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    sakura39_noel

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    sakura39_noel

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    1🪐
    歴史に名を残したり残さなかったりする個性の強い人々をもてなすための秀吉主催の北野大茶会に余興のために呼ばれたノブは、同じく余興のために準備をしているかつての主人であり部下であるミツヒデを探していた。
    全身を眩しいばかりの黄緑色…本人たち曰くモスグリーンで包んだ探し人は思いのほかすぐに見つかり、蘭丸含むバルト5のメンバーといるのかと思ったら一人で楽屋付近の椅子に腰掛けていたたため、チャンスとばかりに近づき声をかける。
    「ミツヒデ」
    「…ノブはん」
    …警戒されている、とわかる。
    当然だ。
    あのとき、あんなふうに終わってしまったのだから。
    ノブはどうにかして友好な関係を築きたいと考えていたが、謀反を起こした相手に友好的に接しろという方が無理な話なのだろう。ミツヒデはノブに苦手意識を持っているようだった。
    …ただ、ミツヒデの方もかつて自分が殺した相手への接し方に考えあぐねているように感じられた。それが誤解故のすれ違いなのだということに気づくような人間がいなかったため、ここまで拗れてしまったが。
    ミツヒデは何でもそつなくこなすが故に一人の人間に深く接して入れ込むことがなかったし、ノブも他人を信じることが苦手で積極的に人と関わることがなかったために、ふたりとも極端に親密な人付き合いが下手だった。
    それで生きてこれたのだから特出して問題はなかったが、自分から仲良くなろうとするのなら話は別だった。
    「…はぁ…
    もう少し、こう…隠してくれてもいいと思うのですが…」
    自分が近づく度にこうも嫌そうな目線を向けられてしまっては、話しかけようと奮い立たせた心が折れてしまう。
    「嫌やなぁ、ノブはん
    隠すも何も…うちがなんかしたこと、なかったやろ?」
    そう言いながらもミツヒデの視線は冷たくにっこり、と効果音がつくほどきれいにつくられた表情から好意的な感情は読み取れない。
    はやくどっかいけ、という圧がひしひしと伝わってくる。
    それでも、負けじとこちらもよく恐ろしいほど整っていると評される顔でにっこり、と笑って会話を続ける。
    「そうでしたか?
    まぁ、いいです。
    今日は食事でもどうか、と誘おうと思って」
    「…それ、本気で言っとるん?」
    貼り付けた笑みを取っ払って信じられない、といった表情でこちらを見てくるミツヒデに、そちらのほうがらしいな、と場違いなことを考える。
    「あなたに対しては、私はいつも本気ですよ。
    あぁ、安心してください。蘭丸も誘いましたから」
    …流石に、二人で行くのは気まずい。
    そう思っての提案だったが、思いの外ミツヒデの反応は良かった。
    「ランちゃんも来るん?
    ………そんなら行こかな」
    少しの思案のあとに了承の返事をして、約束を取り付ける。
    昔は蘭丸のことなど対して興味もない…どちらかといえば嫌っているようにもみえたというのに、今ではランちゃんランちゃん、と何かに付けて世話を焼いている。そんなふうにミツヒデと接することができる蘭丸が羨ましく、昔の…それこそ、ピロシキ、と呼ばれていた頃の自分だったら。なんて、つい不毛なことを考えてしまう。
    …ニコニコと屈託なく笑いただ一心に慕うような純粋さは、自分からは最早失われてしまった。

    少し世間話をしてから、バルト5の出番が来たことで会話を切り上げて別れ、その場を去り少し歩いた廊下でヘナヘナとへたり込む。
    食事の約束をした。その事実に、ニヤニヤとだらしなく緩んでしまう口元を抑えきれず、思わず手で覆った。
    ミツヒデにとっては、本当に心の底から望むんだ席ではないだろう。蘭丸がいるから、それだけの理由で、ノブのことは思考の端にもないのかもしれない。
    それでも、今日ミツヒデと他愛もない会話で笑い合い、次回の食事を楽しみに過ごすこの時間がノブには何物にも代えがたいほどに嬉しかった。

