パプニカ城下に住まうヒュンケルは、ある朝、突然に猫になった。起床したら視界に自分の黒い前足があったのだ。
特に焦りはなかった。ただ、己の悪行への罰が下ったのだなと理解した。
黒猫は家を出ることにした。ここの家賃を払う手立ても、もうない。
バッタを捕まえてみたが口に合わなかった。ネズミは美味かったので、そちらに狙いを定めた。一ヶ月もすれば慣れて調子が出てきた。
路地裏や空き地での生活も、やってみればなかなか良いものだった。なにせ、これでもうヒュンケルが罪を犯すこともなく、憎まれる姿をさらして人の不快を煽ることもないのだから。
ただの猫として生きるのは途轍もない開放感だった。道も屋根も森も、駆け回った。行ける限りの場所を気紛れに散策した。
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