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    maeda1322saki

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    maeda1322saki

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    星屑籠城戦

    星屑荘3 2-2 星屑荘3 2-2
    🎃

    「って、ここで寝れるわけっないだろ……!」

    微睡を振り払い、立てた大鎌に腕を乗せて立ち上がる。
    遠くから魔獣の咆哮が聞こえる。ここで寝れば奴らの格好の餌食なのは目に見えている。だが、そう易々と餌になってやるほど、俺は優しくない。
    魔力はほとんど残ってないが、後少しなら持ち堪えれるか。自身のタイムリミットは後少しだ。あの二人が戻ってくるまで……。

    そう考えたところで、ハ……と乾いた笑みが自然と溢れた。

    「やってやろうじゃないか。温情なんか必要ないぐらい、完璧な見世物クエストクリアしてやるよ」


    🎃🎃――

    箒で浮かぶ女が二人。そのうちの一人である回子は、怖気を見せることなく杖の鋒をアヤメ達三人へと向けていた。
    「さぁ、選ぶんだ」
    どこか幼さの残るも、凛とした声色で静かにそう告げる。

    そんな二人にも目もくれず、アヤメは回子達の後ろ、魔獣、闇から逃げ惑う人々に視線を向けた。目線を上へと向ければ、しっかりと吉備回子を見つめる巨大な鬼が踠いている。プツリ、プツリと蔦が千切れていっているところを見れば、もうトラップの限界が近いことがよくわかる。

    クエストクリアの為に手伝え、さもなくば攻撃する。それが彼女達の主張である。

    だが、物事はそう簡単に上手くいかないものだ。
    アヤメ自体このクエスト結果がどうなろうと興味などないが、手を貸すかどうかの最終決定権はアヤメにはないのだ。それは恐らく、ホシガミに忠実なリリーもそだろう、とアヤメはリリーへと視線を向ける。
    うーん、とトキワが声を漏らす。
    「僕は良いけど、アヤメ君はどうかな?」
    その言葉にアヤメは、振り向きつつ肩にかかった髪を手で払いのけ「知らないわよ、そんなの」と返す。
    「けれど、あのお馬鹿ちゃん達はどうにかしないといけないわ。分かっているわね?」
    「そうだね」
    トキワは異論はないと言うように小さく頷いた。

    トキワも理解していたのだ。その杖から放たれたものが何であれ、ホシガミに当たりでもすれば、まだ未知の領域である"彼"が何をしでかすのか予想もつかない。仮にも神である彼ならば、当たったところで大した被害はないだろう。子供のように泣くぐらいなら可愛いものだ。だが、もしも彼が颯馬達、もしくはエアレンデルの全てを消してしまうとしたら?
    彼らは神だ。それも、異世界の。どんな力があるのか把握しきれていない今、敵に回すには些か危険すぎる。
    アヤメの言った“分かっているわね”という言葉は、どんな力を使ってもホシガミに被害をもたらすな。と言うことだ。

    だが、最悪を予想していた二人に思わぬ声が降りかかる。
    『人間しゃん、手をかしてあげるの〜!』と甲高い声が背を抜ける。
    『リリーしゃんも、トキワしゃんも、アヤメしゃんも手をかしてあげてほしいの〜!』

