理銃NGシーン「今夜はもう遅い。泊まっていくか?」
「え、あ、いや……、帰り、ます」
「そうか。では下まで送っていこう。火の始末をする間、少し待っていてくれ」
おそらく、本能がこの場にとどまることを避けろと命じていた。
脳裏に飛来したのは取って喰われる恐怖ではなく、その真逆の取って喰いかねない恐怖だった。生まれてこの方異性以外に発情した覚えなどないが、今確かにこの胸の奥にある衝動は、危うい欲と紙一重の場所に居を構えているものだ。
断じて理鶯をどうこうしたいわけではない。
信じる神などいやしないが、神に誓ってそう言える。
ではこの衝動はなにかと問われれば、単に欲求不満が招いた誤作動だと銃兎は答えるつもりだった。もうここ数年恋人の存在はなく、自動的にキスをする相手もいないことになる。左馬刻のシマで情報屋まがいのことをしているママ(性別は男だが)に不意を突かれて強引に唇を奪われた苦い思い出はあるものの、あれはもはやただの事故だ。キスの内に入らない。
久しぶりのキスだった。
だから、もっとしたくなった。それだけだ。
「近いうちにまた会おう。おやすみ、銃兎」
気がつけば夜の森を抜け、銃兎は運転席に座っていた。理鶯の野営地からここまではかなりの距離があったはずだが、夜道を歩いた記憶が嘘のようにおぼろげだ。
下げた窓から理鶯の手が入り込み、悪戯に頬を撫でていく。暗闇の中に浮かぶ小さな顔、その中でもひと際上品なつくりの唇を自然と目で追っていることに気がつき、銃兎は弾かれたように居住まいを正してハンドルを握り締めた。
「おやすみなさい、理鶯。ではまた」
▽飲酒運転、ダメ、ゼッタイ