裏社会パロ2不破湊は考える。あんまり深く考えるのは向いていないアタマではあるが、それでも考えんよりマシ…な、筈なので。
どう見たって表の高校生だ。
小綺麗な制服、サラッサラの紫糸の髪、煌めくペリドットの目ン玉。
竹刀袋を肩から引っ提げた、ピッカピカのクソガキ。
そんなピッカピカのクソガキが、裏の入り口たる自分の店の横の道ーー偶然にも酔った客に水をぶっかけられ萎えて煙草を吸いに来た不破がいたーーに入って行くモンだから、思わず止めてしまったのだ。
やらかしたかな。止めなきゃ良かったかもしれん。
『ちょっと、君!?』と声を上げ、此方を振り向いたその少年の目が、あんまりキレイなモンだから。
ビックリして黙っちまったのが良くなかったんだな。
彼が『…何か?』と訝しげに自分を覗き込んだ頃には、言葉がちっとも出て来んくなった。
「用、無いんですか?じゃあ僕はもう行きますので。」
「お、おう…?……って、違う違う違う!君高校生だよな!?何でこんな…」
「『裏への道にいるのか』、ですか?」
にこ。少年が綺麗に笑う。
あら。あらら。
こっち側に用のある人間だなんて。
えちょ、ええ…管轄外です…
お客様のお相手はしてきたけれども、流石にこう言うのは初めてだ。
「んぇ……何、え?誰かの知り合い?」
「知り合い…なんですかねえ、コレ。とあるクソ野郎にストーキングされたものでカチコミに来たんですよ。」
すっごーい、君はヤの付く自由業のフレンズなんだね!!!!!!!(脳死)
そんな怖いことを完璧な笑顔で言わないで欲しい。
いよいよ入れてはいけない気がしてきた。わからんけど本能がそう言ってる。
「あ〜…お帰りいただいt「刀也さん!来てくれたんですか!」
帰るよう説得しようとした不破の声を遮る形で心底嬉しそうな声を上げたのは、少し顔を紅潮させた叶ーーと、引き摺られるようにゼエゼエ息を切らしている葛葉だった。
「いやマジ…マジでさあ…そういうのやめようぜマジ…しぬ……」
「根性がないねくーちゃん。刀也さん、とうとう僕の方に来てくれるようになりましたね〜!」
どうも駆け足で来たらしく、体力のない葛葉は死にかけている。
叶を見た少年ーー叶曰く刀也さんーーは、心底嫌そうに顔を顰めた。
「…真逆本当に会えるとは思っていませんでしたね…ええこんにちは叶さん。30分ぶりですね。」
「えっ叶さん!?カチコミ先って叶さんなんすか!?」
「あ、やっぱ殴り込みですかあ?心当たりはないんですけど〜…?」
「やっぱとか言ってる時点で自覚しかないだろうが。流石に面倒になって来たので交渉ーーと言うか、目的を聞きに来ただけですよ。カチコミだなんてそんな…怖いこと、僕はしません。」
掌クルックルワイパーか?湊はしっかり引いた。
頭痛が痛いとでも言うように眉間を揉んだ刀也に、叶はキョトンとした顔をした。
あれれ、おかしいぞ?とでも言いたげな顔だ。恐らく叶以外の男性がやったら殴られるだろう。
葛葉がキショ…と呟いたので叶でもギリ許されないようだが。
「だから、刀也さんには素質があるんですよ。裏でもやっていける、このクソッタレた環境を少しでも変えられるような才能が。表で燻ってていい人じゃないんですよ、貴方。だから此方へ引き込もうとしてるだけです。」
「その建前はもう等に聞きました。僕が知りたいのはここまで執拗に付き纏う理由です。貴方こういう…勤勉なストーキング、得意な方じゃないでしょ。どっちかというと誘拐して洗脳する方が得意だし好き。こんなに効率の悪い方法を取る理由がわからない。」
若干のぶりっ子を混ぜた叶の答えを刀也はバサリと切り捨てた。
不破からすればまさにその通り、効率厨の叶がストーカーなんて言うめんどくさいことをするとは到底思えない。
