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    maeda1322saki

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    maeda1322saki

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    R導入です。
    長男G、次男B、三男R のゴキブリ三兄弟の話です。読みにくいなって思いました。
    用語解説
    ジェムレリック=能力をもった宝石

    ##星屑荘

    「神秘の星」と「生きた絵画」R導入
    2022年。
    大型ピックアップトラックに大型キャンピングスペースを搭載した“RexRoverレックスローバー”。
    北米の自動車都市デトロイト近郊に位置するフォード博物館。そこに、このピックアップキャンピングカーは、2023型となる新作としてプロトタイプが特別展示されていた。
    パワー性は勿論のこと様々な灯火、オフロードタイヤを装備し悪路走破性をもった車であった。尚且つ、インテリアは機能性は勿論のこと高級ホテルのようなデザインで、とても美しい作りでこの界隈では注目の車であった。

    ――あったというように、そう、これは過去の出来事である。

    皮肉にも、皆が口々にするその車の一番の話のネタは、洗練された内装でも機能性溢れる仕様でもなかった。
    ならば、なにか?と問われれば、それはフォード博物館から忽然とその姿を消したことだろう。
    何重にも警備がされたその博物館から、誰が、どのように、どんな理由で盗まれたのか……と。
    館長がその展示室に入った時には、車の紹介プレートと共に『$ 350,000 USD 4811万円』と書かれた値段プレートのみがあったという。

    なら、その車は今どこに?

    その答えを知っているものは、盗んだ張本人達だけだろう――。





    ――――




    2025年。

    ボリビア首都ラパスから南西に位置する町、ボハスプンタ。
    アタカマ砂漠の一部であるそこは、茶色の砂が一面に広がりただただ何も無い道路のみがそこに存在する。
    その道を北東に進んでいく一台のピックアップキャンピングカーがそこにあった。
    原色がなんであったかも今ではもう分からないほどに車体はペンキで塗り重ねらていた。紫や黄色、青などのカラーを重点的に、タイヤホイールや車体下にカラーライトを搭載し最初の重厚感溢れる見た目とは真逆のド派手な車へと変貌していた。

    その車体の窓から流れるギターリフは低く、荒々しく、力強く弾かれたコードがまるで轟音のエンジンを連想させる。
    ギターリフは徐々にビートを刻んでいき、しゃがれ声の男性ボーカルが歌うと共に音程が少し跳ね上がる。歌詞が紡がれるごとにスピード感と開放感を強調していく。
    荒削りで、尚且つシンプルなメロディーと共に歌は流れ、この歌を体現したかのような三つ子の男達は、それぞれが違った表情で和気藹々と話を弾ませる。

    キャンピングカーの二階には寝台があり、そこに雑に置かれた布切れで包まれた絵画。三人の幼児が描かれたその絵画と共に、この男達は何百年という旅をしてきた。
    ある者は彼らを親しみと侮辱を込めて『ゴキブリ三兄弟』と呼ぶ。
    その名前の由来は、“長男であるG“、”次男であるB“、”三男であるR“ が各国のゴキブリという綴りの頭文字であることから、そして、彼らの一番の特徴であるダボーグ持続的能力者からきているのだが、それはまた別の機会でお話しするとしよう。


    「この先にある列車の墓場ってのに、そのレリックはあるんだろ?」

    「って、話だがな」

    「信憑性あるのかよ、それ。大体なんだよ、μυστηριώδες ・αστέριアステル・カリエイスって。神秘的な星?しかもこれギリシャ語だろ?」

    助手席に座るBと運転席に座るGが会話をする中で、身体を乗り出してRが「でもぉ、ここはボリビアだよねー!」と笑顔で言う。

    BはRの頭を撫でつつ「よーしよしよし、地名言えて偉いな」と撫でた後「ボリビアになんでギリシャ語の物があるんだ、おかしいだろ」とGの座席を軽く蹴る。

    「しらネェよ!俺はな、たまたま盗みに入った神殿で、たまたま司祭がそう話してるのを聞いただけだっつーの!」

    「長男だろーが!ちゃんとしろよ」

    「あぁ?!テメー!こんな時だけ長男とか言いやがって!」

    Bが小突き、GもBを小突き、車は右へ左へと大きく曲がりくねり走行する。対向車線から来た車のクラクションも、道から逸れて砂漠を撒き散らすタイヤホイールも気にすることなく車は縦横無尽に蛇行する。
    だが、Rだけは「ジェットコースターみたーーい!」と喜んだ。