    その声の主が見えていない颯馬は、「え?どこから?」ときょろきょろと周りを見渡す。

    『ステキなの!いいことなの!人間しゃん“みんな”がクエストに参加すれば、きっとたのしいと思うの〜!』

    トキワは颯馬達二人を見つめてにっこりと「だって。良かったね」と言った。

    「今の声は…?」
    まだ状況を把握できていない颯馬がそう呟き、回子と目を合わせる。

    そんな二人を置いて、リリーは「ホシガミ様がそう望むなら」と物見台から闇をめがけて飛び降りた。

    「さて、僕達がこのクエストに参加することが決まったみたいだし、君達には気にすべき事があるんじゃないのかな?」
    トキワがそういうと二人はローレンスのことを思い出し、颯馬は「そうだ、ローレンスくん!」と声を上げた。
    「でも、トキワ様……本当に協力してくれるんですよね?嘘じゃありませんよね?」
    先程まで協力的な姿勢を見せなかった人達が急に手のひらを返して協力をするということに、颯馬も回子も不信感を抱く。
    「ホシガミ様の命令だからね、アヤメ君もリリー君も協力してくれるはずだよ」
    眉を顰め訝しむ颯馬にトキワは肩をすくめ「まだ信じられないなら、それは、行って見れば分かるんじゃないかな」と苦笑する。

    「そろそろローレンスさんのところに戻らないと」
    回子のその言葉に颯馬は頷く。
    「そうだね、行こう!」
    箒に乗った二人が飛んでいくのを見届け、トキワは物見台から地上へと降りた。

    地上にはいつの間にか来ていたアヤメの姿がある。

    「アヤメ君は行かないのかい?」

    その問いにアヤメは身体ごとトキワへと向き直る。
    「興味ないわ、あんな魔獣とか闇とか」

    ぷち……ぷち……と微かな音と共にずるりと粘着の音が混ざり合い、目玉は重力に従って垂れ下がる。目玉の鬼を封じ込めていたトラップが消滅すると共に、風が舞い上がる。豪風が吹き上がり、微かな桜の香りがアヤメから漂った。

    アヤメは親指で後ろを指差すと同時に、轟音をたてて目玉の鬼が地面に落下した。
    舞い上がる土埃を気にも止めず「これを躾ける方がずっと楽だわ」と当然のように言い放った。

    トキワは彼のそんな姿に感心にも似た気持ちを覚える。
    初めて会った時から、どことなく自身の部下である颯馬を思わせるところがあった。今までは、それが何故か理解出来なかったが共に暮らし、クエストを進行していくうちに見えてきたのだ。
    颯馬と同じ、仕事でのオンとオフをしっかりと区別しているところだと。
    今の落ち着いて話をする姿は、仕事モードというわけだ。

    人よりも遥かに大きなその巨大、その中心部に存在する目がぱちりと瞬きをする。黒目がぐるりと辺りを見回した。その瞬間、「縺ゥ縺謎ス募縺ゥ縺謎ス募」と身体から無数の黒い糸が地面を這いはじめる。まるで毛細血管のように地面を覆ったそれは二人を追い越して、ローレンス達がいる方向へと伸びていく。

    「あら、や〜ね♡この街ごと食べるつもりかしら。意地汚いったらないわね」

    呆れたように髪を掻き上げたアヤメは、トキワへと「貴方はどうするのよ」と問いかける。
    トキワは、その問いに返事をするには不自然な間で笑みを浮かべる。
    「僕もお邪魔しようかな」
    「何笑ってんのよ」
    訝しむように眉を顰めたアヤメに「あれ?ここは笑みを浮かべるところじゃなかったかな?」と問いかければ、呆れた声が返ってくる。
    「いつも思うけれど、それ……裏があるって怪しまれるわよ」
    「そうかな、じゃあ気をつけないとね」
    「貴方みたいなのがいると、部下は
    トキワは微笑し「うーん、そうかな」と呟いた。

    「そういえば、アヤメ君。前にローレンス君が牙を剥いて立ち向かって来るとこが好きって言ってたよね?」
    「急に何よ」
    「それで思ったんだ。僕も、君の仕事に忠実なところ嫌いじゃないなって。きっと、君の部下は僕と違ってんだろうね」
    「きっと颯馬とも相性が合うと思うよ」とアヤメの目を向ける。だが、アヤメは眉を顰めて空いた口が塞がらないとでもいうような表情をしている。
    「アンタ、あれが嫌味だって分かってるの?」
    「え?いつ嫌味を言ってたの?」
    アヤメは地に近い声で「ほんっと、こいつ……」と呟いた。