目を丸くして驚いている叶や何も言わない葛葉を見るに、少なくとも彼の推理は間違いではなさそうだ。
「…そう、ですね。流石です刀也さん。やはり貴方は『剣持刀也』ですね。」
にこりと笑った叶は、パチパチと手を叩く。
「でも今真実を言っちゃうわけにはいかないんですよね〜。その理由も言えません。だからこっちに誘ってるんですよ。そうですねぇ…ある神様から頼まれたので。」
「…神様?」
は?とでも言いたげな刀也に、叶は只々笑みを投げる。
「その疑問も僕について来てくれたら解決します。…さて、刀也さんが知りたくて僕が言える情報はこれだけですね。信じるか信じないかは貴方次第。選択権は常に貴方にある。正しかろうが誤っていようが、貴方の選択が現実ですよ。」
「…言っている意味が「さ!帰ろっか葛葉!ふわっちもお疲れ〜、頑張ってね〜」
クエスチョンマークばかりが頭を埋める。『あ、ウッス』と会釈をして、刀也の顔をチラと見た。
キラキラの緑色がやっぱり困惑で埋まっている。でも、それ以上に。
あふれる若さゆえの好奇心が、やっぱりちょっと眩しかった。
「…おかえり」
「おーただいま。ちゃんと飯食った?ガソリン吸ってない?」
「不破君は俺のこと本当に何だと思ってるの?」
黛灰は顔を顰めた。
組織内では若干浮きがちな自分に、初めて出来た友人。
昔から思っていたけど、つくづくヘンテコな事を言う男だ。
不破はにゃははと軽く笑って、机に置かれた未開封のモンエナに手を掛ける。
「不破君?」
「…やだなぁ、冗談っすよ冗談!…イヤマジ、ホント、ね…許して…」
生来悪めの目つきを鋭くした。
ホストという仕事柄もそうだが、一度ヤバいブツを盛られたことから不破の肝臓は結構ダメージを受けている。
そこに更に負荷の掛かるモンスターエナジーなんか飲ませる訳にはいかない。
はあ、とため息をついて、帰ってきた友人を黛はじっと観察した。
髪が乱れているのは客が水をかけたからだろう。それは見ていたし聴いていた。
その後はどうも叶が手を出したのか葛葉のちょっとした悪戯か、ノイズが走って上手く情報を拾えなかったが。
あの二人、どうも怪しい。
何かを知っていそうな口ぶりや行動、不自然な手の出し方。
ノイズがかかっていたとは言え断片的に聞き取れた、見えた部分はある。
ここらでは聞かない、少年と青年の狭間の様な声。
深い紫、明るい黄緑色。
流石に特定はしないけれど、でも。
もしも自分の予想が正しければ、不破にも危険が及ぶかもしれない。
それだけは避けておきたい。叶の手によるものならば特に。
折角見つけたのだから手放すわけにはいかないでしょ?なんて。
こういう所が重いって言われるんだろうけど。
「ほら不破くん、明日は三枝さんと遊ぶんでしょ。早く寝なよ。」
「まゆ母親みたいじゃん」
「ほら湊ちゃんもうこんな時間よ!」
「はあいママ〜ww」
でもほら。こんな会話、ちゃんと生きてなきゃ出来ないもの。
怪我なんかさせない。苦しませない。
目を閉じてすぐ寝息を立て始めた不破を、黛は静かに、見つめた。
登場人物
不破湊
ただ巻き込まれただけだった。
友達と遊びに行くのが楽しみなホスト。
クールな友人が最近ちょっと熱を感じられる様になって嬉しい。
剣持刀也
真実を探す。
この日は何故か眠れなかった高校生。
神様は信じていない。
叶
知っている。
約束は守る青年。
この後刀也に呼ばれて行ったらゲームに付き合わされた。
葛葉
知らないけれど知らなければならない。
いつも被害者の吸血鬼。
ちょっとした悪戯が最近増えた。
黛灰
真実を持っていた。
自覚のあるメンヘラのハッカー。
不破の友人を知っている。