酒のハナシ。『お酒が呑める良い場所を見つけた』だなんていうエースの口車に乗っかってデイビッド、ジェイク、フェリックスの3人が連れて来られたのは普段儀式で訪れるグレンベールだった。
｢…勝手に来て良かったのかな｣
｢だーいじょうぶ、前来た時もバレなかったから問題無いよ〜ん｣
若干不安そうなフェリックスに、エースはいつもの口調で飄々と笑ってピースサインをしてみせた。
｢というか、儀式以外でも来れるんだな此処…｣
｢…まぁ普通に考えたら来ようなんて思わねぇよな｣
まるでピクニックの様に愉しげに進むエースを先頭に3人は周囲を確認しながら着いていく。
｢はぁい到着〜っ！！｣
目的地に辿り着くとエースは嬉しそうに声を上げた。
そこは町の中心部にある酒場で、やはり儀式の度に訪れている建物だった。
｢やっぱ此処かよ｣
｢まぁそうだよね…｣
｢うぁ……｣
テーブルに突っ伏し最早オブジェと化している何処の誰かも分からない死体を横目に4人は部屋の奥へと進んでいく。
｢さぁみんな棚をよ〜く見て。ちゃ〜んとお酒置いてあるでしょ？｣
カウンターの前まで来たエースは声を弾ませて棚を指差す。見れば確かに其所には中身の入った酒瓶が並んでいて。
｢………マジかよ｣
｢ね？ね？こないだ来た時におじちゃん気付いちゃったんだよね〜｣
驚きを隠せないジェイクの肩を抱き寄せウザいくらいのドヤ顔でエースは言う。と、デイビッドはおもむろに棚の酒瓶を1つ手にしてラベルを眺めた。
｢問題は中身だろ｣
蓋を外しそっと香りを確かめてみる。間違いなく酒の様だが果たして味は一一デイビッドはそっと瓶の中身を少量口に含んでみた。
｢……へぇ、まさかこの森でこんな上等なモンが呑めるとはな…大丈夫だ、ちゃんとした酒だ｣
思わず顔を綻ばせて笑うデイビッドを見て心配そうに様子を窺っていたフェリックスは安堵のため息をついた。
｢そういえばデイビッドって酒詳しいよな？｣
｢あー、知り合いのパブで働いてたんだよ。そん時に必要に応じて覚えた｣
｢へ？デイヴちゃんそうなの？じゃあさ、もしかしてカクテルとか作れちゃう？｣
｢まぁ、多少は｣
｢うわぁすご〜い！！ねえねえバーテンさーん、なんか1杯作ってよー｣
｢なんかって何だよ…｣
｢んー、じゃあさ、おじちゃんに似合うオススメの1杯的なヤツをお願いしちゃおっかな｣
興奮気味にカウンター席の端っこに座ったエースは前のめりになりながら無邪気にデイビッドに懇願してくる。
｢オススメつったって…作れるもん限られてんぞ？｣
｢雰囲気だけでも良いんだよ〜、凝ったお酒呑ませてよデイヴちゃ〜ん…｣
呆れたように声を荒らげてみたもののエースの意志は固く、とうとう根負けしたデイビッドは諦念混じりの深いため息を吐いた。
｢しょうがねぇな…｣
だいたいにして少しの間バーテンダーをしてただけの自分に期待しすぎだろ、などと心の中で独りごちてデイビッドは棚に並んでいる酒瓶を吟味するようにもう一度見回した。西部劇にでてくるような、時代を感じさせる建物のクセに多種多様な酒と素材が揃っているのはやはりエンティティの気まぐれのせいなのだろうか。
｢…割となんでもあるな｣
思いつくままに何種類か酒瓶を並べ、慣れた手つきでシェーカーやらカップやマドラー、そして物色して見つけたグラスを用意する。
「ジェイくんとフェリくんは何にする〜？お願いするなら今の内だよ」
「そうだなぁ…せっかくだし私もオススメの1杯作ってもらおうかな。ジェイクは？」
「じゃあ俺も」
「バーテンさーん、おすすめ3杯でよろしくぅ〜っ」
陽気に勝手に注文を取り付けるエースに苦笑いしつつ、デイビッドは頭に浮かんだカクテルを作るべく作業に取り掛かった。