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    wonka

    とりあえずマシュおいとく用
    ステ新規/アベとアビ左右不問

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    wonka

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    小説版3巻バレあり/主従以上CP未満

    想いあい、すれ違いside:Abyss
    もっと強くならねば、アベル様を守ることが、アベル様の役に立つことができない。
    セルから与えられた魔力の濃縮液を七魔牙マギアルプスで唯一全て受けとめ人為的ではあるが三本線となったアベル。本来なら自分達も同様に力を得てアベルの目的のため血肉にならねばならなかったのに、私達の能力ではそれすら叶わなかった。アベルのために集ったにも関わらずただその悪魔の力を一人身に受けるべく自らの手で注射器を首に突き立てるアベルをただ見ていることしかできなかった。そんな自分にアビスは酷くもどかしくまたその身を情けなく思った。深い闇の底から救い出してくれたアベルにどうしたら報いることができるだろう。持って生まれた能力は簡単に変えることができない。魔力の濃縮液ですら全てを受け切る器を持たないなら振るう剣の腕を少しでも磨くことしかアビスは思いつかなかった。
    「アビス」
    「アベル様……」
    「もう夜も深い、そのへんにしたらどうだ」
    アベルからの命令とまだ足りないと感じる自分の気持ちに迷い答えを言い淀んでしまった。
    「最近の君は少し、負荷をかけすぎな気がする」
    アベルの言葉に肉刺が潰れ血が滲んだ手のひらをそっと後ろに隠した。人形のように感情の見えぬ表情を湛えながらも配下のそんなところまでこの人は見抜いているのかとアビスは改めて感嘆した。けれど今はその気持ちが逆に酷くもどかしい。
    「もう少しだけ、そうしたら戻ります。気にかけて頂きありがとうございます」
    努めて普段通りに口にする。アベルはまだ何か言いたげではあったがそうか、とひとつ返事をするとそのまま踵を返した。去っていくアベルに安心したはずなのになんとなく彼に嘘をついてしまったようで心はざわりと凪いている。剣を握り返すと忘れていた傷がじくりとまた痛んだ。




    side:Abel
    アベルが無邪気な淵源イノセントゼロによって三本目の痣を手に入れた頃からアビスの様子がおかしいことには気づいていた。剣の鍛錬に出て戻ってくる時間が以前より遅くなった。夜な夜な一人剣を振るう姿は何か思い詰めてるようでもあった。
    やんわりと咎めてもいつもアベルに従順なアビスにしてはめずらしく首を縦に振らずそうなるとアベルには為す術もない。夜遅くまで人知れず剣を振るう日々のなかでもアビスは日中の学業もそれまでと変わらず疎かにすることはなかった。明らかにオーバーワークだと感じながらもアビスにはアビスなりの信念があるのならばアベルが多く口を出す権利はそこにはないと感じていた。
    ある時寮の談話室の隅にアビスの姿を見かけた。11階にある談話室では普段人目を避けているアビスの姿も見かけることがあった。机に広げられた課題を視界に入れつつもしかし感じた違和感に側へ寄るとペンを握ったまま眠ってしまっているようだった。共有スペースで気を抜いた姿を見せることなどほとんどないアビスのその姿にめずらしさを感じながらも日中の生活を変えず夜に鍛錬を増やせば体が持たないだろう。近づくと眠るアビスの手からペンが転がり落ちた。ペンが離れたことで柔く開かれた手のひらがアベルの視界に入る。そこからはアビスの白く綺麗な肌には見合わない肉刺とそれが潰れ破けた皮そこから赤くなった傷痕がいくつも覗いていた。アベルはぎょっとしてアビス起こさないようにそっとその手を開く。傷は指の方にも続き見ているだけで痛々しい。ここまでになるほどに鍛錬を続けるアビスが何を思い詰めてるのかアベルには分からなかった。アビスの手のひらを親指でなぞる。さらりとした手の甲とは比べものにならないほどがさがさとした肉刺や傷痕がアベルの指先に引っかかった。まだ眠るアビスを起こさないようにそして目覚めた彼に気づかれないように出力を弱めて治癒の魔法を施す。アビスを思う気持ちはあれど、なによりもアベル自身がこの痛々しい手のひらに耐えられなかった。




