「イヤです、嫌ぁ!」
天空に向かって手を伸ばす彼女は小柄で、いわゆる「これといった特長のない」可愛らしい女性だった。この悲鳴が聞こえていれば後ろ髪を引かれてしまっただろう、些細な声を掻き消して、巨大化しながら高度を上げ、飛び去っていぬ空の支配者。
「私を連れて行って、フィル様!!!!」
ヘルツが抱き止めていればそれだけで簡単に動きを止められてしまうほどに無力なその搭乗者である。それでも彼女は力いっぱいもがくことをやめなかった。悲痛な言葉を聞きながら、ああこんなふうにこの人を抱きしめていたらフィルマメントくんに怒られてしまうな、などと考える。
空神機はとうに空の彼方で、この光景も彼女の声も届かないだろう。涙に濡れた丸い頬、ただ置いていかれたことを嘆いているわけではない。「空神機」が最大の性能を発揮するには彼女が必要なのだ。その自負と、矜持と、そして。
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