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    ラーヒュン ワンライ 「願い事」 2024.02.27.

    #ラーヒュン
    rahun

     大魔王の甘言。暗い謁見の間にて。
    『おまえの望み、余が叶えてやっても良いぞ?』
     ヒュンケルは未だ力の無い少年に過ぎなかったが、それを毅然と断った。
    「不要だ。オレはただ勇者の首だけが欲しいのではない。自らの力で成し遂げ、その時に奴が浮かべるであろう苦しみ、屈辱、その眼差し、すべてが欲しいのだ」
     悲願とは、己が手で成就させてこその喜びなのだ。
     たとえそこに辿り着くまでに、どれほどの苦難が待ち受けていようとも。
     全力で立ち向かう。



     精霊の誘惑。エネルギーの奔流、光の中にて。
    『あなたの望み、私が叶えてあげてもいいわよ?』
     ヒュンケルはもう碌に戦えない男に過ぎなかったが、それを笑って断った。
    「いいんだ。オレはただアイツの心だけが欲しいのではないから」
    『でもその人、ぜんぜんあなたに興味ないんでしょ? 私の魔法ならすぐに夢中にさせられるわよ?』
    「自分の力で振り返らせたいんだ。その時に、アイツがオレを見てくれる、その眼差しも全部が欲しいから」
     たとえ、そこに辿り着くことが出来なかったとしても。
     全力で立ち向かう。
    ──……ケル……ヒュンケル!
     バンッ! と光から弾き出された。
    「大丈夫ですか!? ヒュンケル!」
     アバンが駆け寄ってくる。
     石畳に倒れるヒュンケルは息を荒げる。したたかに打ち付けた肩が痛む現実感。夢から覚めたようだ。先程までは身体の輪郭が溶かされていくかのようだった。
     進行中の破邪の洞窟、六十六階。
    「すまない、アバン……。あれはどういうトラップだったのだ」
    「あれはトラップではなく、次の階へと進むための試練でした。最も欲しているものをチラつかせてくるけれど、きっとそれに乗っかっちゃうと自我を吹っ飛ばされたりするんでしょうね」
     アバンは単身で百二十五階に辿り着いたのだから、以前にも此処を通ったはずだ。
    「……それを、オレに、やらせたと」
    「いけたでしょ?」
     見れば、いつの間にか前方には下り階段が出現していた。
     けれど、立ち上がるとクラリと目眩がした。
    「おっとっとー。ここまでですね。……うん、きっかり一週間の迷宮バカンスでした。リハビリと呼ぶにはそろそろオーバーワークですよ」
     帰還の為にアバンは破邪の秘法を展開する。これでリレミトを最大化すれば外に出られるのだろう。
    「それで」
    「はい?」
    「あなたの場合には何を叶える話をされたのだ? アバン」
    「んー……」
     石床にゴールドフェザー五枚で描いた魔方陣に照らされながら、師は口をとんがらせて顎を人差し指で押さえたが。
    「私が話したら、あなたのも教えてくれます?」
     と振り返ってきた。
    「絶対に言いません」
    「ですよね」
     リレミトが唱えられた。







    2024.02.27. 23:15~00:05

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     全力で立ち向かう。
    「ラーハルト」
    「戻っていたのかヒュンケル」
     平和な治世、魔物すら滅多に暴れず、腕試しをするなら神々の迷宮に潜るしかないような昨今。武器と共に生きてきた二人もすっかり穏やかな街暮らしに慣れつつあった。
     だがヒュンケルは戦の如き緊張感で彼、ラーハルトに声を掛けていた。
    「土産話と土産がある。どうだ、今夜オレの家で飲まないか」
     という誘いを掛けるミッションの為にパプニカ城を探し回って、偶然を装って擦れ違ったのだ。考えてきた台詞をとちらずに言えて良かった。
     しかしラーハルトは。
    「今夜は空いているが……」
     眉間に皺を寄せた。
     迷惑だったのだろうか。予定に不都合がないのに渋るとは、嫌われているのだろうか。そうかも知れない。自分と二人きりの空間が楽しいのかどうかと考え始めればヒュンケルとしても疑問を覚えてしまい、別にいいんだ、と引き下がりそうになるが、弱気を叱咤して踏み留まる。自分の力で振り返らせたいと精霊に切った啖呵は嘘ではない。兎にも角にも会話を続かせてみよう。そう判断するまでが約一秒だった。
    「空いているが、なんなのだ?」
    「おまえの家でか? あの何もない?」
     愕然とした。最低限の家具と食料しかなくとも寝に帰るだけの住まいゆえ不満を感じたことはなかった。だが意中の相手を招くには不足だったのだ。不覚であった。しかしながらそれを指摘されても、では如何なる物品があれば良いやら想像も付かない。以前にそれなりの指南書を読みはしたが清潔感のある香りの花を生けろと記されており、それは婦人への対策かと思われた。仕方ないので本人に聞くことにする。そこまでが約一秒。
    「おまえくらいの年の男だと何が欲しいんだ?」
    「……おまえもオレくらいの年の男だと思うが」
     ぐうの音も出ない。失敗した。顔は血の気が引いて冷たいが、胴体は焦りで火照って汗を掻いてきた。大体にして同じ年頃の男であるヒュンケルは自宅に何もなさを感じていないからこそ尋ねたのであって、いや、だとすると質問が悪かった。ストレートにおまえは何を用意して欲しいのだと問うべきだった。後悔先に立たず。覆水盆に返らず。ことわざはラーハルトの得手であるはずが自責の念に駆られて後から後から湧いてくる。すでに二秒たってしまった。
     するとラーハルトから。
    「酒を飲むなら、あの家にオレ用のグラスを置かせてもらっても構わんか?」
     と提案があった。
    「グラス?」
    「おまえの棚には丈夫が取り柄の分厚い陶器の碗しかなかろうが。あれではヒャド屋の氷を仕入れても浮かべ甲斐がない」
     だから自分専用の食器を常備させろというのか。それはつまり割と頻繁に来てくれる意思があるのではなかろうか。ヒュンケルの脳内は俄然盛り上がった。興奮しすぎて回答するのを忘れていた。
    「嫌ならいいが」
     ラーハルトが発言を取り下げようとしてきたので。
    「そんなことはない。おまえのグラスがオレの家の棚に掲げられることにならば、それはどのような栄冠のトロフィーにも勝る誉れとなろう」
     返事を焦って考えていることを全部口から出してしまった。逆に頭が真っ白になった。
     ラーハルトはフンと鼻息を吹き出した。
    「おまえは偶に妙なジョークをほざく」
    「ありがとう」
    「褒めとらん。では適当に見繕ってゆく。また後でな」
     ひとりで大パニックを起こしている間に、どうにか上手い具合に今夜の約束が成立したようだ。おまけにラーハルトが家に私物を置いてくれるらしい。大成功だ。ヒュンケルはちょっとスキップしながら帰った。
     願いの自力成就までの道のりは遠い。







    (+70分 =オマケ部)

























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