末っ子とそのクラスメイト達の話。剣持刀也は緊張していた。
母と暮らしていた地域からは少し離れた新しい家。
必然的に学校は転校することになる。
まあ小学生の人間関係なんてものは結構簡単に変動するので、心配はしていないのだけど。
でもやっぱりドキドキするじゃない。
今日は転校初日なため、職員室までは晴が一緒に登校する。
「剣持さん、緊張してます?」
「きんちょうはしてるけど…多分かいださんの方がピリピリしてると思います。」
「えっそうですか!?」
晴はどうも外に出たりだとか、人と接するというのが苦手な様だった。
なんで湊と仲良く出来ているのかわからないレベル。
目立つ見た目とは裏腹に、できるだけ目立たないように生きたいと嘆いていたし。
刀也は完全に母親似なので良く知らないが、どうも父は生まれつきキラッキラのブロンドだったらしい。
だから晴と湊は銀髪なのかと思ったが、湊のアレは染めているらしいのでやっぱり彼らはよくわからない。
話を戻すが、そんな中でも晴が付き添いで来たのは簡単な話、ハヤトが仕事で来られないからだ。
湊は大学の講義があるし、偶然バイトが休みになった晴しか空いていなかったので必然的に。
若干ピリついた空気を纏っている時の晴はちょっとかっこいいので、正直刀也はこっちの方が好きだったりする。
手早く手続きなどを済ませ、担任によろしくお願いしますと挨拶をして晴と別れる。
美人な先生の後についてクラスまで行けば、教室の中から『転校生来るらしいよ』『可愛い女の子がいいな〜』なんて声が漏れていた。
期待させていて悪いが可愛くもないし女の子でもない。残念だったな。
「はいはい、静かに。みんな知ってるみたいだけど、今日からクラスに新しい仲間が増えます。みんな仲良くしてあげてね。」
『入ってきていいわよ』と扉越しに声がかかる。
ここで行かないのもそれはそれでいいかもしれないが、刀也は優等生なので素直に従った。
騒つく教室に足を踏み入れたその、瞬間。
背筋を襲った不快感。
幼い頃から感じ続けた、重たい空気。
真逆。この中に?
思わずクラスメイトを見遣るが困惑した様子の子供たちしか居ない。
気の所為な筈は無い。僕はこれに関しては絶対に間違えない。
間違いなくこの中にーー妖が、いる。
夕陽リリは昨年海外から来たばかりの少女である。
だから転校生というものには優しくしてやろう、と思っていた。
教室に入ってきた転校生。
クラスメイトとは少し違う、どこか大人びた空気に『やるじゃん』などと呟いた、瞬間。
彼はバッと此方を向いた。
うわ。びっくりした。聞こえたのだろうか。
でもそれにしてはなんかこう…敵意?みたいなものを感じる。
ふと、自分を見ているわけでは無いことに気がついた。
あらよかった。ヤンキーに目をつけられたのかと。
でもそれなら誰を見てるんだろうと、隣を見てまた驚いた。
普段爽やかに接しているクラスイチの陽キャが、お狐様みたいなツラでもって笑っていたモンだから。
あら、まあ。あらら。恋かしら。リリはお年頃の女の子だった。
でも一瞬でその顔をいつもの『はて?』みたいな疑問顔に変えちゃったのでちょっとがっかり。面白いのに。
リリがお隣さんを見ている間に、転校生の方もすっかり気を取り直したようだった。
「剣持刀也です。よろしくお願いします。」
小さくお辞儀をしたその目の色は、綺麗な翡翠色だった。
転校生が来た日の教室って言うのは、大抵質問攻めに合う転校生を見れるのがお決まりだ。
やれ『好きな食べ物は?』だの『好きなタイプは?』だの。
好きなタイプに『小さい子』と返答しているあたりマトモな優等生ではなさそうだけれど。
でもそれ以上に、なんだかすごく警戒している様に見える。
なんでだろ。わからないけど、バチクソ陽キャの伏見ガクが刀也に話しかけないと言うのが気になって仕方ない。
アイツこう言う時真っ先に声かけそうなのに。ただ宿題が終わってないだけかもしれんけど。
うーんと首を傾げたリリを、そしてとてもピリついた空気を纏う刀也を。
ガクはただ、見ているだけだった。
登場人物
剣持刀也
この後しっかり友達を作った。
昔からそのテのものに好かれやすかったのでそう言うものの気配に敏感。
甲斐田晴
すぐに友達を作って家に連れてきた刀也に死ぬほどビビった。
次の日バイト先の友人にすごい剣幕でエア壁ドンされた。
夕陽リリ
クラスの女子どころか学年の女子全員を手篭めにしたイケメンガール。
カースト最上位同士なのでガクとは仲良し。
伏見ガク
男女共に大人気なバチクソ陽キャ様。
刀也について何か知っている…?