    「…許してください、旦那さま。
    私には、あなたを手放す気はないのです。」
    そう、誰に言うとでもなく呟き、覆った口元の笑みを深める。…こんな顔を、蘭丸や信忠、ヨメには見せられないな、と自分を律して努めて平静の顔を装う。
    バルト5の曲は終わりに近づき、ノブとヨメの出番はもうすぐというのに舞台袖に出てこないノブを探す愛らしいヨメの声がきこえる。
    「あぁ、ブルーダイヤ、どこやったっけ…
    ミカミの部屋、探しても面白いものでてこなかったし………」
    そういえばミツヒデを探したのはミカミの楽屋を荒らすついでだったことを思い出し、取り敢えず近くにいたミカミのマネージャーさんに契約書を借りる。
    ヨメがダイヤに喜んでくれるかは微妙なところなのは悲しいが、ミカミの驚く姿は目に浮かぶ。
    ミツヒデとの食事の約束だけで上機嫌なので、私物の押収ができなかったのはまあ良しとして、契約書一式とブルーダイヤ、大量の飴とボンレスハムのはいった紙袋を抱えてヨメのもとに走る。
    楽屋荒らしでノブの入りがギリギリになるのはいつものことだったので最早注意されることもなくヨメとともにアンダースローで飴をばら撒きながら舞台に上がった。

    そこからはやはりヨメにダイヤを拒まれたり、ミカミの契約書を回してちょっと怒られたりしながらも当初の予定通り歌を歌って出番を終えた。

    「ノブさん」
    「秀吉…」
    「ヒデ、ですよ。
    今日はありがとうございました」
    「こちらこそ。
    …司会、お疲れさまでした。あなたはいつも素晴らしいですね。
    エグザグゼル、よかったですよ」
    「ありがとうございます。
    ノブさんに褒められたとメンバーに伝えたら、皆喜びますよ」
    社交辞令にとられてしまった気もしたが、ノブにとっては本心でしかないので頼もしく司会をこなすヒデを思い返してつい笑みが溢れてしまった。
    茶会の亭主であるヒデは賓客や他の出演者への挨拶もあるため少し話して別れる。

    ヒデと別れてすぐにミツヒデに腕を掴まれた。
    「…サルと、何話してたん??」
    「ただの挨拶ですよ。今日はヒデが司会にパフォーマンスにと頑張ってくれたので、労っていました」
    「…ふーん………」
    ノブの返答に一応納得はしても満足はしていないらしく、ミツヒデの表情は微妙だった。
    「確かに、ヒデはんは司会にパフォーマンスにと、大忙しだったどすからなぁ…
    生演奏なんて、羨ましいわぁ〜
    でも、バルト5だってうちもランちゃんも慣れない車輪靴で頑張ってパフォーマンス、したんやけどなぁ?」
    …光秀の言葉の真意はわからなかったが、ヒデを労ったように自分がパフォーマンスを見て思ったことを率直に言った。
    思わぬ車輪靴の苦労を聞き、蘭丸にも後で改めて労いの言葉をかけておこうと思ってミツヒデを見ると、何故か意味をなさない言葉をゴニョゴニョと言って、それからなにか納得したらしく黙ってしまった。
    …思うところがあるなら、言ってくれればいいのに、とは思うがそれを言ったところで機嫌を損ねるだけだろう、と口を噤む。

    ミツヒデと別れてから他の出演者との挨拶を済ませ、帰路につく。
    伝え方がまずかったのかもしれない、と自分の発言を振り返って、想像以上に恥ずかしいことを言っていたことに思い至った。

    「………正面からの好意を受け入れるのが苦手なのは、相変わらずなのですね、」
    それならば、さて、次の食事ではどうしようかと思案を巡らせるが、今の自分では素直にミツヒデと接するというのは難しい。
    それでも、自分の意志とは関係なく口角は上がる。
    家の壁にかけてあるカレンダーを捲り、食事の日に大きなはなまるを書く。早くかつての主人の顔を見たくて、その日の前に会える日はないかと予定を考えた。