    ――


    列車の墓場。
    それはボリビアの歴史を表していると言っても過言ではない。だが、今ここで紹介するのはその景色だけに留めよう。
    錆びれた蒸気機関車や列車が地平線に何列も並び、長い間放置され完全に腐食しているものから、状態をある程度保っている物までが存在する。
    その荒廃した風景は、そこへ来た者たちにまるで時が止まっているかのような印象を与えているのだ。

    「わー!!ひろーーい!!」

    Rはどこまでも続いているかのような列車の列に目を輝かせた。

    そんなRを尻目に、Bは肘で隣に立つGを小突いた。
    なんだ、と言いかけた所で、目が死んでいるBを見て、再度「あ?!何だよ」と不満を隠すことなく問いかける。

    「あ?って言いたいのはコッチだ。何だこの広さ、本気で言ってるのか?」
    「宝探しなんていつものことだろ?」
    Bはため息をついて前髪をグシャリと掻きむしる。
    「あのなぁ、いつもはもう少し信憑性があるだろ。それこそNOMADの奴らが狙ってるとか、NOMADのエージェントを見かけたとか。本当にあんのかよ、ここに。無かったら骨折れ損だぞ」
    「ふざけんな、NOMADなんかが居たら邪魔で仕方ねぇだろーが」

    「……」とジト目でGを見た。
    「ガタンゴトーン、ガタンゴトーン」とはしゃぎ回るRの声を聞き流し、Bは何かを見つけたかのようにGの後方を指差した。

    「あ、オハギ」

    「へ?!ど、どとどこ?!」

    少し紅葉した頬で慌てて身綺麗にしようと髪や服を触り出したGの頭をBはパァンと強めに叩く。
    「どぉの口が!!言っってんだ!!!!」
    「イ、ってぇ!!!!」と声を上げたと同時に「あーーー!!」と遠くから聞こえたRの声が重なる。
    「ッんだよ!!ウッセーな!!」

    バタバタと足音をたてた後、「みてみてー!!」と廃列車の窓から顔を覗かせるR。後方を指差して「コインがたくさん壁に張り付いてるよ!スゲースゲー、キラキラしててぇ、キレーだよぉ!!」と満面の笑みを咲かせた。
    その言葉にGとBは顔を見合わせ、二人で「レリックだな」と言葉を重ねた。



    Rに連れられてその場所に行ってみれば、横三列に並ぶ鉄の塊と化した廃列車の一部の内壁にびっしりとコインが貼り付いているようだった。
    長い間放置された列車は扉が跡形もなくなり、大きな口を開いてる状態となっている。
    その大きな口越しに見えるのは別の列車の側面。そこにもコインは張り付いていた。割れてほとんど無くなったガラスが窓枠に申し分程度に残っている状態であり、その奥にも微かにコインが張り付いているのが見える。
    コインが壁に張り付いていることも不思議な現象であるが、その新品のような光沢を持つコインはこの場所には不釣り合いで、その神秘さを更に際立たせていた。

    地上から高さ3.7m前後ある廃車。そこの窓枠にジャンプをして手をかけたRは、手にガラスが刺さるのも気にせずに室内へと身を乗り出す。赤い液体が外壁を伝い、地面へと水滴を垂らした。
    「こっちにもコイン!キラキラ〜!!」
    眼を輝かせたRの声に「そうかー」と適当に返したBは、手前の内壁に張り付いているコインを取ろうと試みる。
    だが、強力磁石のようにピッタリとくっついているコインは取ることが出来ないようだった。ならば――と、横にずらしてみれば少しずつではあるが動くことが出来るようだった。
    横にずらしていけば、扉があった場所の大きな空間から取れると予想する。


