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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 22
    魔法舎 ネロファウ

    ##1日1ネファネチャレンジ

    生命讃歌昼下がり。可愛いものがいそうな気配を感じたファウストは、キッチンに用意されていた小魚を持って魔法舎の裏庭へ向かっていた。ぽかぽかと温かい陽気に数匹昼寝しているかもしれないな、と密やかに心は浮き立つ。

    「……ん?」
    目当ての場所には求めた数匹はいなかったが先客がいたようで、しゃがみ込んで何かをしている。微かに聞こえる音は水音だろうか。近づくと、さくりと地を踏んだ足音に気付いた彼が振り向いた。
    「お、先生」
    「ネロ」
    何をしているのかと手元を覗き込むと、大きなたらいの中に一杯にはられた水と、何やら小さな毛玉がネロの手に包まれてもぞもぞとうごめいている。ぺしょりとへたれた毛が水面でゆらゆらとなびき、濡れた毛の合間からくるりと丸い目がファウストを捉える。目敏く小魚に気付いたのか、にゃあん、とねだるような鳴き声をあげた。
    「子猫?」
    「うん。迷い込んできたんだろうけど、どこをどう通ったらそうなるんだ、ってくらい泥まみれ草まみれでさ」
    だからこうして洗ってやってんの、と泥で濁った水を魔法で浄化しながらネロは答えた。冷たさに驚かないように、熱で火傷をしないように、たらいの中はほこほこと人肌程度のぬるま湯で満たされている。洗われるのを嫌がる猫が多いところ、この子猫は大人しくネロの手に身を委ねており、時折くぁ、と欠伸さえ零している。安心しきっているのだろう。お前白い毛してたんだなぁ、とのんびり話しかけるネロは穏やかな顔つきで再び手を動かし始めた。

    腕まくりを普段より少し上まで上げ、跳ねた水でエプロンを転々と湿らせながら猫を洗うネロを、ひとつの疑問と共にファウストは背後からじっと見つめていた。
    「……魔法を、」
    「ん?」
    「そうして生き物に触れる時、魔法を使わないな、と。ネロはいつも、ネロ自身の手で触れるのだなと思って」
    いくら泥んこの猫とはいえ、魔法を使えば一瞬で汚れを落とし、綺麗な状態に整えることができる。自身の手を汚さずに済むから、魔法舎にいる他の魔法使い達のほぼ全員がそうしただろう。けれどネロは、それをしない。どうして使わないの、というファウストの隠した問いを正しく拾ったネロは、耳の裏にこびり付いた泥をこしょこしょと丁寧にかき取ってやりながら、ううん、と唸った。
    「魔法が手抜きとかズルだとは思わないけどさ。何というか……命に触るのに、一足飛びにスキップしたくないというか。できる限り手を抜きたくないというか」
    ネロは料理にも魔法を使わない。切り身になっても、収穫された物言わぬ緑であっても。この世界に生まれ、育ったものはみな等しく生命だと、触れる手はどこまでも丁寧で、敬意を失ったことはない。今、ファウストの見ているところで子猫を洗う手付きは優しく、目の前の小さな生命のぬくもりへの慈愛が込められている。
    生命に真摯に向き合うその姿勢は、魔法使いという超然たる存在だったとしても、同じ地に生きる等しい生命なのだと相手に訴え、自分に言い聞かせているようで。ネロの、いじらしさと少しの切なさの混じり合った不器用な心が垣間見える。
    「風邪ひかれても困るから、さすがに乾かすのは魔法使うけどな」
    美しい白毛を取り戻した子猫の身体をネロは魔法でひといきに乾かしてやった。一瞬の出来事に驚いた様子を見せるも、すぐに順応したらしい子猫はごろごろと喉を鳴らしてネロの手にじゃれついている。可愛いな、とネロは子猫を優しく撫でている。

    ──いいな。
    「ファウスト?」
    ファウストはネロの隣にしゃがみ込むと、すす、と身体を寄せた。ぴたりとくっついた二人の影は隙間なく地面で寄り添っている。
    「……僕にも、その手で触れてくれないか」
    帽子を外し、そのまま頭をネロの肩にこてんと乗せる。
    慈愛を込めて、敬意を込めて。ネロの手に触れられている子猫を見て、いいなと思った。羨ましいな、とも。あんな風に優しく触れてほしい。こんな自分の命さえかけがえのないものに思わせてくれるような、包み込むような情で触れてほしい。ネロの手が恋しい。
    ちら、と覗き見たネロは思った通りに目を少し見開いて驚いているようだった。
    「なーに、珍しい」
    ぱちぱちと瞬きをしたネロはやがて目尻を柔らかく下げ、ファウストの頭をゆっくりと、丁寧に、慈しむように撫でた。
    生命の尊さを知る手は、どこまでも優しく、温かい。そのぬくもりに身を委ねるようにして、ファウストはそっと目を閉じた。
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
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    Laurelomote

    SPOILERこの文書は『ブラックチャンネル』の、主にエピソード0について語ります。漫画版・アニメ版両方について触れます。
    コミックス最新刊の話までガッツリあるのでまだ読んでないよこれから読むよって方はご注意ください。
    あくまで個人の考察です、自己満足のため読了後の苦情は一切受け付けておりません。
    タイトルの通り宗教的な話題に触れます。苦手な方はブラウザバックで閉じる事を推奨致します。
    ブラチャン エピソード0について実際の神話学と比較した考察備忘録目次:
    【はじめに】
    【天使Bとは何者なのか】
    【堕天】
    【そもそも"アレ"は本当に神なのか】
    【ホワイト(天使A)とは何者なのか】
    【おまけ エピソード0以外の描写について】


    【はじめに】
    最近、ブラックチャンネルという月刊コロコロコミック連載の漫画にどハマりして単行本最新5巻までまとめて電子購入しました。
    もともと月刊コロコロ/コロコロアニキの漫画はよく読んでいたのですが(特にデデププ、コロッケ!etc)、アニキの系譜であるwebサイト『週刊コロコロコミック』において次々と新しい漫画の連載が始まり色々読みあさっていたところに、ブラックチャンネルもweb掲載がスタートし、試しに読んでみたらこのザマです。
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