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    幽坂エラ

    @Kanon_0319_chu

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    幽坂エラ

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    小学生を引き取ることになった新米社長の話。ロクデナシな父親の浮気相手が死んだ。
    息子さんを一人で育てるため、働きすぎての過労死だった。
    まだ小学四年生だというその息子は、涙の跡を残しつつも、無遠慮な親戚連中を相手に気丈に振る舞っていた。

    「剣持刀也です。ごそくろういただきありがとうございます。」

    ピシリと伸ばされた背筋に、加賀美ハヤトは面食らう。
    これで四年生?自分なぞ当時はカブトムシを追いかけて走り回っていたと言うのに。
    最近の子って皆こうなんだろうか。時代って凄いな。

    「えっと…お兄さんがハヤトさん、ですか?」
    「アッはい!初めまして、加賀美ハヤトと申します。お話を始めるのは…もう少しですね、あと二人来るかと思いますので。」
    「あ、はい。わかりまし…足音…??」

    『二人…?』とでも言わんばかりに怪訝な顔をした彼の返事は、大きく響くドタドタとした足音によって遮られる。
    段々近づいてくるその音に若干身構えた刀也は、真後ろでスパーーーーーーンと開いた障子に飛び上がった。

    「ごめんハヤトさん!!!!遅れた!!」

    キラキラのアクセサリー、派手な髪。
    声の大きさとおんなじだけ目立った風貌の青年だ。
    大きな声で謝罪の言葉を叫んだ彼は、勢いそのままに部屋に転がり込む。
    恐らく走って来たのだろう。大丈夫ですけど廊下走らないでください、と嗜めた。
    と、先ほどとは打って変わって、静かな服の擦れる音が聞こえる。
    チラリと開いた障子の向こう側から顔を覗かせた、

    「あの…僕が最後、ですよね…すみません…」

    銀糸の髪に柔和そうな面立ち。
    先ほどとの対比で少し刀也がホッとした様子なのを視界に収め、彼にも声をかける。

    「大丈夫です、不破さんもさっき来たばっかなので。」
    「嗚呼良かった!遅刻してたらどうしようかと…!!」

    四角いちゃぶ台を囲むように二人が席に着く。
    刀也の表情が少し硬くなっているが、まあ仕方ないだろう。
    成人男性3人に囲まれるのは些か怖いと思うので、ハヤトはサッサと話を始めた。

    「じゃあ早速初めてしまいましょうか。お二人に来て頂いたのは他でもありません、刀也くんについてです。私が引き取る事にはなっていますが…お子さんの面倒を見るなどなにぶん初めてなもので。その相談をしようかと。」

    そう、刀也の処遇についてだ。
    刀也の母親には親戚と呼べる親戚がいない。
    必然的に父に引き取られる筈なのだが、あのクソッタレ、どうやったのかハヤトに押し付けて来たのだ。
    まあ此方としても安心は出来るが。幼気な小学生をカスの元に送るわけにはいかないので。
    そうは言ってもハヤトには育児ーーまあ小学生なので言うほどでも無いのだがーーの経験は無い。
    流石に不安になり、腹違いの兄弟の中でも比較的仲の良い二人に声をかけた。

    「そーっすよ、何で俺ら呼んだのかも分かってないっす俺!」
    「僕もです。なんでこのメンツなんですか?」

    揃って首を傾げる二人に、ハヤトは少し緊張する。
    これで受け入れてもらえなかったら自分は暫く引き篭もる自信がある。
    すー、と大きく息を吸い込んで、吐き出すように言葉を紡いだ。

    「……提案、なのですが。」
    「?」

    「…シェアハウスを、しませんか?」



    先日の提案から数日。
    刀也はある一軒家に来ていた。
    昨日まではハヤトの家に泊まっていたのだが、今日からはこの家に住む事になるらしい。
    『手狭で申し訳ないですが…』とハヤトは言っていたが、安心してほしい、十分広い。
    躊躇いがちに玄関のインターホンを押す。
    ピロピロと特徴的な音が数秒流れた後、『はーい、待ってくださいね〜!』と柔らかい声がスピーカーから発された。
    少し待てば大きな扉が開き、ぴょこんと覗いたのは空色の瞳。甲斐田晴だ。

    「こんにちは剣持さん!数日振りですね!」
    「こんにちは、かいださん。えっと…」
    「あ、どうぞ上がってください!ええと、剣持さんのスリッパ…」

    ぱたぱたと慌ただしくあっちへ行ったりこっちへ行ったり。
    母親を思い出して、少し涙目になる。
    ダメだ。こんなことではやっていけないぞ剣持刀也。
    皆さんは優しそうでも、いつ誰に裏切られるかはわからないんだから。
    ブンブンと頭を振って、『お邪魔します』と玄関に入る。
    綺麗に揃えて置かれたスリッパは、ゆるーんとしたーーマシュマロのような印象を受ける顔をしていた。
    これは…晴の趣味だろうか…
    困惑しつつスリッパを履いてリビングへ向かう。
    やはり広々としたそこでは、不破湊がソファーに突っ伏していた。

