担がれたのだとこんのすけが語った。少女は、何も言葉が出てこなかった。頭が真っ白になったようで、考えが浮かばない。
    「……主は、政府に利用されたということかい?」
    「はい。『あの審神者の再来だ』と言って、周囲から資金を得ていました。それはもう、十分過ぎる程に……」
    「ほんなこつに腹かくばい……」
     松井の声が震え、握り締めた拳に力が籠もる。会話を流し聞きながら、ようやく少女の頭にちらほらと考えが過るようになってきた。初めに浮かんだのは、誰一人と応答することのなかった審神者のことだ。
    「じゃあ、審神者さん達は、どうして……受電してくれないんでしょうか」
    「お祖父様が素晴らしい審神者だったのと同時に、羨望されていたんです。特にその辺りの審神者様方には――」
    「何を話している‼」
    「っこんのすけ‼」
     一瞬、人の姿が見えたと思えば、ブチッと音を立てて画面は暗くなり、何も見えなくなってしまった。慌てて架電を入れたが、何も応答されることは無かった。
     ずっと、政府からの任務を祖父のようになる為だと励んできた少女。目標の為に、邁進してきたつもりだった。それがまさか、何もかも仕組まれていたことだと誰が知り得ようか。少なくとも、この本丸にいるものは誰も知らずにいた。
     いつからか物が届かなくなったのも、政府の仕業だったのだろう。そして、演練で玄人と呼ばれる審神者と組まされていたことも、助けを求めようと切り捨てることも。そして祖父に対する妬みから、新人同然の少女を傷付けた審神者達だってそうだ。
     ただ、一つ。少女に問うたとき、『自らのせいである』と言うならば。
    「グオォォォォ……」
     部屋に入ってきた、折れた刀達を握る時間遡行軍。折れてしまった彼等を守る力、また時間遡行軍を倒す程の力を持てなかったことだと答えるだろう。
     時間遡行軍の手にあるのは、少女が審神者になった当初、声をかけてくれた山姥切に陸奥守。そして少女一人では大変だろうと、荷物持ちに万屋へ少女と出掛けた和泉守。演練で落ち込む少女を励ましていた鶴丸、燭台切。みんなと交わした言葉、過ごした時間を思えば、目の奥がだんだん熱くなる。だが、彼等を思うと同時に追ってくる感情は、悔しさや怒り。
    「頑張ってきたのに……みんなの為にって……戦を、終わらせようって……‼政府の人達は、私を見てくれてなかった。他の審神者だってそう……」
     ――だから、私は彼等を守れなかったんだ。本丸以外の誰一人、仲間じゃなかったから。人を……信用しちゃいけなかった。
     見つけ出されるまで、人と触れ合う機会が少なかったこともあり、関われることが嬉しいと少女が審神者に就任した当初は思っていた。それが間違いだと早くに気付いていればと後悔しても、もう遅い。時間遡行軍がいるからと、悲痛の声を上げそうになるのを必死に耐え、それでも堪えきれずに膝から崩れ落ちる。
    「もう……私は…………」
    「……主。貴女が望むなら、僕が貴女の復讐の刃になるよ。僕は主の近侍だからね」
     ぼろぼろの姿でふわりと微笑む松井に、蹲りながらも恐る恐ると手を伸ばす。天使のような姿をしているというのに、少女に囁くのは悪魔の言葉だ。それでも、少女は手を伸ばさずにはいられなかった。ようやく届いた彼の手を少女はぎゅっと握り、真っ直ぐに見る。
    「……松井、私の霊力をどれだけ吸っても構わないから。だから、私達を見捨てた……仲間を殺した人達を、全部……全部壊しに行こう」
    「あぁ、敵は僕が屠る。貴女の血を流しはしないよ」
     少女から霊力が伝わっているのか、松井の身体がぼんやりと光る。そして一閃。ひらりと深緑の上着が舞ったと思えば、声もなく時間遡行軍は消えていた。刀達が時間遡行軍の手を離れ、金属がぶつかり合う音を立てて畳の上へ転がった。
     少女は、そっと折れた刀達のところへ近付き、拾い上げては抱き締めた。懺悔のようなそれに、松井もただ静かに見守る。
    「私が弱くて、ごめんね。もっと、一緒にいたかった……」
     もう届かない言葉達は、物音一つ聞こえない空気に溶けていく。しばらく続いた静寂の中、少女も松井もただただ刀達を見つめるだけ。
    「そろそろ、行こうか」
    「……うん。そうだね」
     抱き締めていた刀達をゆっくりと下ろし、丁寧に並べていく。そして、部屋の隅に飾ってあった羽織を刀達の上にかけた。少女のお気に入りの羽織。これを着れば、刀剣男士達は『よく似合う』と少女を褒めていた。少女と松井は、羽織の上から名残惜しそうに刀達を撫でる。
    「一緒に、連れて行けなくてごめんね。みんなの仇は取るよ」
    「主は僕が必ず守るから。だから……ゆっくり休んでほしい」
     刀達に声をかけ、しばらくした頃。別れの時だと、松井が少女の手を取る。
    「もう、引き返せないよ」
    「うん。わかってる」
     力強く頷き、松井を見る瞳の奥に灯るのは暗く濁った色の何か。燃やしてしまう炎なのか、沈めてしまう水流なのか、他者がわかることはないけれど。
    「何十年かかったとしても、やってみせる」
     決意を強く宿した少女の表情に満足したのか、松井は何処となく嬉しそうだった。その次の瞬間には花吹雪が舞い、残ったのは花弁が一枚。ただ少女等が消える直前、少女の霊力が――。