    🎃🎃🎃――

    激しい金属音が耳に響き、ローレンスは息を整えつつその音の出所を探す。だが、限界に近づいた体力で霞む視界の中では、それを見つけ出すことは叶わなかった。

    気配で感じ取った魔獣の攻撃を間一髪で受け流し、その勢いのまま敵を切り伏せる。だが、体軸を保てず膝をつく。冷んやりとした地面には先程はなかった黒い線が張り巡らされていたことに気がついた。

    何かが起きている事は分かる。激しい衝撃音、地面の変色に寝てる場合じゃないと分かりつつも微睡む頭に苛立ち、「クソ……」と悪態をついて頭を振るう。
    その時「ローレンス君!」と頭上から颯馬の声が聞こえ、咄嗟に見上げる。

    箒から飛び降りるようにしてローレンスに近づいた颯馬は、ローレンスの肩に触れる。

    「大丈夫?!」

    「颯馬か。じゃあ、あれは……」

    「うん、上の人達に協力してもらったんだ。リリーちゃんが魔獣達と戦ってくれてるよ」

    「そうか、作戦は上手くいったんだな」

    そう分かった瞬間、ローレンスの身体の力が抜ける。倒れる――と思ったが、その身体は颯馬と回子によって支えられた。

    「ローレンスくん、みんなを守ってくれてありがとうね!あとは任せて!」

    「いや、だが……」

    「大丈夫だよ。ローレンスさんが帰ってくるまでは僕達がここを守ってみせるから」

    二人の言葉にローレンスは諦めたように「あぁ、なら少し休ませてもらう」と微笑を浮かべた。
    二人の肩を借りてローレンスは教会へと向かい、教会で身体を休めることとなった。


    颯馬と回子がリリーのもとへと駆けつけたときには、まばらに残っていた魔獣はその姿をほとんど消していた。
    魔獣の血液を髪に絡ませたまま、リリーは二人の気配に振り返った。
    ひらりと髪が靡き、光を纏わせる剣がリリーを煌めかせる。その強さと佇まいはまさに戦姫と呼ぶに相応しいものであった。

    🎃🎃🎃🎃――――

    「おや?R様はどこに?」

    ステファンのその一言で、デライトもそこではじめてRが居なくなったことに気が付いた。

    「アイツ、また蝶々追いかけてったのか?」

    「さぁ、どうでしょうか。蝶々か、あるいはキラキラした何かを見つけたのかもしれませんね」

    デライトは「何やってんだ、あいつ」と岩から腰を上げた時、地面に無数の黒い線が生え「うわっ」と思わず片足を上げる。

    「何だこの気持ちワリィもの!」

    ステファンはまじまじと地面を見つめ、「こんな事あります?」とデライトに問いかける。それと同時に遠くから轟音が鳴り響く。空気を震わせるサイレンにも似た雄叫びが二人の髪を靡かせる。

    「おいおい……アイツは大丈夫かよ」

    「これ、探してみた方が良いですかね……?」
    デライトの様子を伺いつつそう声をかける。
    「あー……」と考え、少し間を置いてデライトは仕方ないというように「……だな」と答えた。

    だが、そんな二人を阻むかのように地面から無数の小さな鬼が這い出るように姿を現す。
    何と言っているのかは聞き取れないが、耳を劈くような高音の嗄声が辺りを埋め尽くしていく。
    生唾を飲んでその姿を見つめる二人に気が付いた小鬼が、顔を向ける。