    「病気になるぞー」とGが声をかけるのを聞きながら、更に横へ横へとずらす。

    「俺らが病気になるわけないだろ。風邪引いたの何百年前だよ」

    「あー、それもそっか。じゃあ、死なないように気をつけろよー」

    Gはそう言い直す。それに呆れたように「そうやってすぐ長男面する」と言いつつも、顔は思いの外晴れやかであった。
    Bはようやくコインを端までズラしきったのだ。
    あとは手に取るだけの簡単な作業。油断し切ったBは言葉を続けた。

    「だいたい、ここに死ぬ要素なんてなにもな――」

    ヒュッ――。
    風を切る音がしたと同時に、こちらを振り返って見ていたRの頭部がパァンッと音を立てた。

    「「あ」」

    辺りを赤く染め、糸が切れた人形のようにRは地面へ倒れる。更に地面を赤く染めていった。

    「ドチャクソあるじゃねぇか」

    「わ、悪い。あったわ」



    Gは、廃列車から飛び降りると、Rの遺体を跨いで割れた窓ガラスの方へと近付いた。
    張り付いているコインをまじまじと見つめる。
    Rの血も飛び散っているが、これはいつものことなのであまり気にしていないようだ。

    「コインのマークは、……あー……見たことねぇなー。どの国のモンでも無さそうだぜ。歴史上でもみたことねぇし、記念コインってわけでも無さそうだな」

    Bもコインのマークに目を向ける。マークには女の横顔と星が散りばめられている。裏には惑星が描かれている。

    「それで神秘の星ってか」

    「ありきたりじゃね?」

    「そう、だなぁ……」と顎に指を添えて考えながらBは徐に「どこに引っ張られてるんだろうな」と呟いた。

    「あ?」

    「どう見ても、あれは引力によるもんだ。だけど、ここら辺に磁場のある場所なんて聞いたこともない。例えそれがあったとしても、コインだけが引き寄せられるなんておかしな話だ」

    「つまり、レリックはこれだけじゃねぇってことか。引き寄せる何かと対になってるわけだな……」

    Gはそこまで言うと「はっはー」とニタリと笑うと、Bがいる廃列車に飛び乗った。

    「ッッシャア!全部落とすぞB!」

    その言葉にBもニヤリと「面白いじゃないか」と張り付いているコインを内壁の淵まで一気に持っていく。
    二人で押し出すように列車の内壁から落とせば、コインは勢いよく奥の列車の壁へと吸い込まれ、壁にぶつかったコインは破裂音にも似た大きな音を響かせる。

    奥の列車に張り付いたコインも同じように落としていると「なになにー?何して遊んでんのー?」と、Rがひょっこりと身体を起こして問いかける。

    「お、戻ったか。Rも手伝ってくれ」

    Bは、足を伸ばして可愛らしくぺったりと座るRにそう言えば、Rは明るい笑顔で「うん!」と大きく頷いた。

    三列目からコインを全て落とし切る。

    この先はウユニの街があり、その奥にはボリビアが代表する観光地のウユニ塩湖という場所がある。

    湖といえば水を想像するだろうが乾燥地帯に位置するウユニ塩湖には水は基本存在しない。それはウユニが乾燥地帯であること、一年のうち雨季が三ヶ月程しかない事等が関係している。
    そもそもウユニ塩湖という場所は、地殻変動によってアンデス山脈に閉じ込められた海水が乾燥して形成された塩湖である。この説明だけでも、ウユニが如何に乾燥しやすいかが窺えるだろう。標高の高さや気温差の大きさ、様々な環境により雨季の水分がすぐに蒸発してしまうのだ。