     紙の破れる音が静かな部屋に響く。バサリと本が投げ捨てられ、所々赤く染まった床を低めのヒールがコツコツ叩いていく。時々、ぴちゃりと赤色が靴に跳ねるも気に留めることなく、その“もの”は歩を進めていった。その“もの”の手にあるのは、数枚の破られた紙切れ。
    「主かい?……あぁ、貴女のことが書かれた頁は僕の手にあるよ。……主の言った通りだった。これで、貴女のことは誰も知り得ないだろうね」
     『すぐに戻るよ』と通信のボタンを切り、上着を上品に翻したかと思えば、コツリと鳴ったヒールの音を最後に何処かへ消えていった。

    「そう。やっぱり、政府なら記録として置いていると思ったの。……えぇ、待っているわ」
     そして、同時刻。同じく通信のボタンを切り、目の前で平伏したある審神者を冷たく見下ろす女性がいた。
    「あの時の威勢はどうしたのかしら?私を甚振って楽しかったんでしょう?」
    「ひっ……あ、その……」
     にこりと女性が微笑んでやれば、平伏した審神者はどんどんと青褪めていく。口を鯉のようにぱくぱくとさせ、声にならない。返答が無いことに興が冷めたのか、女性はすぐに冷ややかな表情に戻り、パチンと指を鳴らす。
    「やっちゃって」
    「あ……あぁ…………ど、して……検非違使が……っ」
     何も無い空間から現れたのは、検非違使達。女性の言葉に応じるように、刃を審神者に構えた。
    「私の霊力ね、色んなものに変化出来るの。審神者はもちろんだけれど、刀剣男士にも時間遡行軍にも検非違使にだってなれる」
     自らの本丸を離れた後、女性は己の霊力の性質に気付いた。審神者や刀剣男士、時間遡行軍、検非違使、こんのすけなどの霊力が微々たるものではあるけれど、違いがあること。そして、それらの違いに寸分違わず合わせられる霊力の性質に。
     この性質を自覚した後、女性は幼い頃を思い出した。外に出られないでいた子供の頃。おそらく、女性の祖父はこのことに気付いていた。だからこそ、女性は隠されていたのだ。
    「その検非違使達はね、私を仲間だと思っているの。仲間であり、部隊長だと」
    「そんな……」
    「貴方達のお陰よ。あのまま本丸にいれば、きっと気付かなかった。貴方達に復讐なんて出来ずに、ただただ辛酸を嘗めるだけだったでしょうね」
     助けを求める審神者の声を背に、女性はその場を離れていく。
     ――検非違使達が上手くやるわ。
     特に、今回女性が呼び出した検非違使は強い個体達だった。おそらく、鍛え上げた刀剣男士達でも厳しいだろう。けれど、あの審神者が勝つ可能性が少しでもあるならば。
    「貴方達も行って」
     確実に終わらせる為、検非違使達をもう一部隊送り込む。
     ――絶望した顔を見たい気もするけれど、壊れてしまうのならそれで良い。
     本丸の出口へ向かえば風が舞い、目の前に現れた彼は手に紙を持っている。
    「おかえりなさい」
    「ただいま。……こっちはどうかな?」
    「検非違使達を向かわせたの。とても良い感じ。これからが楽しみよ」
     笑う女性の表情は、念願に触れた喜びに満ちていた。その女性をエスコートするように手を取った彼はその表情に恍惚としている。
    「あぁ……良い表情だ……。頬も上気して素敵だよ」
    「貴方も嬉しそうね。さぁ、次のところを壊しに行きましょう」
    「主の思うままに」
     風鳴りがしたと思えば、二人の姿は跡形もなく消えていき、残ったのは検非違使達が本丸を蹂躙する音だけ。

     審神者とその付喪神で無くなった女性と彼に、薄桃の花弁が舞うことはなかった。
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