    「……ゲっ!」

    走り出した小鬼に後退りした時、他の小鬼がその小鬼を襲い始めた。見れば小鬼達は共喰いを始めていた。

    「わ〜気持ち悪いですねぇ」

    「って、のん気に言ってる場合じゃねェ!この隙に行くぞ!」

    「あ、じゃあ囮に――」と、ステファンが言いかけたところで「良いから逃げんぞ!」と遮り、ステファンを俵担ぎして走り出す。

    「おや?何か既視感がありますね」

    「やかましい!!」

    🎃🎃🎃🎃🎃――

    無数に張り巡らされた黒い線から小鬼達が無数に湧き出て、共食いを行う。この光景をアヤメとトキワも目撃していた。

    「僕達を襲ってくるわけじゃないんだね?」

    驚いた様子もなく、目玉の鬼からの攻撃を交わしつつそう疑問を口にする。

    「それに出てきた途端に共食いをするなんて驚いたよ。あれは闇でもないし、鬼かな?」

    「全然驚いたようには見えないわね。それと、アンタが言うようにあれは餓鬼っていう鬼よ」

    「ガキ?」

    「満たされない飢えによってこの世の全てを貪り食う小鬼よ。一体一体はここの村人でも倒せる程弱いけど、ああやって共食いをする事で力を増して行く厄介な鬼なのよ」

    「じゃあ、力を蓄えるまで襲ってこないってことかな?」

    「さぁ、どうかしらね」

    アヤメはそう言いいつ目玉の鬼から出された棘を交わし、反撃として星形の小さな光を出現させ、目にも止まらぬ速さで鬼を撃ち抜いていく。

    「なんにしても、こっちを見てないのなら都合が良いじゃない?♡」

    「それもそうだね」

    衝撃で身体をふらつかせた目玉に追い討ちをかけるようにトキワの砂が鋭利な形となり、地面から目玉を串刺しにしようと出現していく。避ける目玉を追いかけるように地面から何本も出現しては砂に戻りを繰り返し、鬼の図体を削っていった。

    人の声では到底出せない金切り音が周囲にこだまする。

    「うるさい悲鳴ね。最後の悪あがきと言ったところかしら」

    「少し可哀想だね」

    「私達を殺そうとしてるものに対して、よく言えるわね。それに、そういうことはアレを倒しきってから言ってほしいわ」

    アヤメの言葉通り、目玉の鬼は体制を立て直してさらに多くの棘を放出させる。

    「おっと」とトキワが土壁を作り防御するも、回り込んだ棘は未だ二人を捉えている。「困ったな」と言いつつ、平然と大量の砂を操ったトキワはその砂で棘を埋め尽くし、地中へと埋めた。

    「じゃあ、此方からも仕掛けてあげようかしらね♡」

    アヤメはそういうと、天へと手を伸ばす。瞼を閉じ、声のない微かな息がふぅと吐き出される姿は、天へと祈りを捧げる神子のようにもみえる。
    天から複数の陽射しが差し込んだ。その光は照射箇所を変えて、変えて、鬼に光の雨を降らせ、攻撃を喰らわせていく。焼けた臭いと悲鳴が続き、次第に鬼の声は弱々しいものとなっていった。

    先程の攻撃と、今回の攻撃を合わせれば、もう鬼は動けなくなるはずである。星の光が身体に纏わり付き、小さくキラキラと光りを反射させた。

    鬼は倒された、トキワもそう思った。もちろん、アヤメ自身もだ。
    だが、突如目玉の鬼は咆哮を上げた。大地を震わせる大声で、目玉の鬼に命じられたかのように小鬼達が一斉に二人を見た。耳を劈くような高音の嗄声を上げて、目玉の鬼と共に一斉に二人へと襲いかかる。

    だが、二人が目を奪われたのは森から飛んで来た紫色の猿……元い、Rだった。
    頭上で両手を組んで、目玉の鬼の頭部に「よいしょー!!」と振り下ろした。

    その瞬間、Rの攻撃により衝撃波が生まれ、小鬼達は圧力により潰された後、爆風により空高く巻き上げれていく。
    目玉の鬼は、その身体の半分以上を消失しコロリと力なく転がった。
    地面に着地したRはというと。

    「スゲースゲー!!でっけーー!!」

    先ほど倒した目玉の鬼を見て、はしゃいでいたのだった。






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