ただの仲間です。 その日のオーエンは機嫌が良かった。
ミスラは用事があるらしく外出中。オズと双子は任務へ。朝から遭遇したブラッドリーのことはいじめることができて、ついでにくしゃみでどこかに飛んで行った。クロエは新しい服が完成したと着せてくれた。彼は絡むと厄介だが、作るものは嫌いじゃない。新しい服を身につけた今日のオーエンは全てが思い通りと言っても過言ではない日だった。
あとはネロに甘いものを作らせるか、それともカインに奢らせるか。最初は前者にしようと思ったが、ネロの気配がキッチンになかったため、後者にすることにした。カインは中庭で鍛錬をしているだろう。
赤ちゃんの騎士様は今日もシノとレノックスと一緒に鍛錬をしていた。弱い奴らはご苦労だなと思いながら、姿を消した状態でカインの近くに降り立った。剣を振るうカインは悪くない。甘いものの方が大事だが、こうして眺めているのもやぶさかではないと思う。汗水垂らしながら剣を振るうカインを間近で眺めながら、ひと段落するのを待った。普段だったら邪魔するが、今日のオーエンは機嫌がいいのだ。カインのやりたいことをやらせてやってもいいと思えるくらいに。赤ちゃんにはそういうのも重要だとどこかで聞いたことがある。
そうしているうちに、カインが鍛錬を中断したらしい。汗を拭って剣を鞘におさめた。今だと思い、オーエンは姿を現した。
「騎士様」
「さーて、休け!!オーエン?!」
オーエンが姿を現すのとカインが振り向いたのが同時だった。あまりの近さと勢いで顔面がぶつかった。おそらく顔面である。唇になにか柔らかいものが当たった気がするが、互い違いの目、力強くて真っ直ぐな瞳が間近に見えて心が揺れた。その勢いで仰け反ったカインが尻もちをついた。オーエンは浮いていたので転ぶことはない。しかし、心が乱れて気がついたら地面に足が落ちていた。
「いったあ、なにするんだ!」
「っ……、お前こそ急に振り向くなよ!」
オーエンの機嫌は急降下した。せっかくいい気分だったのに、目の前のこの男のせいである。これはいつもの倍奢らせなければいけない。
「まあ、今日の僕は機嫌がいいんだ。おまえの財布を空にするので許す。」
「おまえなあ……。元々そのつもりで来たんだろ?準備してくるから待ってくれ。」
「3分。」
「短い短い。」
オーエンは走って魔法舎の中へ戻るカインの後ろをついて歩いた。
今日はとてもいい日だ。
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「随分熱烈だなお出迎えだったな。噂は本当だったのか。」
「クロエが言っていたやつか。」
「ああ、あの二人が付き合ってるらしいってやつ。」