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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 7
    学パロ 女体化ネファネ(左右非固定)
    ※直接描写はありませんが性行為を匂わす表現があります

    ##1日1ネファネチャレンジ

    少女領域がたん、がたん。
    傾く西日を浴び、ファウストは車窓から流れる景色をぼんやりと眺めている。後方に広がる青黒い海が視界のほとんどを占め、手前の住宅地が申し訳程度に彩りを添えている。
    変わり映えのしない退屈な景色だ。ファウストは心の中で悪態をつく。
    小学校をあがり、中学生になり、高校に入学した。大きくなればもっと劇的に世界は広がり、自分達はもっと自由に世界に羽ばたいていけるのだと信じていた。煌めく街、上品な恰好をした大人達の合間を、ませた顔でちょっぴり背伸びして闊歩する。世界が自分達を受け入れる。むしろ、自分達に世界が追いつくのだ、と。
    ゆっくりと瞬きをする。祈るように目を開いても、眼前に広がる光景に変わりはない。

    「……ネロ?」
    陽射しでオレンジがかった空色が船を漕いでいる。かくん、頭が揺れるたびにまだ少し湿った髪がはらはらと動く。普段は後頭部で緩く纏められた髪は、跡が付くからとおろされていた。
    今日最後の授業が水泳だったから終礼が遅くなった、と教室で待っていたファウストに謝ったのを覚えている。待つことは苦ではないし、ネロがファウストの教室に、ファウストだけをその目に映して入ってくるのは気分がいい。スタイルもよく運動ができる彼女には憧憬だけでなく好意の視線が多々向けられるけれど、みんな大好きネロさんはわたしのなので、と見せつけるように手を繋いで帰った。
    「ネロ、眠いの」
    んん、とぐずる声が聞こえたが、すぐに少し開いた口からは健やかな吐息だけが零れだす。首を痛めてはかわいそうで、ファウストは繋いだ手を一度離し、ネロの頭を自分の肩に乗せた。すん、と顔を寄せるとカルキのにおいがする。軋んで絡まった髪を丁寧に梳き、もう一度ネロの手を握った。


    がたん、がたん。
    ファウストとネロを乗せた電車は、変わり映えのしない退屈な景色の中をひた進む。まるで決められた人生のレールのように。
    受験、就職、……結婚、出産。
    この後訪れるかもしれない所謂人生のターニングポイントというものを、ネロと手を繋いで通過し続けることはできないのだろう。ファウストは憤っている。どこかでネロの手を離さなければならなくなることに。ネロは恐れている。どこかで自分はファウストから手を離すのだと。
    難しいことは分からない。だってまだ十代のこどもだ。空想を現実に置き換えて、元々無い翼を捥がれたように傷を舐め合った。キスも、身体を重ねてそれ以上のこともした。それはきっと、社会や世間やもっと大きな抗えない何かへの、対抗心からだった。
    このまま異世界にでも行けてしまったらどれだけいいだろう。ネロと手を繋いだまま、誰も知らない世界で二人きり。ぼんやりと、いつか読んだブレヒトの一節が頭に浮かんだ。

    『どこへゆくの、おまえたち?
      ――どこでもないところ。
         ――だれから逃れて?
            ――みんなから。』*

    規則正しい振動のリズムと西日の暑さに少しずつ瞼が重くなってくる。ちらりと見た電光掲示板の示した次の停車駅は、降りる駅の数駅手前だ。少しくらいなら大丈夫だろう。
    ファウストは眠るネロの頭に自分の頭を寄せ、目を閉じた。瞼の裏で想像する。皺だらけのおばあちゃんになっても、隣にネロのいる世界。救いなんて無くていい。離別の絶望さえ無ければ。
    意識を夢へと手放す直前、ごう、と電車がトンネルに入った音がした。

    ――海沿いを走るこの電車に、トンネルなんてあっただろうか。



    引用元:*生野幸吉、檜山哲彦編『ドイツ名詩選』岩波文庫,2013年,283頁
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
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