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    kotoluv15

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    kotoluv15

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    なんかシリアスな話になる予定だったらしい理銃
    どんな話にするか思い出せないので供養



     ──誰かを殺したいほど憎んだことがあるか。
     薄っぺらい箱の中で、売り出し中の若手俳優がいささかやりすぎな演技でそんな台詞を吐いていた。手には血まみれの包丁を握っている。どうやら犯人役らしい。BGM代わりにつけていただけの番組が、連続ドラマの最終回だったのだとそこで初めて気がついた。
     銃兎は深く息を吐き、犯人に語りかける主人公の姿をぼんやりと眺めた。主演俳優は五十代の大御所と呼ばれる立場の俳優で、犯人役の若手俳優よりも自然な演技を見せた。分かりますよ、とベテラン刑事の主人公が言う。そして始まる回想シーン。
     繰り広げられる茶番を見ていられず、銃兎は手早くリモコンを操作して電源を落とした。身体の中に澱が溜まるのを自覚する。苛立ちの対処療法として煙草を咥えたが、こういうときに限ってなかなか火がつかずに余計にストレスが増していく。舌打ちと共にフィルターを噛み潰し、火もついていないそれを灰皿に投げ捨ててソファに身を投げた。
     足を抱えるように座面にごろりと横になれば、暗くなったテレビ画面が鏡面と化してくたびれた銃兎の姿を映し出しているのが見える。どうせ誰にも見せることもないのだからとろくに洗濯もせずに着回しているトレーナーはすっかりくたくたで、スウェットのズボンには毛玉がいくつもできていた。そろそろ買い換えたい気もするが、自宅にはほぼ寝に帰ってくるだけの生活をしているせいで、部屋着の優先順位は低くなる。
     入間さんは家でもピシッとしてそうですよね、と笑っていた部下の言葉を思い出し、銃兎は「ねぇよ」と独り言を漏らした。一皮剥けば銃兎とて、どこにでもいるアラサー独身男性の一人だ。
     今日はたまたま早く上げれた日だった。
     連日の捜査で署に泊まり込む日も多く、休みらしい休みを取っていなかった銃兎に見かねた上司が半ば強制的に取らせた休息だ。
     とはいえ、早く帰ってやりたいことも特にない。疲れているので自炊なんて面倒なことはしたくないが、外食するにはまだ早い時間だった。適当にぶらついて時間を潰すのも面倒だ。となれば、弁当でも買って大人しく家に戻って洗濯や掃除などの溜まった家事をこなすのがベストだろう。
     そうは思うものの、弁当はもう飽きたと駄々を捏ねる自分もいる。こうなってしまったら、コンビニ弁当もデパ地下弁当も同じだ。手料理が食べたい。誰かが、自分だけのために作ってくれた温かい料理が食べたい。
     運転席に座り込んだまま十五分を無駄に過ごした銃兎は、己がどれほど疲弊しているのかをそのときやっと自覚した。一度眼鏡を外して目頭をもみほぐし、最後の手段を用いることを決意する。
     幸い、銃兎には料理上手な頼れる仲間が存在するのだ。尽くしたがりの元軍人は得体の知れない食材を使おうとするのが玉に瑕だが、スーパーで買ってきてくれと指定すれば極上の一品が味わえる。いつだったか振る舞われたビーフシチューの味を思い出しながら、銃兎は理鶯に電話をかけた。
     ツーコールで応答する低い声。どうやら手の空いている時間だったらしい。これ幸いとばかりに家に来て手料理を振る舞ってほしい旨を伝えると、予想に反して申し訳なさそうな声が返ってきた。
     いわく、「今日は左馬刻の用事を手伝うので今からそちらには行けそうもない」とのことで。
     そんな日もあるだろう。外見はもちろんのこと、そのスキルも確かな理鶯を左馬刻が護衛として連れ歩くこともままあることだ。「そうですか、気にしないでください」と告げた声は思い返してみても平坦で、あっさりしていたはずだ。そうだと思いたい。
     なにか言いかけた理鶯の言葉を最後まで聞かないうちに、それではと通話を切って車を発進させたのはもう何時間前の話になるだろう。