    落ちたコインはまっすぐそのウユニ塩湖の方へと飛んでいった。

    「ヨッシャ!追いかけんぞ!」

    Gのその一言に二人は頷き、ウユニ塩湖へと三人は車を走らせた。

    はずだった――。

    ――

    「だぁあ!!!」

    列車の墓場からコルチャニの村外れを抜けたところでGは天を仰いでそう叫んだ。

    「Rがまたはぐれた!」

    突然車から身を乗り出したRが『あっちー!』と指をさして、あっという間に車から飛び落りて走り去ったのはつい先ほどのことだった。

    「落ち着けよ、いつもの事だろ」

    頭を掻きむしるGにBはあっけらかんとそう言った。

    実際、Rは車に乗っていてもどんな状況であってもいつもどこかへフラフラと居なくなるのだ。その理由は、猫が可愛かったから。蝶々が飛んでから。キラキラしたものがあったから。等というものだ。

    「人攫いに誘拐……はされるか。ホイホイ着いていくもんな、アイツ。だが、殺されても死には……するか。だが、すぐ復活するだろ。うん、何も問題はないな」

    「何言ってンダー!!!」とGは大声を放ち、血相を変えて「問題ありまくりだろうが!!」とBを見つめる。

    「いいか。Rが唯一トレジャーハントで活かせる事は、あのキラキラに対しての異様な察知能力だ。そして、今俺らが追いかけてんのは凡そ時速227キロでぶっ飛んでるコインだぞ!」

    再度頭を抱えるGに、Bは「たしかに」と頷いた。

    「何か作戦があると思ってたんだが、その作戦がRだったわけだな」

    「俺らじゃ見失うに決まってんだろ。頭脳明晰とカッコ良さだけがオレの売りだぞ」

    「どの口が言ってんだ、万年ポンコツのIQイチが」

    「アイキューってなんだ」と顔上げたGに一言「ばか」と放ったBは、「Intelligence Quotientの略で」と言いかけたところでハッとし「このバカのせいで話が逸れるところだった」と呟いた。


    「つまりは、Rが居ないとコインの場所がわからないって事だな?だけど、飛んでった方角的にはウユニ塩湖があるわけで、ウユニ塩湖に向かえば良いんじゃないのか?」

    「ウユニ塩湖がどんだけ広いと思ってんだ。B、ウユニ塩湖の広さは?」

    「約12,000平方キロメート――、俺らは今、日本の新潟と同じ広さからコインを探そうとしてるわけだな」

    「ニイガタってなんだ?まぁ、そういうことだ。レリックがウユニ塩湖で止まってれば良いが、そのまま飛んでってる場合は発見できる人間なんて居ねぇだろ。Rしか」

    「問題しかねえな」とBはようやくその状況の深刻さに気づいた。

    「じゃあ、どうするんだよ、マジで」

    「うーん……」


    Gは一瞬、黙り込むと、突然ギラリと目を光らせて言った。

    「ある方法が、ある」

    「頭悪そうな言い方だな。なんだ?」

    「お前、覚えてるか?ヘングレ作戦」

    「覚えてるも何も――え? あれをやる気か? 嫌だ。絶対嫌だ」

    Bは、Gが何を言おうとしているのかを察し、顔をしかめた。

    「Rが居ねえんだ。やるしかないだろ」

    「嫌だ。俺は、絶対に、嫌だ」

    「でも、Rのキラキラレーダーがなきゃ俺らにコインは見つからねぇだろ!」

    「それは、そうだが……」とBは口籠るも、「でもな……」と続ける。

    「R程じゃねぇけど、俺らも金や宝石が大好きだろ…?それを手放すって…考えただけで……ッイヤだぁ〜…」

    涙目で言うBに、Gは「おい、ガキか」と呆れる。

    「甘えた事言ってないで、早くやるぞ」



    Gは麻袋を車の二階から持ってくると、嫌がるBを運転席に無理やり押し込んだ。
    Bが泣きながらエンジンをかければ、オーディオから音楽が流れ始める。

    「あー……やだやだやだ、やだぁ……」
    Bはハンドルを強く握り頭を打ちつけて、なおも兄に「いやだよぉッ」と抗議する。

    「早くペダル踏めよ!」

    Gは運転席の方へ身を乗り出して、シフトレバーを入れる。
    Gが頭を軽く叩くと、Bは「あーもう!」とアクセルを思い切り踏み込んだ。

    「ウユニ塩湖まで突っ走れ!!」

    窓から身を乗り出したGは、風をきるのを感じながら数々の宝石が散りばめていく。
    まるでヘンゼルとグレーテルのように道標として散りばめられた宝石達がキラキラと道を彩る。