    side:Abyss
    どんなに鍛錬を重ねても結局アビスはアドラの新入生すら止めることができなかった。そして勿論セルにだって。セルの攻撃からその身を盾にしてアベルを庇うのみでどこまでも役立たずな自分と自分の弱さにその身を貫かれながら落胆した。マッシュのおかげでアベル共々運良く生きながらえたものの無邪気な淵源の力を借りたことは学園の知る事となり処罰を受けた。あのときすべきは共に力を得ることでも力を得たアベルのために剣の腕を磨くことでもなくそもそもアベルを止めることだったのだとようやく冷えた頭で理解したが時はすでに遅い。
    七魔牙自体が解散となってもアビスは変わらずアベルの側に仕えることを選んだ。選んだというよりアビスにそれ以外の選択肢は端からなかったが。
    自分を拾い上げてくれたアベルのために何ができるだろうか。魔力や持って生まれたもので敵わなくとも何か、ないだろうか。そんな思いを募らせるうちアベルことを眺めている時間が増えていった。だから気づいてしまった。
    アベルに声を掛けられ第二魔牙セカンドとなったことはアビスの矜持であったがアベルにとっては別段と特別なことではなかったのかもしれないと。目のこともあり密やかに生きていたアビスにとってアベルに見出されその地位を与えられたことは人生のうち一番と言ってもいい程の幸福で誇れることだった。だからこそそんなつもりはなかったが気づかぬうちにその地位に甘んじていたのかもしれない。
    アベルは自身の目的の達成だけでなく監督生の責務として寮生のこともよく気にかけていた。実際に声をかけることも多くありその冷ややかな見た目に反して監督生として広く寮生に関わっていることを知った。それを知りアベルに声をかけられ見出されたことで何か特別なものをもらったように喜んでいた自分を酷く恥ずかしく思った。事実二番手の地位を与えられたってアベルには何もかも敵わないのに。
    あの人の特別になりたい。いつのまにかそう思うようになってしまった。それはただ生きることに精一杯だったアビスにとって今まで持つことのなかった気持ちだった。同時に浅ましい自分の願望に絶望した。アベルにとっては取るに足らないことだったかもしれないのにそんなことに舞い上がって。それでも生まれてしまった気持ちはなかなか消し去ることはできない。せめて今よりも彼の役に立つ存在になりたかった。アビスの脳裏にはずっとあの日セルから受け取った注射器をひとり静かにその首に突き立てるアベルの姿が焼き付いていた。




    side:Abel
    あれからアビスの様子はやはり少しおかしい。過度な鍛錬は変わることなくさらに普段の態度にもどこか違和感があった。事あるごとにアベルのことを賛美するような発言をしていた彼がそれをしなくなった。アビスの好きにはさせていたけれどアベルとしては少し恥ずかしい気持ちがあったからそれはそれとして、しかしながら急に態度を変えたアビスの様子には先日からのこともあり心配な気持ちが募る。真面目さゆえに考え過ぎてしまうことがある彼だからまた何か一人で考えを拗らせているのかもしれない。
    マッシュやセルとの一件があったあとも変わらず側にいてくれるアビスの存在には口にしてこそいなかったがアベル自身大いに救われていた。手を出してはいけない力にまで頼り三本目の痣を手に入れたにも関わらずマッシュに敗北し、あっさりとアベルは弱者となった。失望し見放されても仕方ないとアベルさえ自分自身に思っていたし、セルに用済みだと殺されそうになってもそれすら諦めの境地で受け入れようと思った。そんなアベルをアビスはその身を挺して庇った。自分のことは二の次でいつだってアベルのためにその身を差し出すアビスによってアベルの価値観は変えられた。そしてその端正な顔に見合わず無鉄砲すぎるアビスを彼自身がその身を大切にしない分、大事にしてやりたいと感じていた。だから、また何か思い詰めているのだとしたら取り返しがつかなくなる前に止めなければ。あの時だって命が助かったのは奇跡に近いのだから。
    それにしてもあんなにも尊敬だ敬愛だとアベルはのことを恥ずかしげもなく讃えていたアビスがそれをしなくなったのは何故か。アベルはひとり考えていた。単純にもうアベルに対してそういった好意をなくしてしまったのか。マッシュに負けた時は全てを諦め、手放し、それでもいいと思っていたのに今アビスに愛想をつかされるのは少し寂しいと思った。




    side:Abyss
    アベル様の特別になりたい。
    そう思ってしまってからアベルに以前のように好意を伝えるのが怖くなった。純粋に従者として日々かけていた賛辞のなかにこの邪な気持ちがまぎれてしまいそうで、それがアベルに伝わってしまったらと思うと今までどうやってアベルを讃えていたのか急にわからなくなった。だって困るだろうアベルだって。ただ目的のために集めた者に特別な感情を向けられても。そして何よりアベルために成果を出すことがアビスにはできなかったのに。アベルのその強い信念の元になった彼のお母様に似て慈悲深いアベルは役に立たない剣をいまだ側においてくださっている。いつまでもその慈悲に甘えているわけにはいかなかった。変わらずその晩も剣を振るった。焦る気持ちに体がついていかないのを感じる。潰れた肉刺の痛みに思わず握る力が緩んだ剣がその手からこぼれ視界の端にとんでいった。その行先をまだ追うとそこにはアベルの姿があった。アビスが驚愕して立ち尽くしているとアベルはそっとアビスの剣を拾いあげた。





