先程までの熱気が消え去った、プロム会場。フェイスとウィルが運営を行った今回のプロムは、大盛況と言わんばかりのものとなった。数時間前にプロムは終わりを告げ、現在は、フェイス、ウィルの二人で、片付けを行っているところだった。
「フェイスくん、本当に、今回はありがとう。」
「今更何言ってんの。」
「えへへ。」
二人しかいない時間には、穏やかな時間が流れる。もうエリオスの制服に着替えていた二人は、最後の掃き掃除に取り掛かろうとしていた。もう、装飾はほとんど残されていない。
「ヘイヘイ!そこのお二人サン♪」
ほうきをもち、話しながらもとりかかろうとしたその作業は、始めるよりも前に第三者の声によって阻まれた。
「ビリー?」
「ビリーくん。どうしたの?」
そこには、同じ歳でエリオスに入所し、今回のプロムの運営にもちゃっかり携わってくれた、オレンジ頭のビリーがいた。もうプロムは終わっているし、ビリーは運営をしていた訳でもない。なんなら、プロムの最中、この会場で彼の姿は見ていないはずだった。疑問は募るばかりである。
「ふふん、なんでここにいるんだって顔してるネ!」
「そりゃね。何しに来たの?」
「ノンノン!DJが冷たいよウィルソン氏〜!」
「あはは、どんまい…?」
「なぜ疑問形!?」
ビリーを混じえた三人の会話は、徐々に拍車をかけてゆく。掃き掃除をしていたかったはずのその手は、もはやほうきを持て余してばかりである。プロムの準備期間の会話だけでは足りなかったのか、クエスチョンロッカーの話に始まり、現在は、アカデミー時代の思い出話へと深けている。
「あ!そうそう!オイラ二人と話したくてここに来た訳じゃないんだった!」
ハッと我に返ったビリーは、急遽自分がここへと来た理由を思い出す。ウィルとフェイスはキョトンとしながらも、ビリーの返答を待った。
「Schall we dance?」
唐突に放たれたその単語に、ポカンとする二人。ビリーはそれを横目に、いつもの調子で笑って見せた。
「オイラ、在学中のプロムには出たことないんだよね。でも、今回ウィルソン氏とDJが運営やってるところを見て、出たいなって、思ったんだ。だから、俺と、踊ってくれませんか?」
締りのない顔をしていたふたりは、ほうきを壁へと立てかけ、何事も無かったかのように、ビリーに向き直る。
「もちろ」
「俺とならいいけどウィルとはダメ。」
「フェイスくん!?」
「ワーオ♡」
頬を膨らまし、ウィルを抱き寄せるフェイスは、どこかあどけなく見えて。最初こそ驚いていたものの、ウィルとビリーは、その見慣れないフェイスの表情に、忽ち笑いが溢れだした。
「なら、俺とフェイスくんとビリーくん、三人でいっきに踊ろうよ。」
「え、そんなこと出来る?」
「ふふ、わかんない。」
「でも、楽しそうだね!オイラは賛成〜!」
「ちょっと、話進めないでよ!」
終わったはずのプロム会場に、もう一度、曲という名の花が開く。踊るは三人、たったの三人。
アフターパーティーの始まりだ。