    「ッあ〜〜〜〜…………!!!」

    ハンドルを強く握り、運転しながらもBはサイドミラー越しに置き去られる宝石達に目を向け、思わず大きな声を漏らす。

    「良いじゃねぇか、ジェムレリックじゃねぇんだから」

    「レリックかどうかなんて関係ないんだよ!俺の「俺たちな」うるさい!お宝を手放すが嫌なんだよ!!」

    「あ〜〜俺の宝がぁ……」とハンドルに頭を項垂れながらも、足はアクセルを踏み込む。車は更にスピードを加速させた。

    「俺たち、な」

    「……うるさい……」



    ――――



    Rがぶらりぶらぶらとたどり着いた場所は、教会であった。
    色とりどりの果物と花が飾られ、新郎新婦に花びらが舞い散る。
    太陽の日差しが教会の十字架と重なり、陽の光が二人を優しく包むような美しさ。
    その光景にRは眼を輝かせて「きらきら〜!」と言葉を漏らした。

    「おや、お前さんも祝いに来たのかい?見た感じ、旅人のようじゃが」
    子ラマを持ったお爺さんはRにそう話しかけた。

    「お祝い?」

    「知らんで来たのか。結婚式じゃ」

    「わ〜!!しんじつの、愛のチカイだぁ!!オレね、本でよんだよ〜!!」


    満面の笑みでそう返せば、奥から噴き出すような笑い声が聞こえる。

    「?」

    「あぁ、ごめんね。大の大人がそんな恥ずかしいようなこと大声で言うもんだからさ」

    「あら、あなた。私はとても嬉しいわ」

    腕を組んだ男女二人がRの元へと歩み寄る。

    首を傾げたRに男は「真実の愛の誓いをした二人だよ」と微笑んだ。

    「わぁ!!!けっこんしきの人ー!」

    二人を指差すRに「新郎と新婦と言うんじゃ」と教えるも、「なるほど、シンローくんとシンプちゃん!」と間違ったように言う。
    「はぁ……分かっとらんなぁ……」

    「ははは!まぁ、良いじゃないか父さん。とてもユーモアがあって面白い人じゃないか」

    子供みたいにはしゃぐRを見て新婦は笑う。

    「こんな楽しい式になるなんて、これからの未来は幸せになれそうね?」

    そう新郎に言うと彼も頷いた。


    「みんな幸せだよぉ。おじいちゃんもラマも、ここに居るみんなも幸せいーーーッぱいで、ニコニコしてるよぉ〜」

    Rの言葉にお爺さんは「頭は悪いが、お前さんは良い子じゃのぉ」とラマをRに渡した。

    「?」

    「此処には幸せを分け与える文化がある。じゃから、幸せのプレゼントじゃ。持って帰りなさい」

    Rはキラキラと眼を輝かせ、前のめりになりながら「オレもね!プレゼントあるよー!たくさん!」と大きな声で言った。
    何もない道だけの方を指差して「あっち!」と伝えるも、そこにいた全員は何も見えずに首を傾げた。
    Rは満面の笑みで新婦の手を繋いで「こっち!キラキラいーっぱいあるよ〜」と走りだした。

