君をあらわす二文字アベルの部屋を訪れると机に向かいなんだか思い悩む様子の彼にアビスは声をかけた。
「アベル様、何か悩んでいらっしゃいますか」
「アビス」
振り返ったアベルはアビスの顔をじっと見つめる。私に関することだろうか、とアビスは少しだけ不安になった。
「……君を形容する言葉を悩んでいる」
それをきいて合点がいった。何かの記事にするとかでアビスにも同様にアベルや他の級友への質問が数日前にきていた。回答期限まではまだ日があったがアビス自身依頼を受けたその日に全ての欄を埋めて提出したのでアベルがいまだ悩んでることは少し意外だった。
「不特定多数の者の目に触れる媒体に恋人、と書くのは違うだろう。アビスとの関係を他の者と同じく級友や友人と形容するのは嫌だし、となると君を形容する言葉はなんだろうね」
「道具、ではだめですか?」
以前アベルに与えられた役割を提案するとまたアベルはじっとアビスを見つめた。
「たしかに君に僕の道具になるよう命じたのは僕だけど……今の君との関係がある上で君を物のように形容するのは僕にも抵抗がある」
「そうでしょうか」
誰からも必要とされてこなかったアビスにとってレアンの長であるアベルにみずからの道具として働くよう役目を与えられたことは純粋に喜ばしいことだった。与えられた『アベルの道具』という役目があったからアベルの側いることを許され、現在の彼との関係があっても変わらずアベルの為に働くことは好ましいことだった。だからアベルが自分を形容する名称に思い悩んでいるとは思いもしなかったが、アベルが自分のことを考えてくれていることは単純に嬉しかった。
「私はあなたの所有物のように形容されることはいまだに嬉しいですよ」
「かといって道具、と書くのはなんだか無機質で冷たくないだろうか」
「そうでしょうか……私にとってはあなたとの出会いを思い出して暖かくなる言葉ですけど」
アベルはまた少し考えているようだった。
「君は僕になんと書かれたい?」
「貴方の道具と。私だけにアベル様が与えてくださった役目ですから」
それに恋人と書かれてしまうのは私も少し恥ずかしいですし、そう付け加えてはにかむアビスに彼が望むならそれでもいいかとアベルは思う。唯一残った空欄を埋めると忘れぬうちに提出するべく立ち上がった。提出ついでにお茶にしようとアビスを誘って部屋を出る。
廊下を連れ立って歩きながらアベルはふと気になったことを口にした。
「ちなみに君は僕の欄に何と書いたんだい」
「崇拝、と書きました」
「君ね……」
「だめだったでしょうか」
「次は一度僕に相談してくれ」