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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 16
    魔法舎 ネロファウ(メンタルはファネ)

    ##1日1ネファネチャレンジ

    一寸先は闇「……目が見えない?」
    「はい。その、俺が悪いんです。不注意で」
    訓練も依頼も無い午後の時間を自室で過ごしていたファウストに、申し訳ないが至急来てくれないかと賢者が駆け込んできたのが数刻前。何かあったのだろうかと対処の方法を様々頭に思い浮かべながら談話室に入ると、賢者と共に出かけていたネロが困ったような笑みを浮かべて座っていた。
    「賢者さんのせいじゃないって」
    「でも」
    「むしろあんたに何も無くて良かったよ。これで怪我でも負わせてたら、俺がいたたまれなかったって。気にすんな」
    「……すまないが、何があったのか説明してくれないか」
    賢者とネロは、魔法舎に届いた依頼の対応で市場に出ていた。納品物の中に魔道具らしきものが紛れており、仕入れた他の品へも影響が出ると困るから一度調査してくれないか、との内容だった。まずは現状を確認し、他の魔法使いの応援が必要であれば改めて後日対処する手はずで事を進めよう、と段取りを組んで向かった。
    「紛れていたのは確かに魔道具だったよ。黒い、ガラス玉みたいな。ヒビも入っていて、かなり古いものだったと思う」
    感じる魔力も微弱ではあったが、呪具の類である可能性も捨てきれない。念には念を、とファウストに協力を依頼する方針を示した賢者にネロも同意をした。一旦戻るにあたってもう少し近くで見てみよう、何か特徴や分かることがあるかもしれない……と、賢者なりに使命を全うしようと一歩近づいた時だった。
    「突然魔道具が光って、破裂したんです。咄嗟にネロが背中に庇ってくれて、俺は無事だったんですけど」
    飛び散った破片がネロの目に入った。眼球を焼かれるような激痛が走り、脂汗をかいて蹲るネロに賢者は必死に呼びかけた。幸い意識を失うようなことは無かったが、痛みが引いて目を開いた時、眼前に広がったのは一面の暗闇。景色も、賢者の顔も、何も見えなくなっていたという。
    「その魔道具はどうなった」
    「魔力の気配がしなくなってたから多分消失したとは思うけど、後で確認に行った方がいい」
    「分かった。次は僕が行こう」
    ありがとな、と礼を述べるネロの視線はファウストに向かっているようで少しずれている。魔力を探知しておおよそ立っている場所は掴めているのだろうが、どこに顔があり、目線がどう向いているのかまでは把握できていないのだろう。ゆらり、ゆらりと不自然にネロの視線は揺れ続けている。
    少し見せて、とファウストはネロの顔を両手で包んで目を覗き込んだ。
    「……見たところ、強い呪いではないよ。一時的な目くらましの類だろう。相当に古い魔道具であったなら、破裂したのも恐らく寿命だ」
    呪術的な構造自体は単純なものだが、古い術式はファウストといえど未知の領域も多い。無理に解呪するよりは時間の経過で消えるのを待った方がいいだろう、とファウストは判断し、賢者とネロに伝えた。治るんですね、良かった、と白く強張っていた賢者の顔がようやくほどけてほのかに赤みを取り戻した。現場から魔法舎まで、たった一人で負傷したネロを守りながら手を引いてきたのだろう。よく頑張ったねと労いを込めてファウストは賢者の頭をぽんと撫でた。
    「どのくらいかかる?」
    「遅くとも明日の夜には治るだろう」
    「そっか。なら悪いけど、今日明日のメシは上手いこと言い訳してカナリアにでも頼んでくれる?」
    「俺がやります。そのくらいやらせてください」
    「ありがと、悪いな」
    「いえ。……ファウスト、万が一に備えて、ネロの傍についていてくれませんか」
    「構わないよ。きみも、これ以上は気に病まないようにしなさい」
    「はい……ネロ」
    「ん?」
    「守ってくれて、ありがとうございました」
    でもネロが傷つくのはやっぱり嫌です、と悲しそうに笑った賢者の顔を、ネロは見ることはできなかった。