    「あ!!ちょっと、君!!」と新郎が慌てて追いかけてくるのを気にもせず「こっちだよ〜!」と足を止めずに走る。




    小道を抜けて大通りに出れば、ウユニ塩湖に続く宝石の道が存在した。

    「……まぁ……、すごいわ……」

    新婦が感嘆の声を漏らし、Rを見つめる。
    純真無垢な大男は「いーッぱい、幸せのプレゼント!これで、みーんなもっと幸せになれるねぇ」と笑う。

    「貴方って、天使なのね」

    「テンシ?ちがうよー、アールだよぉ?」

    「そう……。アール、ありがとう」

    Rはえへへ嬉しそうに笑って「こっち!」とまた走り始めた。
    宝石が続く、ウユニ塩湖を目指して。




    その頃、お兄ちゃんたちはというと。

    彼らの車はウユニ塩湖の中心部で車を停車していた。

    Bが寝台でメソメソしているのを呆れているとメディアプレイヤーから日本の曲が流れ始める。
    緩やかで語りかけるようなメロディは、まるでBを慰めているようで、「おい、機嫌直せよ」とGが助手席から声をかけるも返事はない。
    少しの間をおいて、二階から微かに「ほっといてくれ」と弱々しい声が聞こえた。
    不貞腐れが治るにはまだまだ時間がかかりそうだった。




    ――――


    暫くして、明るい歌声が外から聞こえ始める。
    窓から顔を出して外をみれば、片手に子ラマ、片手にウエディングドレスを身に纏った新婦を引き連れたRが遠くに見えた。
    その後ろからはたくさんの人々が結婚式の歌をうたい、パレードのようにR達の後を追っている。
    笑顔で楽しそうな雰囲気に、Gは訝しげに片眉を上げた。

    「なんだこれ」

    車から降りてその集団を見れば、皆の手にには宝石があった。

    「うーわ、こりゃBが泣き叫ぶぞ」

    そう呟きながら、Gは目線を逸らすことなく車を強く叩く。

    「おい、B!!面白いモンが見れるぞ、降りてこいよ!!」

    そう大きな声で言った後、Gは小声で「なんつってな」と舌を出した。



    Gは、Rの方へ歩み始め「おーい!」と声をかけた。
    Rもそれに気がついたようで、Gと目を合うとパァーと顔を明るくさせて「にいちゃん!」と足を早めた。

    「なんの集まりだ?結婚式か?」

    Rと共に来た新婦は笑顔で「ええ、そうよ」と頷いた。

    「なんでまたRと一緒に?」

    「この天使がたまたま式に参加してくれたのよ」

    Gは口角を上げたまま片眉を上げ「天使?」と訝しげに返す。

    「天使ってまさか、この筋肉ダルマベビーの事か?」

    「ええ、私達に祝福と富をプレゼントしてくれたの!彼は天使に違いないわ!」

    「あー……?……Rが宝石の場所まで連れてった?」

    「ええ!」

    「Rが宝石をあげるって言った?」

    「そう!」

    Gは唖然とした顔で「あ、そう」と早口で呟いた後、「うーん…………まぁ〜、Rらしいな」と苦笑した。


    「結婚おめでとう」

    Gがそう言うと新婦は堪らないといったように「ほんっっっとに!ありがとー!!」とGに勢いよく抱きついた。
    ……オイまじか。と困惑気味に軽く肩を叩くと、新婦は笑顔でRにも抱きついて新郎の元へ駆けて行ったのだった。
    『神は見てくださってたのよ。天使が恵みをもたらしてくれたの!』と皆に声をかけながら。
    苦笑しつつ見送れば、後ろの方からぼそりと声が聞こえてきた。

