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    wonka

    とりあえずマシュおいとく用
    ステ新規/アベとアビ左右不問

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    wonka

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    アベアビ/アビアベ

    egoistアビスにとってこの世界は決して良いものではなかっただろう。そんな彼をこの世界に引き止めてしまったことはアベルのエゴだったかもしれない。咄嗟のことではあったがあのままアビスを失いたくなかった。母を失ってから目的のために他者を傷つけることも、排除すると決めた存在の命を結果として絶つことになろうとも何も思わなかった。それでいいとすら思っていた。アビスだってそうだ。あくまで利用価値のある道具として側に置いた。それだけの存在だったのに。目の前で失われようとしている彼の命をそのままにしておけなかった。結局自分で決めた命の優劣すら破りただのアベル・ウォーカーとしての我儘だけでアビスのことを助けた。
    病院で処置をされたアビスはあれからまだ目覚めない。しばらくは絶対安静だと伝えられたがそれでももう目を覚まして良い頃合いだと医者は言っていた。もう目覚めたくないのだろうか、ふと眠り続けるアビスの顔を眺めながらアベルは思った。助けてほしかったなんてアビスは思っていなかったかもしれない。マッシュが言ったようにアビスにとっては生きているのも辛いこの世界なのに。

    翌日もその翌日もアビスは目覚めなかった。
    アビスがこの世界に戻ってきたくないのならそれでも良いと思う反面このままもう二度と彼が目覚めなかったらと思うとアビスが目の前で血塗れなったあの瞬間よりもこわくなった。白磁のような肌は透けてしまいそうでふと不安になり点滴に繋がれた手に恐る恐る触れる。僅かな温かさを持った体温にアベルはひどく安心した。
    その翌日もアベルはアビスの手に触れた。自身の不安を和らげるために、彼が生きていることを実感するために。それすらも自分勝手な行為だと自覚しながらも不安に揺れる心を落ち着けるにはそうするしかなかった。ふと、重ねた手が僅かに動いた気がした。
    「アビス……」
    思わず名を呼ぶと睫毛が震え瞼が開く。ぼんやりとした様子のアビスにもう一度声をかけた。
    「アビス」
    アビスの非対称の目がこちらを向いた。
    「……アベル、さま」
    アビスと目が合うのも自分の名をその声で呼ばれることもとても久しぶりな気がした。そう思っていると視界がぼやけアベルが自分であっ、と思う前にそれは雫となって頬を伝った。
    「アベル様、泣かないで」
    人前で泣いたことなどなかった。母が亡くなってこの世界を変えると決め、七魔牙の長になってから彼らの前では一度も。目覚めて早々に目の前で泣き出す男にアビスだって戸惑うだろう。起き上がれないながらも不安げにこちらを伺う様子のアビスの手に少しだけ力を込める。
    「すまない」
    アベルが落ちる涙を止めるまでアビスは何も言わずに静かに様子を伺ってるようだったが、その時ばかりはその沈黙がありがたかった。
    「私、生きてるんですね」
    ようやく落ち着いたアベルにアビスはぽつりと溢した。
    「死んだのかと思いました。最後にあなたの幻覚を見てるのかと。でもアベル様の手が温かいから」
    重ねていた手が返されたかと思うと柔く握られた。アベルの体温を確かめるようにアビスの指先が手のひらを伝う。それからまた黙ってしまったアビスにアベルはまた不安になった。
    「君をこの世に引き止めたのは僕だ。あのとき何もしなければ、君が願ったように僕だけ逃げていれば君は間違いなく死んでいた」
    独白のように話し始めたアベルの声を遮ることなくアビスはただ静かに聞いていた。
    「君が眠っている間もしかしたら僕の行動は君が望むものではなかったのではないかと考えていた」
    「……私を生かしたことをですか」
    その問いに頷くのはなんだかとても嫌な気がした。アベルは決してアビスを助けたことを、生かしたことを後悔しているわけではなかったから。しかしアベルが考えていたことを簡潔に言えばその通りなのは間違いない。答えぬアベルを咎めることもなくアビスは続けた。
    「私は、あそこで死んでも別に構わなかったです」
    アビスの物言いに胸の奥がぎゅうと疼く。考えていたことではあるが実際にアビスの口からそう言われることはなかなかに堪え難かった。
    「あの瞬間に間に合ったことを幸せだと思いました。私に価値を与えてくれたあなたを守れた。最期にあなたのためになれたのならば充分でした」
    アビスの目はこちらを見ない。ぼんやりと天井を見つめたままだ。
    「でもアベル様が私をこの世に引き止めてくれたんですよね」
    「ああ」
    「自惚れてもいいのならば……まだ私を必要としてくださったと思ってもいいでしょうか」
    「自惚れなんかじゃないさ、君が必要だよ」
    こちらに視線を移したアビスとやっと目が合う。
    「君を、道具だと思っていたことは事実だ。それは否定しない。目的のために犠牲が出ることも構わなかった、どんな犠牲を払ってでも世界を作り変えることが僕の果たしたいことだった」
    これは懺悔だ、そう思った。
    「それなのにあのときの僕は……ただ僕個人のエゴだけで君を失うことを拒んで手を出した。僕の目的のためにその身を捧げると言ってくれた君の意志すら無視をした行為だ」
    「……アベル様は私を助けたことを後悔していますか?」
    「してないよ。君が戻ってきてくれたことに感謝している。それでも組織を率いるものとして私情を挟んだことは間違いない」
    「それでもいいじゃないですか」
    自分で決めたことすらその意志すら貫けなかったことを罵られても仕方ない。むしろそうしてくれた方がいいと思っていたアベルに返ってきたのはあっけらかんとした言葉だった。
    「死んでもよかったのは本当です。でもどんな理由でもあなたが必要としてくださるなら私はもう少し生きていてもいいかなと思えるんです。身勝手なエゴだって構わない、世界に拒まれた私でもあなたが必要としてくださるなら、私はまだこの世界に在ります」
    アベルを見つめるその瞳の奥には先ほどとは違い強い意志が伺えた。
    「だから、そんな顔をしないで」
    「……アビス」
    「そのかわり、いらなくなったらちゃんと殺してくださいね」
    「僕にその権利をくれるの」
    「ええ、あなたに呼び戻された命です。あなたに必要とされないなら生きてる意味がありませんから」
    「……わかった。そのかわりそれまでは勝手に命を散らさないで」
    アビスはそこで少し難しい顔をした。
    「……善処します」
    「約束してくれないと困る」
    きっとまたアビスは無茶をする。アベルのために死んでもいいなどと言う彼だ。だからこそ拘束性がないとしても約束させたかった。
    「わかりました」
    じっと見つめ返すと観念したのかようやく了承の返事をしたアビスにアベルは静かに息を吐く。組織を率いるものとして作ってきた体裁も大義名分も何もかも捨ててただの我儘ばかりだと自覚しながらもそれでアビスをこの世に引き止められるなら構わないと思った。
    いつかアベルが願わなくてもアビスが生きていたいと思える世界をこの手で叶えられるだろうか。母の死によって作り変えようとした世界の構想は間違っていたとマッシュの手で霧散した。どうせ元の目的はなくなってしまったのだから次は少しだけ我儘な理由でも良い気がした。
    アビスを見やると話し疲れたのかまた静かに寝息を立てていた。もうその眠る顔に不安は覚えない。
    「おやすみアビス」
    繋いだままの手は温かかった。
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