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    kurono_666_aka

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    晏無師に恵方巻を食べさせられる沈嶠の話

    #千秋
    aThousandYears
    #晏沈
    yanShen

    「これはなんですか?」
     目の前の皿に置かれた黒い物体に沈嶠は首を傾げる。のっぺりと黒く太い筒状のそれからは海苔の良い香りがしていて、ぼんやりとした己の視界でもどうにか食べ物であることは理解できた。
    「これは恵方巻という縁起の良い食べ物だ。無病息災の効能があると聞いて、お前の為にわざわざ用意させたのだぞ」
     気味が悪いほど優しい晏無師の声音に、もとよりあまりなかった食欲がすっと消えていく。
     そもそも縁起など気にする性格ではないだろう。いったい何を考えているのかと身構える沈嶠を気にすることもなく、晏無師は言を継いでいく。
    「恵方を向いて一言も話さず一気に食すのが作法だそうだ。恵方はちょうど本座のいる方角だな。さあ、こちらを向いて遠慮なく食べるといい」
     さあ、と言われても、卓の上には箸も無ければ、結構な長さの恵方巻とやらを切り分けるものもない。
     どうしたものかと沈嶠が考えあぐねていると、いつの間にかそばに来ていた晏無師に顎を掴まれた。そして無理矢理開けさせられた口に恵方巻を押し込まれる。
    「……ん、ぐっ……!」
     頬張るには太すぎるそれを喉の奥まで容赦なく突っ込まれて、反射的にえずきそうになった。慌てて彼の手を振り払おうとしたが、逆に両手を掴まれて恵方巻をしっかりと握らされる。

    「……んっ、んっ」
     吐き出すわけにもいかず、沈嶠は口いっぱいのそれをどうにか咀嚼する。しかし飲み込んだ分だけ新たに押し込まれるのだ。苦行のような繰り返しに、生理的な涙が滲んだ瞳で沈嶠は間近に立つ男を睨み上げた。
    「お前のそういう顔はなかなかにそそられるな」
     好色な笑い声に何かロクでもないことをさせられているのだとようやく気づく。せめて顔を見られないようにと俯けば、髪を掴まれて無理矢理仰のかされた。
    「……っく、んん……!」
     無理な角度を強いられたせいで苦しくて苦しくて涙がぼろぼろと零れる。それでも食べ物を粗末にするのは抵抗があり、沈嶠は詰め込まれるそれを必死で嚥下した。
    「良い子だ、阿嶠。もっとその顔を見せておくれ」
     自分の前に座り込み、苦しそうに柳眉を寄せながら太いものを咥える沈嶠の顔を覗き込んで、晏無師はくつくつと愉悦を滲ませて笑う。無遠慮な手が大きく開かされた唇を、膨れた頬を撫で回していく。
    「ふ……っ……ぅうう……」
    「どうだ、美味いか?」
     味なんて分かるはずがない。口腔内を占拠するものをただひたすら処理するだけだ。にやつく視線に耐えながら最後の一口を飲み下すと同時に、沈嶠は男の手を振り払った。
    「……っ、この度は私の為に大変珍しいものをご用意いただきありがとうございます。しかし、今後はこのようなお気遣いは無用ですので!」
     キッとこちらを睨みながらも律儀に礼の言葉を述べるあたり、自分が何を模した行為をさせられていたのかまでは解っていないようだ。
    「やはり阿嶠は可愛いな。遠慮せずともいつでも用意してやる」
    「結構です!!」
     晏無師は上機嫌で彼の口もとについた米粒を拭い取ると、これみよがしに己の口に放り込んだ。


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