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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 6
    魔法舎 ネファ

    ##1日1ネファネチャレンジ

    魔法使いも空から落ちるネロはマナエリアからの帰路についていた。
    生きるというのはそれだけで非常にエネルギーを使う行為であり、日々の生活を送るだけでも心は少しずつ疲弊してゆく。自身が少し疲れていることを察したネロは、少し暇をもらって心を休めてきたのだった。黄金色の麦畑でひと眠りし、さて戻るかと魔法舎に向けて箒を飛ばしていた。

    眼下に東の国が広がる。あれはブランシェット領か、なら雨の街は向こうの方角だな、と頭の中で地図を照らし合わせながら進む。このまま行けば嵐の谷の上空を通るはずだ。魔法舎にいるであろう想い人が心に浮かび、あぁ会いたいとネロの心臓は熱を帯びた。
    よく晴れた空を、風を切って進む。
    ファウストの隠れ家はこの辺りだったか、流れる木々の合間を眺める。嵐の谷には他の魔法使いも住んでいるらしい。時折視界に入る家のような建物に、もしかしたら彼等の住処かもしれないと想像を膨らませた。
    「……あれ」
    ふと、風の流れに慕わしい気配を嗅ぎ取った。
    慌てて谷へ目を凝らすと、見覚えのあるこぢんまりした家と、黒い人影。
    ――ファウストだ。
    ネロがマナエリアに行ってくると告げた時は魔法舎に残っていたから、ネロが出た後に東の国へ戻ってきたのだろう。近々シロップ用のエルダーフラワーを取りに戻ろうかな、と話していたことを思い出す。
    ネロの表情が自然と歓喜の笑みに緩む。
    心は思いがけない出会いに湧きたち、躍るように鼓動が早まる。会いたいと思っていた人に、こんなに早く会えるなんて。

    「ファウスト!」

    我ながら大きな声が出てしまった。はしゃいでいるようで小恥ずかしいけれど、実際、年甲斐もなくはしゃいでいるのは事実だった。
    呼び掛けに気付いたファウストは驚いたように顔を空へ向け、そして両の紫が確かにネロを捉えた。
    『ネロ?』
    声は聞こえない。でも、確かに口はそう呼んだ。

    ああ、声が聞きたい。名前を呼んでほしい。
    会えて嬉しい。
    嬉しい!

    マナエリアで満たされたはずの心が、実は物足りなさを隠していたことを知る。
    ファウストが足りなかったのだ。彼がいれば、足りなかった心の隙間が埋まる心地がする。
    もっと速く飛べないか。ルチルのようなスピードが出せないことが今は惜しい。もどかしくなって、ネロは箒からファウスト目掛けて飛び降りた。
    「は!?」
    今度は声が聞こえた。魔法舎でいちばん大きな声が出せる人の、渾身の疑問符すら愛おしい。
    ファウストが目を剥いたのが分かった。
    構いやしない。ぐんぐん地面が近付いて、ネロは心のまま腕を伸ばした。
    「っ、サティルクナート・ムルクリード!」
    よくもまぁ舌を噛まずに言えるものだと感心する早口で、ファウストが魔法を唱える。それでも僅かに間に合わなかったのか、衝撃を吸収しきれずネロは抱き着くようなかたちでファウストと激突した。咄嗟とはいえ腕を伸ばして受け止めはしたファウストも、その衝撃でネロを抱えたまま後ろにひっくり返ってしまった。
    「お前っ……ネロ!ふざけるなよ!ばかなのか!?」
    突然落ちてくるんじゃない、魔法が間に合わなかったらどうしてくれるんだ、そもそも僕が受け止めなかったらどうするんだ!?
    頭上から大音量で盛大なお説教が聞こえる。極力穏やかに生きてきたファウストの荒れ模様に、なんだなんだと精霊達が興味津々にざわめき立っている。
    抱き着いた身体からはいつものファウストの香りと、今しがた被った土埃の煙たい香りがする。摺り寄った胸の下では怒りと驚愕とで心臓がバクバクと忙しなく暴れている。ネロに向かって伸ばされ、しっかりと抱きとめた腕は未だネロの背中に回されている。
    じんわりと伝わるぬくもりにファウストを確かに感じ、ネロはふにゃりと相好を崩した。
    あー、ファウストが沁みる。
    「大体きみは……聞け!」
    「聞いてる聞いてる。でも先生受け止めてくれたじゃん」
    ありがとな、と伸びあがって口付けると誤魔化すんじゃないと拳骨をお見舞いされた。
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
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