    🟢
    ノブに、食事に誘われた。
    こちらの嫌、という雰囲気に気づいているのか気づかないのかわからないが飄々と言葉を紡ぐその無駄に整った顔に一発くれてやろうかとも思ったが、どちらも次に出番を控えている身。そのため問題を起こすことも一応商売道具である顔を傷つけることもできずイライラをつのらせていた。
    そんな中での食事の誘い。
    ふざけてんのか、とも思ったが、それにしてはにこり、と笑うノブの顔は必死だった。
    自分を裏切って殺した相手と食事なんてありえないだろと言いたかったし断るつもりだったが、ノブの口から出てきた蘭丸、の言葉にうちは遠慮するわ、という返事を呑み込んだ。
    …今も、蘭丸のことを大切に思ってんのか、お前。
    あの頃はただただ口うるさくめんどくさいガキだと思っていたが、関わってみるようになるとよく気はつくし気にならない程度に気遣いもできる。やりすぎずその塩梅を心得ている蘭丸にかつてのような感情は消えむしろ居心地の良さを感じていたが、それはあの頃から関係を変えないノブも同じようだった。
    自分が行かなければ、ノブを盲目的に慕っている蘭丸は一も二もなく喜んでノブと食事に行くだろう。
    それは、少し癪に障った。
    断るつもりだった返事をイエスに変えて、日程や時間を決める。
    ノブは蘭丸にも聞かなくてはと言っていたが、ノブ命の蘭丸であれば多少無理をして…バルト5としての活動をかなり減らしてでもノブの予定に合わせるだろう。残りの3人のことを考えてから、自分もそうするだろうな、と誰にとも無く頷く。

    それから、少し雑談をした。
    最初は無難に天気の話をノブが振ってきて、まじかよコイツ、と思ったが乗っかってやった。気まずい雰囲気が続くと思われた会話は思いの外弾み、そういえばあの頃ですらこんなにしっかりと向き合って話したことはなかったと思い至る。

    …自分はまったくもって京都の生まれではないが、京都弁、という言語は日常生活において…特に自分にとっては素晴らしく合っていた。
    本音を隠して、建前を探して。
    言葉の裏に幾重にも意味を含む。
    本場の人間にきかれたらそれこそ笑って嫌味を言われそうな拙いものだろうが、キャラ付けには十分。
    自分の本音を隠してくれるものなら、本来の自分を偽ってでも使う価値がある。
    そんな偽りだらけの会話でもノブにとっては楽しいらしく、こちらの思いに気づかずにニコニコとあの頃のピロシキのように話していた。

    つついづつの曲が終わりに近づき、バルト5の出番が迫り、話を切り上げて舞台袖に向かった。
    …あの場にあれ以上長くいられなかったので、出番が来てくれたのはありがたかった。
    なぜだか心が酷くざわついて、呼吸が苦しく舞台袖で蘭丸に大丈夫?と心配されてしまった。
    …本当によく気がつく。こういうときばかりは他の3人のように鈍くいてほしいと思ったが、水の入ったボトルやタオルを持ってきた勝家と清秀、オロオロしている村重の姿にあんなにしづらかった息がすうっと入って思わず笑ってしまった。…気に食わないし扱いづらいと思っていたかつての同僚たちは思っていたよりもいいやつで、素直に感謝を告げることができた。
    ダンスや歌は得意分野だったし、車輪靴を履いて、という不安材料を除けば舞台に出るのに問題はなかったのでそのまま進む。

    自分の出番は終わり、あとは幕を待つだけ。ノブとヨメは見る気がなかったが、先程の会話で無性にノブが気になった。
    嫁と言っても光秀が嫁として取り持った帰蝶ではなく息子信忠の嫁である松姫。意味がわからない。
    それなのに、ノブは帰蝶を思い出す、などと言って尻を追いかけているらしいのだから頭に???しか浮かばないが、元々は宇宙人なわけだしまぁそういうものなのだろうと無理やり納得する。
    自分がどれほど頑張っても手に入れられないだろう金額のブルーダイヤ。そんなものをぽんっと渡せてしまうノブがわからなくなった。
    やはり、宇宙人だから価値観が自分たちと違うのか?そんなものを渡せるくらいにヨメを愛してんのか?
    わからなくて、また無意識に呼吸が浅くなっていたらしい。周りに気遣われるのも悪いと思い、意識して息を吐きだし、肺に空気を満たす。