    「…ふわさん?」
    「あ、もちさ〜ん、こんちわ〜!」
    「あ、はい、こんにちは。なにしてるんですか?」
    「んへへ…片付け疲れまして…」

    あはは、と乾いた笑い。変な人だな。
    はあ、そうなんですかと答えて晴を探す。
    いい加減荷物を置きたい。と言うか普通に自分の部屋に片付けたい。
    ぐるりと周囲を見渡して、おや?と思うものをひとつ。

    「救急箱デッッッッッッカ……」

    刀也では持ち上がらない、と言うかそもそも持ち上げるための設計をしていない。
    困惑しながら湊を見ると、『ああ、それ!』とケラケラ笑った。

    「晴が良く怪我して帰ってくるんよね。俺も時々使ってるけど…もちさんも好きに使って良いよ〜」
    「…はい」

    こんな大きな救急箱何に使うんだ。
    中身は包帯や消毒液でいっぱいだった。
    晴はよく怪我をするような仕事をしているのだろうか。ちょっと怖いな…と認識を改める。
    どうもキッチンに居たらしい晴の案内で、今度は二階に行く。
    横がスケルトンの洒落た階段を登ると、まるでホテルのような部屋数の二階がお目見えした。

    「ええと、剣持さんの部屋は…あ、ここですね。」

    案内されたのは南側の角部屋。
    大きな窓から光が差し込み、今の季節ならば丁度いい位の気温だ。
    わざわざ角部屋を充てがう辺り、気を使わせたかなと思う。
    寛いでくださいねと笑って晴が扉を閉め、刀也は部屋に一人になった。
    まだ新しい木の匂いのする部屋の中は、大きめな勉強机とやはり大きなベッド以外まだ何も無い。
    クローゼットはウォークインだった。
    あまり多く無い荷物を手際良く片付ける。広いクローゼットを埋めることはできなくて、角の方に小さく固まっているだけになってしまった。
    ふかふかのベッドにダイブして、先日のハヤトからの提案を思い出す。

    シェアハウス。
    ハヤトかからの提案に、3人揃って目をまァるくしたのが数日前。
    家自体はもう用意してあったらしく、承諾されなければ刀也とハヤトで住む予定だったらしい。
    湊は『マジ!?いいんすか!!』と嬉しそうだった。
    実際越して来たのも彼が1番だったらしい。
    晴は『えっと…ちょっとお時間いただきますね』と言ってから数分、何処かへ電話をかけてから『是非!』と笑っていた。
    本当にあの3人とこれから一緒に暮らしていくんだな、と少し緊張する。
    だって皆キラキラしてるんだもの。湊なんか特にそう。
    生きてる世界がそもそも違う気がして、同じ空気を吸ってるとちょっと怖くなる。
    あと晴。雰囲気はすごく優しくて柔らかい感じなのに、何処か…そう、『人間味』がちょいと薄い。
    まあきっとカラーリングの問題だ。不思議な銀の髪に空色の瞳なんて中々いない。
    その点ハヤトは安心だ。明るいとは言え茶髪茶目。心底安心する。まあ纏う空気が庶民のそれでは無いけれど。
    昨日まではハヤトと会話する機会が無かったが、これからはちょっとは話せるだろう。
    今日の、そして明日からのことを悶々と考えていれば、だんだんと眠たくなってくる。
    少し寝ようか。昨日までは緊張でろくろく眠れていなかったし、晩御飯迄に起きれば良いだろう。
    自然と落ちてくる瞼に反抗することなく、刀也は静かに目を閉じた。




    登場人物

    剣持刀也
    小学4年生の10歳。
    母がずっと忙しかった事や周りの環境から他の小学生よりちょっと大人びている。
    最近低学年クラスの女の子達をずっと見ている。見てるだけだから許して。お願い。

    不破湊
    大学に通う21歳。
    ヤバめの女にめちゃくちゃ好かれる。よく刺されて帰ってくる。
    大学の友人の弟に刀也を紹介してくれと懇願されたが友人Kが止めてくれた。

    甲斐田晴
    バイトで生計を立てている21歳。
    バイトで怪我したり普通にコケたりなどして割と傷が絶えない。
    独学で最近民俗学の研究をしている。友人が少ない。

    加賀美ハヤト
    最近父の後を引き継いだ新米の偉い人。24歳。
    お坊ちゃんだが割となんでもする。秘書が薬学部出身とマジックを披露しまくってくる子。
    あるバーで袖の無い青年に酒を奢ってから友人が結構増えた。
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