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    komugi819

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    komugi819

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    GOOD NIGHT SWEETHEART『──今日の天気は快晴となるでしょう』
     気象キャスターが爽やかな笑顔で指し示した日本列島の地図は北から南まで晴れマークが並んでいた。ロディはマグカップに注がれたコーヒーを飲みながら、眺めていたテレビから窓の外に視線を移す。連日続いた雨が嘘のように陽光が街に降り注ぎ、雲ひとつない青空に目を細めた。
    (溜まっていた洗濯物でも干して、買い物にでも行くか)
     休日をどう過ごすか思考を巡らせながらトーストにかぶりつく。ゆっくり丁寧に咀嚼しつつ天気予報からヒーローコーナーへと変わった番組をぼんやり眺めていると、ニュース速報のテロップが流れた。スタジオに生放送ならではの緊張感が走る中、アナウンサーは急遽渡された原稿を極めて冷静に読み上げる。
    『一般市民十三名を人質に立てこもっていた敵がヒーローショートとデクの活躍により確保されたとの情報が入ってきました。現場から中継です──』
     昨晩、緊急の要請で現場へ向かって行った恋人の背中が脳裏を過ぎる。この事件で呼び出されたのかと、いま初めて知った。守秘義務がある為こうしてニュースで知ることは珍しくない。
     ロディは出久の活躍を誇らしく思いつつ、無事なことにほっと胸を撫で下ろした。
     後処理もあるだろうし、帰ってくるのは夕方頃か。壁に掛けてある時計をちらりと確認して、空になったお皿とマグカップをキッチンに下げた。
    「よーし」
    「Pi〜!」
     きっと疲れて帰ってくるであろう出久を労るべく、溜まっていた洗濯物だけではなく布団も干して、夕飯はカツ丼に決めた。頭の中で段取りを整え、気合いを入れるようにTシャツの袖を捲れば、ピノも張り切った様子で鳴き声を上げた。



     澄んだ青空が茜色に変わる頃、ビニール袋を片手に提げたロディはポケットから鍵を取り出して家の扉を開けた。玄関に揃えられた赤いスニーカーに気付き些か雑に靴を脱ぎ捨て部屋へと入れば、ソファで寛ぎながら携帯を弄っていた出久が顔を上げた。
    「ロディ!おかえり」
    「…ただいま。先に帰ってたんだな」
    「ついさっきね」
    「出久も、おかえり」
    「うん、ただいま」
     出久が微笑むと、右頬を覆うガーゼに皺が寄り少しいびつな形になる。昨日まではなかった傷で、今朝解決に導いた人質事件の時にでもできたのだろうと察しがついた。飛びつくピノを撫でる出久を横目に、買ってきた卵や野菜を袋から取り出して冷蔵庫に仕舞っていく。
    「ちゃんと昼飯食ったか?」
    「処理に追われてたから…ゼリー飲料で済ませちゃった」
    「んなことだろうと思った。夜はカツ丼だぜ」
    「ほんと?!」
     ソファからキッチンへと移動してきた出久は買ってきたばかりの肉をキラキラした瞳で見つめる。子どもみたいに無邪気に喜ぶ様子にロディもつられて笑った。
     一通り仕舞い終えたところで、布団を干したままだったことを思い出し、ベランダへ出ると出久も同じように横に並んで取りこむのを手伝う。何度か埃を叩き落とし、ほかほかと温かい布団を簡単に畳んでフローリングの上に置いた。
    「すっごくいい天気だったのに出掛けられなくて残念だなあ」
     窓の鍵を閉めながら空を見上げていた出久がぽつりと呟いた。
     つい先日長期任務を終えたばかりで、本来ならばオフだった今日は同じくオフのロディと遠出をする予定だった。
     キャンセルになってしまい、心の底から申し訳なさそうに言う出久にロディは何も答えない。残念に思っているのは同じだけれど、それ以上に生き生きとヒーロー活動に励んでいる出久が好きなのだ。
     返事をする代わりに思いきり腕を引っ張って、取り込んだばかりの布団の上へ二人一緒に倒れ込めば出久が驚いた声を上げる。
    「ロディ?!」
    「夕飯まですこし寝ようぜ」
    「えー…?眠くないんだけど…」
    「嘘つけ。隈できてる」
     手を伸ばしてうっすらと浮き出る隈を親指の腹で撫でれば、擽ったそうに大きな目を細めた。ロディの体温が触れられた指先から微かに伝わってきて、人心地がつくようにゆっくりため息を吐いた。ここ最近のハードワークで知らず知らずのうちにずっと気を張っていたのだと、出久自身も気付かされる。
     ふいに目の下を触れていたロディの手がガーゼ越しの右頬をそっと撫でた。そんなに壊れ物を扱うみたいに恐る恐る触らなくても痛くないのに、と出久は困ったように微笑んだ。
    「ほかに傷は?」
    「今回はここだけだよ」
    「そっか」
     わかりやすく安堵するロディの表情に、隠そうともせず素直に案じてくれているのだと嬉しくなる。
    「一緒にどっか行けなくてもさ、あんたが此処に帰ってきて、こうやって昼寝できるだけで充分だな」
     本当に幸せそうに顔を綻ばせるロディに、出久は何故だか無性に泣きたくなった。じわりと熱くなる目頭を隠すように布団に顔を埋めてみせる。こんなことをしてもきっと、ロディにはお見通しなんだろうなと思いながら。
    「…へへ。布団あったかいなあ」
    「そりゃよかった。干した甲斐があるな」
    「ありがとう、ロディ」
     いつだって危険に身を投じる出久をロディはただ待つことしかできない。けれど安心して帰れる場所を作ることくらいはできるはずだと自負しているし、出久もそれを理解していた。ロディも忙しい身であるにも関わらず、苦とも思わずやってのけるのだから頭が上がらない。
     出久がふふふと含み笑うと、ロディが「もう寝ろ」と照れくさそうに、柔らかく癖のある髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
     陽の光をたくさん吸収したふかふかの布団とロディの優しい手のひらに包み込まれて、ようやく疲労と眠気が出久を襲う。
    「おやすみ、出久」
     ロディの甘く慈しむような声に誘われて、とろとろと落ちてくる瞼に抗うことなく意識を手放した。

     
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