    side:Abel
    アビスが日々鍛錬に使っている場所に足を運ぶと以前来た時と変わらずそこに彼は居た。アベルの気配に気づかないほどに鍛錬に打ち込むアビスを見てまた不安になった。周りが見えなくなったまま続けてもきっと良いことはない。少しだけ魔法を使いその剣を操る。思ったようにこちらに飛んできた彼の剣を拾い上げた。その柄には血の色が滲んでいて思わず顔を顰めていると駆け寄ってきたアビスが目の前で立ち尽くしていた。疲労を色濃く映したその顔のなかには戸惑いの色が滲む。
    「アベル様……」
    「アビス、なぜここまで身を削る。君はいま何に駆られてるの」
    一人だからか仮面も包帯もしていないその素顔をひさしぶりに真正面から見た気がした。大きな瞳を彷徨わせて意を決したようにアビスは口を開いた。
    「……あなたの役に立ちたい」
    「君の存在にはもう充分助けられているよ」
    でも、と言い淀むアビスは顔を伏せてしまい目が合わない。アビスの表情を窺い知ることができないまま聞き逃しそうな小さな声でアビスから言葉が漏れた。
    「あのときあなた一人に全て背負わせてしまった」
    それなのに役に立つことすらできない自分を恨んでいるとアビスは続けた。そんなこと、と思う。セルから濃縮液を受け取りこの体内に受けたのはアベルの意思だ。アベル自身の目的のために手を出した力なのだから結果としてアベルだけが力を得たにせよまずは自身がリスクを負うことは当たり前だと思っていた。七魔牙だってそうだ。アベルの目的のためにメンバーを集め結果すべてをマッシュに奪われ解散した。アベルに連なって学園からの処罰も与えられ、巻き込んでしまった彼らに恨まれることはあってもこの結果を彼らが気に病むことではない。
    「元々僕の目的のために君たちを集めたんだ。事の責任を僕が取るのは当たり前のことだ」
    「それでも……」
    食い下がるアビスは何故そんなにも申し訳なさそうにしているのかアベルにはわからない。
    「アビスは罪悪感から僕の側に居てくれるの?」
    「っ違います……!」
    しおらしかったアビスががばりと顔をあげた。
    「私は、私の意志であなたの側にお仕えしたいと……それは罪悪感や贖罪を伴うものではありません」
    「アビスは真面目だから悪いと思って僕の側に居続けてくれるのかなと思うときがある。もう七魔牙は解散した。だから僕に君を縛る権利はないよ。僕が君達に謝罪することはあっても君達やアビスが僕に悪かったと思うことはなにひとつない」
    君の思うように過ごしてほしい。それでアビスが離れていってしまっても、悲しいがアベルに止める権利はない。
    「アベル様が、嫌でなければ私はこれからもあなたの隣にいたい……何もできない私ですが許されるならあなたの側にいたい」
    自分で言っておいてアビスが離れていく想像をしもやもやと暗い気持ちが渦巻いていたアベルはアビスの発言にひどく安心した。こんなにもアビスが側に居てくれることにアベルは救われているというのに。命を投げ捨てようとしてまでアベルのことを庇って置きながら何もできないと曰うアビスにその目をしっかり捉えてアベルは言った。
    「僕は君の存在に救われているよ」
    アビスの非対称の瞳が大きく揺れる。
    「君は今のままでいい、君の存在そのものに救われている。嘘は言わない。信じてくれると、嬉しい」
    いつも言葉が足りない自覚はある、思っているだけでは伝わらないと気づいたからアベルはそのままを口にした。
    「……はい」
    「うん、ありがとうアビス。僕の側にいてくれて、これからも君が隣にいてくれることを願うよ」
    アビスはその瞳に涙を溜めながらもはっきりと答えた。
    「もちろんです」
    アビスの目からついに溢れた涙をアベルはその手で拭ってやった。




    寮部屋に戻る道中アベルはアビスに持ちかける。
    「しばらく夜の鍛錬は休まないか」
    「でも、」
    「君の手は鍛錬を続けていい状態ではないと思うよ」
    咄嗟に手を隠そうとするアビスの手をとる。
    「気づいてたんですね……」
    「結構前からね」
    「あの、アベル様の手が汚れてしまいますし、その、触れていて気分の良いものではないと思うので」
    アベルの手のひらから逃げ出そうとするアビスの手を逃さぬよう傷に障らないように握り直す。
    「僕は構わないけれど、手を握って君が痛みを感じるのは困る。だからこの手が治るまでは休んで」
    う、と息が漏れるのみで了承の返事が返ってこないアビスに続ける。
    「かわりに夜は僕と話をしよう。またこうやってすれ違わないように君の思ってることを話して。僕も君ともっと話がしたい」
    少しだけ顔を赤くしたアビスからようやくはい、と返ってきた返事にアベルはその手を優しく握り直した。


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