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    ru_za18

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    雲さに
    クリスマスに恋仲の主からお出かけを誘われたから、デートだと思ったら普通のお買い物でしょんぼりしてる雲さんのお話

    #雲さに
    inTheMidstOfClouds

    確かにそう言ってたけど「主、まだかかりそう?」
    「もうすぐ……もうすぐ決めるから……」
     横でうんうん言いながら悩んでいる主は、きらきらと陳列されているくりすますのけーきを見ている。右へ行っては悩み、決まりかけたと思えば左に行って誘惑にあう。そんなことを、ここに来てから何回も繰り返しているのだ。
     ――もうすぐって言っても、まだもうちょっとかかるだろうな。
     横でまた、あれもこれもと視線が動いている姿を見て、そう結論づける。
    「ちょっと向こうの椅子で待ってるね」
    「ごめん、村雲!すぐに向かうね」
     申し訳無さそうに謝る主に、文句を言うつもりはない。けれど、少なからず期待していただけに、何処か遣る瀬無い気持ちになるのは仕方がないのかもしれない。

    『買い物に行かない?』と主が声をかけてくれたのは、お昼頃のこと。色んな刀が集まる中で、のんびりとお茶を飲んでいた時の出来事だった。主の言葉が聞こえた途端に、部屋のざわめきが少し控えめになったものだから居た堪れない。
    「……お、俺?」
     そんな中で返せた言葉は、確認のもの。確かに俺と主は恋仲だ。けれど、まさか二束三文の俺を連れ出すと思っていなかったから――。けれど、主は満面の笑みでこちらを見ている。
    「うん、村雲だよ」
    「他の刀は……」
    「二人だけのつもりだったんだけど……」
     ――やばい。
     しょんぼりとした主に焦る。そんな顔の主が見たくなかったから。
    「今日はクリスマスだもん!村雲さんと主さん、二人でお買い物しておいでよ」
    「そうそう。村雲も、行きたくないわけじゃないでしょ?」
     けれど、俺が何かを言うよりも早くに助け舟が出された。乱と加州。どうしようかと思っていただけに、ほっとしてしまった。
    「う、うん……」
    「じゃ、用意してきてね。半刻したら主を玄関まで連れて行くからさ。主も、とびっきり可愛くしてあげるから行こ」
    「あ、ありがとう。村雲、後でね」
    「……うん」
     加州に連れられ、少し嬉しそうに手を振って部屋を後にした主。良かったと安堵すると同時に、いつだったか聞いた話を思い出す。聖夜は、恋仲のものたちが街に溢れる日だ、と――。
    「二人で買い物って……」
     そこまでを口に出せば、どうしたって意識はしてしまうもの。
     ――これって所謂、“でーと”ってやつじゃない?
     そう思えば、むくむくと込み上げてくる嬉しさに、どうしたって口の端が上を向く。
    「主!早く行こう」
    「村雲、まだ早いっての」
    「くぅん……」
     待ちきれず、主を迎えに行ったところで加州の呆れた声が響く。そんなやり取りをしながら本丸を出た時は、浮き足立っていた。それこそ、空でも飛べるんじゃないかって勢いで。けれど、現実は――。
    「本丸のみんなへの買い物なんだよな……」
     みんなで食べる為のお菓子やお肉にけーき。『みんな、喜んでくれると良いね』と笑う主を見て、こんな主を持てて幸せだと思う。不満なんてない。大好きな自慢の主だ。
     とはいえ、今日は聖夜。少しくらいそんな雰囲気があっても、等と思えども甘さなんて微塵も感じられない。
     ――仕方ない、よなぁ。ちゃんと買い物って言ってたし……。
     主はしっかりと伝えていた。それを俺が、勝手に勘違いしただけ。
    「ごめんね、村雲!お待たせ!」
    「ううん。良いの選べた?」
    「バッチリ!」
     嬉しそうにけーきの箱を掲げる主を、可愛いなと微笑ましく思う。それと同時に、けーきが最後の買い物だと言っていたから、もう終わりの時間が来てしまったことの寂しさが募っていく。
     ――仕方がない、仕方がない……。
     そう言い聞かせて、自分の気持ちを見ないように。少しでも主の役に立ちたくて、主の手にある荷物を持った。
    「じゃ、帰ろう」
     主に声をかけて、本丸への帰路へと付く――はずだった。くんと上着が引っ張られたのは、何処かに服を引っ掛けたわけじゃない。
    「……主?どうかした?」
     俺を止めたのは、他でもない主。何かあったのかと声をかければ、少し俯きながらぽそりと呟く。
    「待って。村雲に……まだ渡してないの」
     小さな手で差し出してくれたのは、手の平に乗りそうな箱。桃色で綺麗に包装されていて、期待にどきりと心臓が跳ねる。
    「これ……もしかして……」
    「うん。村雲にプレゼントだよ。……本丸だと、みんなの目があって渡しにくくて」
    『恥ずかしくて、村雲を連れ出しちゃった』と照れくさそうにしながら、贈り物を渡してくれた頬が赤らんでいるのは、寒さからか。それとも――。
    「俺……てっきり、今日はただの付き添いなんだと思ってた……」
    「そんなわけないよ!だって、村雲は私の彼氏なんだから」
     特別だと言うように。俺だけの特権だと言うように。腕を組んで寄り添ってくれる主に、ちょっと泣きそうだ。
    「え⁉どうしたの、村雲!大丈夫⁉」
     涙ぐんでしまったのがわかったのか、主は慌てて俺の方を向く。先程の甘さは何処へやら。甘いものから戸惑ったものまで、主の色んな表情を見ているのは、俺だけなんだってちょっと優越感。
    「……何もないよ。嬉しかっただけなんだ」
     片方の手に荷物を持ち替えて、空いた手で主の小さな手を握る。じんわりとした温かさが胸まで伝わっては広がっていく。
    「早く帰って、贈り物見たいなぁ」
    「目の前は駄目だよ⁉一人で見て!」
    「えー?どうしようかなー?」
    「もー!駄目なものは駄目!」
     先程よりも赤く染まった主を見ながら、今度こそ帰路についた。

     帰ったら俺も、主に贈り物渡さなきゃ。
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