    エグゼグザルの出番も終わり、宴もたけなわ、北野大茶会は閉幕した。

    周りが帰り支度をする中、ノブがサルと話しているのが見えた。
    …また、あいつか。
    山崎で大敗した、とネタにしているがあれはいい思い出ではないし、自分より格下、しかも死にかけていた百姓である秀吉に負け天下を掌握する足がかりになってしまったことは苦々しい記憶でしかなかった。サル大嫌い、とはユニットの総意ではあるが、その言葉に含まれる意味には大きな乖離があった。
    ただでさえ嫌な記憶を思い出させる顔に不快感を覚えていたところに、先程自分と話していたときよりも楽しげに、よりピロシキに似た笑顔で話すノブを見て、苛立ちがつのる。
    どちらに、かはわからなかったが、おそらくどちらにも、なのだろう。
    サルが他のやつのところに挨拶に行ったのを見計らってノブに話しかけた。
    何を話していたのかときけば労いだという。
    …嘘ではないのだろう。だが、サルに向けた笑顔に含まれる感情を想像して苦しくなる。
    「確かに、ヒデはんは司会にパフォーマンスにと、大忙しだったどすからなぁ…
    生演奏なんて、羨ましいわぁ〜
    でも、バルト5だってうちもランちゃんも慣れない車輪靴で頑張ってパフォーマンス、したんやけどなぁ?」
    他の三人のことは知らないし、転びまくり滑りまくる村重からは目を背けたくもあるが。
    頑張りで言えば、労われたっていいはずだ、そう含みを込めて言ってみた。
    「そうですね…
    本当に、お疲れさまでした。一応裏で見ていましたが、本当にダンスのキレがすごいですね…声も、歌ももちろん素晴らしいんですが、視線を奪われて、目が離せなかった。
    …蘭丸にも後で直接言っておきます。」
    そう、正面から褒められてしまうと嫌味の一つも出てこない。
    しかも、自分の一番自信のあるダンスをとって目が離せなかった、など。
    「そ、そか…」
    見られているなら、もっと…いや、常に全力で、最高のパフォーマンスをしているという自負はあるが、それでももっと、と考えてしまう。



    …家に帰って、今日のことを思い返した。
    いままでもノブに話しかけられたことはあったが、気まずさ故にすげなく断り続けていた。
    あの頃とは全く変わってしまった姿。一筋だって赤のみつからない黒髪に人間と同じ短い耳。穏やかな話し方はピロシキのままのはずなのに、どこかどっしりと、威厳を感じさせる佇まいや雰囲気は信長とも違いまるで別人のように感じさせられた。

    …なぁ、なんで俺なんだよ
    再開してから、ずっと胸に重く沈んでいる問い。
    お前には蘭丸も秀吉も松姫も秀忠もいんだろ。
    お前のことを後生大事にしてるやつがいて、どうしてお前のことを大切にしてやれない俺なんだよ
    そう思ってから、ノブが自分ではなく彼らを選び自分から離れていくことを考えて足元が崩れていくような感覚に囚われる。
    「………なんで、放っといてくれへんのかなぁ…」
    自分のもとから去るのは許せないし、かといって一緒にいられるほどの勇気も覚悟もなかったから、最初に手放したのは自分だ、ということから目を背けて独りごちる。
    「…ま、全ては過ぎたこと
    今は、水に流しまひょ」
    蘭丸やサルには完璧に作った笑顔で接せるのに、ノブに対してはついペースが乱されてしまう。…その意味が、わからないほど鈍いわけでもない。だが、そんなことはありえない、となけなしのプライドが否定した。
    だから、ミツヒデは今日も嘘を塗り固める。
    遠すぎず、近すぎず。
    言葉に皮肉、笑顔に打算。
    そうして偽った自分であれば、拒まれたときに他人事に思える、なんてありはしないのに理由をつくって距離をおく。
    …だが、バルト5として呼ばれノブのもとで活動する以上、今日のように被ることもあるだろうし今までのように避けてばかりもいられない。
    数日後に食事の予定があるとはいえ、しばらくは顔を合わせにくいな、と頭を抱えた。
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