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    kotoluv15

    MOURNING付き合ってない理銃がひたすらキスするお話で、うっかり飲酒してるのにいるまさんを車で帰らせようとしたためボツにしたシーン。
    車の描写以外はそのまま使う予定。
    2022年の5月か6月の本になるはず。
    理銃NGシーン「今夜はもう遅い。泊まっていくか?」
    「え、あ、いや……、帰り、ます」
    「そうか。では下まで送っていこう。火の始末をする間、少し待っていてくれ」
     おそらく、本能がこの場にとどまることを避けろと命じていた。
     脳裏に飛来したのは取って喰われる恐怖ではなく、その真逆の取って喰いかねない恐怖だった。生まれてこの方異性以外に発情した覚えなどないが、今確かにこの胸の奥にある衝動は、危うい欲と紙一重の場所に居を構えているものだ。
     断じて理鶯をどうこうしたいわけではない。
     信じる神などいやしないが、神に誓ってそう言える。
     ではこの衝動はなにかと問われれば、単に欲求不満が招いた誤作動だと銃兎は答えるつもりだった。もうここ数年恋人の存在はなく、自動的にキスをする相手もいないことになる。左馬刻のシマで情報屋まがいのことをしているママ(性別は男だが)に不意を突かれて強引に唇を奪われた苦い思い出はあるものの、あれはもはやただの事故だ。キスの内に入らない。
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    kotoluv15

    MOURNINGなんかシリアスな話になる予定だったらしい理銃
    どんな話にするか思い出せないので供養


     ──誰かを殺したいほど憎んだことがあるか。
     薄っぺらい箱の中で、売り出し中の若手俳優がいささかやりすぎな演技でそんな台詞を吐いていた。手には血まみれの包丁を握っている。どうやら犯人役らしい。BGM代わりにつけていただけの番組が、連続ドラマの最終回だったのだとそこで初めて気がついた。
     銃兎は深く息を吐き、犯人に語りかける主人公の姿をぼんやりと眺めた。主演俳優は五十代の大御所と呼ばれる立場の俳優で、犯人役の若手俳優よりも自然な演技を見せた。分かりますよ、とベテラン刑事の主人公が言う。そして始まる回想シーン。
     繰り広げられる茶番を見ていられず、銃兎は手早くリモコンを操作して電源を落とした。身体の中に澱が溜まるのを自覚する。苛立ちの対処療法として煙草を咥えたが、こういうときに限ってなかなか火がつかずに余計にストレスが増していく。舌打ちと共にフィルターを噛み潰し、火もついていないそれを灰皿に投げ捨ててソファに身を投げた。
     足を抱えるように座面にごろりと横になれば、暗くなったテレビ画面が鏡面と化してくたびれた銃兎の姿を映し出しているのが見える。どうせ誰にも見せることもないのだからと 1555

    kotoluv15

    MOURNING「恋とはいずれ必ず失われるものである」をテーマに見切り発車したら途中で「……なんか違うな」となって放置していた落書き理銃。
    この長さを一度で書ききれないとどうせ続き書かないだろうから供養。
    いつか同じテーマで再挑戦したいです。
    【理銃】


     恋とはいずれ、必ず失われるものである。
     まだ汗も引かぬベッドの上でそんなことを告げられて、銃兎は盛大に渋面を作った。ふわふわと雲の上に寝そべっていたような心地から、南極の海に急転直下だ。喉の奥から出た「はあ?」という声は、誰が聞いてもわかりやすく不機嫌でコーティングされているように思う。
     しかしそうなってしまっても、誰も責められないだろう話題だ。どう考えてもピロートークには相応しくない。たった今肌を合わせ、互いの身体が一つに溶けあうほど深く繋がって熱に浮かされたように好きだのなんだのと言い合ったその口で、言うに事を欠いて「恋は必ず失われる」だ。
    「……理鶯。まさかとは思いますが、ヤるだけヤってから別れ話をしようとしてます?」
    「まさか。だが、小官は事実を言ったまでだ」
     汗ばむ前髪を掻き分けられ、少し腫れたように感じる唇が額に触れてくる。熱を持った胸板に爪を立てると、理鶯は困ったように笑って銃兎の身体をやわらかく抱き締めてきた。
     鼻先に理鶯の匂いが香る。体温が上がって濃さを増した、少し甘い雄の匂いだ。
     別れ話ではないと聞いて確かにほっとした自分を自覚して、銃兎は 1886

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