    「僕の部屋でよかったの」
    「夜中に誰か来ても困るしさ」
    ネロの部屋の方が談話室からは近い。移動距離が短い方が、と気遣わしげなファウストに、腹減ったって訪ねられても目が見えなければ料理なんてできねえし、とネロが答えたのでそれに従った。
    「もう少し、三歩前……そこ。座っていいよ、ベッドがある」
    部屋に辿り着いたファウストはネロをベッドに座らせ、自身もその隣に腰かけた。きしり、と二人分の重さでベッドが軋む。ぼんやりと虚空に目を向けているネロに呼びかけると、ファウストの声がする方向にふらりと顔を向けた。
    「視界に変化は?」
    「特に、何も。見えないことに変わりはないかな」
    ファウストはじ、とネロを見つめた。こんなに至近距離で見つめ合っては、普段であればネロが段々照れてしまって、顔を赤くしてふいと視線を逸らすのに。それをかわいいねと、僕のことはもう見てくれないのと、少しからかってやるのが戯れだったのに。見ているのに、見てくれない。その寂しさを感じている。
    不意に、握ったままだった手の力がきゅうと強まった。
    「……ファウスト」
    「なに」
    「……今、俺の手を握って……一緒に歩いてくれたのは、本当に、……ファウスト?」
    数秒、呼吸をすることを脳が忘れた。
    視覚から得る情報は五感の八割以上を占めると言われている。今のネロは一時的とはいえ、突然二割にも満たない情報で世界と接することを強要され、失った視覚は誰かに頼るしかない状況だ。他者を無条件に信用することができないネロにとって、それは致命的だ。先ほどまで賢者にその片鱗さえ見せなかったのは、守られた彼がこれ以上自分を責めることがないようにとのネロの必死の強がりだった。そのことに気付いてやれなかった。
    「……ごめん、変なこと言った。魔力の気配で大体分かるのに」
    「ネロ」
    ネロ、聞いてと握られた手をより強く握り返す。手袋越しにじっとりと手汗を感じる。微かに震えているのも。合わないと分かっていても、ネロに視線を合わせてファウストは語りかけた。
    「ネロ、きみにとって、ファウストとはどういう存在だ」
    「……」
    「それを証明すれば、きみは怖くない?」
    「……」
    「いいよ、ネロ。何でも言って。きみの不安を払拭して、心を落ち着かせられるのなら、それを僕は惜しまないよ」
    合わない視線が合って、ネロはファウストを見つめた。今のファウストの顔をネロは見えていないけれど、今目の前にいる自分は確かに君の知るファウストだと伝わってほしくて、必死だった。
    「……いい、平気。大丈夫」
    「本当に?」
    「うん。……そうやって、俺のこと見捨てないでくれるから。もう、ファウストだ、って分かるよ」
    でもまだちょっと不安だから抱き締めてほしい、と珍しく甘えてくるネロをファウストは殊更優しく抱き寄せた。両腕と身体を目一杯使って包み込むと、ネロの身体は存外ファウストの中にすぽりと収まった。ファウストが生きてる音がする、と胸元にすり寄り耳をくっつけたネロが零す。
    「……なんか、騎士さんの気持ちが少し分かった気がするよ。あいつ、毎日こんな世界に生きているんだな。触れない限り見えなくて、声しか聞こえないとか……正直寂しいし、怖いよ。なのに、あんなに明るく振舞えるんだな」
    「そうだね」
    「……あんたも厄災の傷、あるんだろ」
    「……あるよ」
    ネロにはまだファウストの厄災の傷を伝えていない。いつか知られるのなら、と何度も心を決めてはやはり今ではないと引き返すことを繰り返している。他者を無条件に信用することができないのはファウストも同じだ。それをまだ、ネロにも向けてしまっていることが苦しくて、悲しくて、でもどうしようもない自分の性だった。
    「そっか。……みんな、元に戻れるといいな」
    「そうなるように皆戦っている。きみも」
    「はは……そうだな。誰も石にならないで、みんな五体満足で、傷も治って」
    そんなハッピーエンド、本当に来るのかね。
    やるせないネロの呟きが暗い部屋に吸い込まれ、跡形もなく消えていく。真っ暗な世界では、信じたい希望を見つけることさえままならなかった。

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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
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