あなたをかたどる2022/1/13 #詩織_おはようhualianより
「三郎おはよう、これを見て!」
起きてすぐ、道観の前でしゃがみ込んでいる貴方に呼ばれた。近付いてみると、誰かさんを思い出させるような姿をした雪だるまが二つ。
「村の子達が作ったみたいだ。可愛いな」
「うん、将来有望だね」
くすくすと軽口を叩き合う。今日も良い朝だ。
◇ ◇ ◇
2023/1/15 四季織り_おはようhualian_after story
「三郎おはよう、こっちを見てくれ!」
厨房で朝食の準備をしていると、いつだかと同じように謝憐に呼ばれた。
謝憐の呼ばれたのだから其方に行かない筈もない。包丁とまな板を少し避けて、花城はすぐに愛する人の元へと向かう。
「村の子たちが作ったみたいなんだ。ふふ、去年の今頃もこんなことがあったような気がするな」
ふたりを思い出すような形をした雪だるまが、粉のようにぱらぱらと舞う雪の中で静かに寄り添い合っていた。それを真似るという訳でもないけれど、花城は後ろからじゃれつくように謝憐へ抱きつく。花城の毛先が頬を掠めると、謝憐はくすぐったいよと笑いながら胴体に回された腕に手を添えてくれた。
「将来有望だね、って言った気がする」
「そういえばそうだったな。ところで、」
これは君がやったな? と嬉しいような照れているような、そんな表情で口元を引きつらせている謝憐が指さしたのは道観から出てすぐの所にある巨大な雪像。何のことかとあくまでも白を切る花城に、謝憐は「あのなあ」と前置きしてから確認を始める。
「どうみても花冠武神の像だろう、これ。雪の断面は鋭利な刃物で整えない限りこうはならないし、私と全く同じ背丈の雪像なんて子供達には作れない。こんな精巧な雪像、君じゃなかったら誰が作れるって言うんだ?」
夜の間に少し道観を抜け出して雪像づくりに明け暮れていた事は見通されているらしかった。それなら仕方ない、と雪像に近付いた花城は、唯一「雪で出来ていないもの」をそっと抜き取って謝憐の方に差し出してくる。
「花を、」
一輪の花を謝憐は当たり前のように受け取った。しょうがないなあと今にも声が聞こえてきそうだったけれど、そんな事も無く、謝憐はふわりと笑みを浮かべたままその花を花城の髪にさす。
「白い花だから、白い服の私よりも君の方が色合いは良い気がするな」
「……じゃあ、こうしようか」
「えっ」
ぎゅっと抱きしめられて、謝憐の身体はすっぽりと花城の外套の中に隠されてしまった。紅色の外套が白い道衣を完全に覆い隠してしまい、口角を吊り上げた花城は謝憐がさしてくれた花ではなく、何処かに隠し持っていたのかもう一輪を手渡してくれる。
「これで、兄さんにも白い花が映える」
「しかも……こうしていれば暖かい?」
「大正解」
◇ ◇ ◇
おまけ 年越し(要素はあまりない)忘羨
「……魏嬰。魏嬰、起きて」
「ん~……ん?」
「もうすぐ年明けだ。起こして欲しい、と君に言われていた」
「なんだよ藍湛、もうちょっとだけ寝ても」
「君が自分で「二度寝させないように」と言ったから駄目だ」
「はいはい、起きるってば。ったく、俺の旦那様は容赦が無い」
揶揄う為に口にした旦那、の二文字に、魏無羨の頬を撫でていた藍忘機の手が震えた。案の定ちらりと見上げた藍忘機の顔は「うれしい」とそのまま書いてあるような表情を浮かべていて、何だか魏無羨まで心がむず痒くなる。揶揄いがいがあるけれど、本当のことで揶揄っても藍忘機は魏無羨からもらえる言葉なら嬉しいようでやりづらいのも事実。恋だとか愛だとか、そんなものを抜きにしても、随分と絆されたなと思う。
「俺は最近、考えるよ。多分お前が思うよりもずっと、俺は俺の白菜ちゃんが大好きなんだ」
「うん」
「うんって……そこは「私も、君が思うよりもずっと君を愛している」とか言う所じゃないのか?」
知ってるから別にわざわざ言葉にしなくても良いけどさあ、と言いながら、魏無羨は寝ている間にはだけた服を整えていく。後ろの方は藍忘機が静かな手つきで修正してくれる──出来栄えは、もちろん其方のほうが綺麗になった。何でもできる旦那様だ、つくづく思う。
此処での年越しはいつだって静かだ。静かだけれど、嫌いな静寂ではない。昔は退屈だの息が詰まるだの言っていたけれど今となっては──ああ、それは、此処というよりも。何だか可笑しくなってきて、魏無羨は整えたばかりの服がまた乱れるのも構わずに藍忘機へと飛びついた。突然の動きにも驚いた顔一つせず受け止めてくれる両腕に声を上げて笑いながら、性急な口付けを交わす。この胸に燃える激情を分け与えるようにと。
「魏嬰、私はわざわざ言葉にしなくとも良い、とは思っていない」
「ん? ああ、さっきの話か」
「私は口下手だ」
「そうだな」
即答したからってむっとするなよ、男前が台無し……にならないのが少し腹立たしいな、お前。
「君を大切に思う気持ちが軽い言葉になってしまわないように、言葉を選ぶ時間が必要なだけだ」
「……お前、俺の事が好きすぎやしないか?」
「うん」
真面目な顔で頷かれてしまうと魏無羨の方が照れくさくなってくる。がしがしと頭を掻いて、魏無羨は藍忘機の胸元に顔を寄せた。鼓動の音が心地よい。
「魏嬰。君と共にいられるこの日々が、君に触れられるこの時間が、君と笑い、君と歩むことのできる全てが、私は愛おしい」
──君が思うよりも、ずっと、ずっと。
藍忘機の膝の上から見上げた夜空は眩いばかりに星が輝いていて、静かな藍忘機の声はこれ以上ないくらいに魏無羨の心臓を揺らす。何か、問いの内容もよくわからないのに答えのようなものを手に入れた気がして、魏無羨は吐息を零すように微かな、それでも確かに空気を震わせるような笑みを浮かべた。
頷くのは癪な気もして、ただ一言。
「知ってる」
きっと「愛してる」よりも遥かに、その四文字は藍忘機のために在る。