    Oh……Jesus……おぃ……まじかよ……

    聞き慣れたイギリス英語に振り返れば、車から出て呆然と突っ立ているBがいた。

    「お前、翻訳機グラニーソは?」

    『しらない……たぶん車のなk……、アレ俺の宝石?』

    正気を取り戻したBの問いかけにGは堪らず吹き出した。

    「そう!あと、オレ達な」

    そう聞くと血相を変えてGに駆け寄り『ッなんで盗まれてんだよ!!』と肩を強く押した。

    「あっっははは!」

    『あ?!何笑ってんだ!オレの宝石だぞ!』

    「ははは!俺たちな」

    ひとしきり笑った後、「Rが結婚式のプレゼントにってあげたんだとよ」と涙を拭いながら言う。その姿に腹が立ち、Bは地面の塩をGへ向けて蹴り上げた。

    『R!!宝石をホイホイ他人に渡すなって何度言ったらわかるんだ!』

    「でもオレも羊さんもらったよぉ」

    にこにこと手綱を持ち上げてみせるRから、Bは勢いよくそれを奪うと『羊じゃねぇ!これはラマだバカ!』と叱る。

    「わー!ラマっていうんだー」

    「アルパカかと思ったぜ」

    『こんの、馬鹿共……ッ』



    Bが口を開こうとした時、Rの「あーーー!」という声にかき消される。


    『ッんだよ?!?!!』

    「キラキラのコインー!」

    昨日雨が降ったのか、ウユニ塩湖の水溜りをRは指さして言った。

    『……は?どこにもないぞ』

    「お、さっそくRのキラキラセンサーが発動したな」



    わ〜!と駆けて、水溜りに飛び込んだRは、両手で池からコインを掬うと空へと飛ばした。
    コインは以前のように何処かへ行く事はなかった。一般的な普通のコインと同じように重力に従い、池へとポチャポチャと音をたてて落ちていく。

    これは、対になっている聖遺物が一つになった証拠であった。
    どんな超自然的価値があるかは誰もわからない。だが、これが聖遺物であることは確かとなったのだ。

    「終わりよければ、全てよしってな」
    GがBの肩を叩く。

    むすっとした表情のままBは『金になるのかよ、アレ』と呟いた時、ふと空が暗いことに気がついた。

    曇り空ではなかった。星が煌めく夜空だった。
    Rを中心として、星空が青空を覆い隠していく光景にBはGの肩を叩いた。
    Rの方へと足を踏み出しかけていたGも、Bの目線を辿って空を見上げた。

    「うー……わ」


    突如コインではあり得ないほどの光を纏わせたそれは明滅を始める。Rが再度そのコインを空へと飛ばせば、夜空と重なったコインは星のように美しく煌めいた。
    「お星さまみたーい!」と声をあげた瞬間、光は突如消滅する。そして、その中心にいたRの姿も忽然と消えていた。

    「……」
    「……」

    『……ぇ』

    ウユニ塩湖に集まった誰かの漏れ出した声を皮切りに『絵!!!!』とBが声を張り上げた。

    『絵――!!!絵!ッ絵!!!!!!』

    車を指差してそう叫ぶBに、Gは足を持つれさせながらも車に急いで戻り、自身の絵画を布から取り出した。
    そこに映るのは、変わらない姿で描かれる三つ子の子供だった。

    「んだよ、ビビらせんなよなぁ〜……」

    ほっと胸を撫で下ろしたGは、窓から顔を出して「ちゃんと居るぞー」と手を振った。
    緊張した面持ちから一変して、Bは気の抜けた表情でため息をついた。

    「今度ばかりは死んだかと思ったぜ、なぁ?」

    車から降りてフラフラとラマの隣に座り込んだGは、そのままラマに頭を預ける。

    『にしても、何処に行ったんだ?』
    「知らねェ……けど、そのうち帰ってくんだろ」
    『もうヘングレはしないからな』
    「いや、するわけねェだろ。地球一周分も宝石持ってねェから!」
    『Rが帰ってきても、今後一切しない』
    「はいはい、そーですね」


    少しの沈黙の後、「三つ子じゃねぇのは変な感じだな」とGが呟いた。

    ラマがGを見たことで、お互いに目があった。
    ラマの瞳が緑色なことに気がついたGは「よし、お前が今日からRな」といった。

    『おい、動物だぞ』

    「ラマもRも一緒だろ」

    『はぁ?……あ――……うーん、そうかも?』

    「キューゥィ?」


    運転席にGが、助手席にBが、その間に顔を覗かせるのはラマのRが。
    荷台には、少なくなった宝石と、いつも通りの絵画。そして、ウユニの塩水と共に瓶詰めされたコインがある。
    4811万円相当のピックアップキャンピングカーは、今日も沢山のレリックを乗せて、あてもなくさすらい走るのだった。
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