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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 10
    学パロ おにょたのファウスト+ネロ(ファネ気味)

    ##1日1ネファネチャレンジ

    茨姫の寵愛きこきこ。
    なんだか間抜けな金属音が狭い空間に漂う。
    隣に座る彼女の足元をそっと見れば、相変わらず綺麗に磨かれたブラウンのローファーがぴかぴかと光る。足が痛くなるし歩きにくいからやだ、とネロの黒いローファーは入学式以来1度も大地を踏むことなく埃を被っている。


    「……帰りたい」
    「どうしたの。疲れた?」
    「……だって、ここの公園、ジンクスあるって」
    この公園でボートに乗ったカップルは別れる。
    まことしやかに囁かれ、何組の誰それ先輩は本当に別れただとか、色んな尾ひれが付いて語られるジンクス。
    噂やおまじないに敏感になるお年頃は誰にでもある。現実味がなくとも、体験したわけではなくとも。受験や就職といったリアルな人生が突き付けられ始め、押し付けられる現実から目を逸らしたくなる時、そういう『よく分からないけど非現実でちょっと不思議なもの』に心惹かれ、本当じゃん!と人智を超えた事象に色めき立つ。
    けれど、今回は話が別。
    ジンクスはいつの間にか呪いになって、ネロの背中にこびりついて囁く。「ボートに乗ったらファウストと別れるぞ」と。そうなるかもしれない、ならないかもしれない。ぐらぐら揺れる不確かな心は、それこそコントロールを失ったボートのようだった。
    「ネロは、そんなジンクス信じてるの」
    かわいいけど、と少し呆れたようにファウストは零した。ネロが漕ぐのをやめてしまったから、2人のボートは池の中央から殆ど動いてない。

    ──どうしてこうなったんだろう。
    ネロは未だにファウストとお付き合いをしていることが信じられなくなる。成績もクラスも性格も、学校での評判やつるむ連中も何もかもが違いすぎる。
    ここまで品行方正な人間って物語にしかいないと思っていた、というのがファウストに対する第一印象である。お世辞にもけっして良い生徒では無い自分を、どうして学園高嶺の花ヒエラルキートップをゆくファウストが見初めたのか。沢山愛してくれる。嬉しい。でも分からない。分からなくて何度も不安になる。
    「ほ、ほんとに別れないなんて分かんないじゃん」
    「それは、私が、ネロを振るってこと?」
    き、とペダルの音が止み、2人の空間から音が消える。
    す、と向けられたファウストの双眸は清流のように凪いている。
    静かに燃えるアメジスト。ネロは、この目に見詰められるのが少し怖い。
    自分の知らない自分を、丁寧に、少し強引に裸にされてしまう。痛みとある種の快楽を伴う、ささくれを剥く感覚に似ている。
    ファウストが腰を上げ、ネロに身体を寄せる。停止したボートは僅かな重心の移動にもくらりと傾き、ぱちゃ、と水面を揺らした。2人のボートを中心に、池に波紋が広がる。
    「ネロ、きみはばかなの」
    ネロの心に波紋が広がる。ざわつく。
    「離してなんかあげないんだけど」
    まだ分からないなら、この後とくべつに補講してあげようか。
    にこり。上品な笑みを形作る唇で、プラムカラーのリップが生々しく艶やかに光る。目が離せない。離したい。くらくらして、何も分からない。

    ──ああ、だめだ。この人には勝てない。
    ジンクスも、おまじないも、この人にかかれば木っ端微塵だ。色んな不安も不確かさも、全部纏めて大きなバツ印を付けて、君達に用は無いよと破り捨てていく。
    立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花?
    冗談じゃない。この人は茨だ。毒々しいまでの美しさでわたしを捕らえて離さない。棘が食い込んだわたしは、逃げられない。

    こくり。頷いたきり顔を上げられないネロを、いい子とファウストがやさしい手つきで撫でる。
    「それじゃ、早く帰ろうか」
    耳元で落とされた囁きが、最後の一押しとなってネロを溺れさせる。
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
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