ハルニードが夜行性であるのは森の呪のものが活発化する時間にあわせてのこと、というのがおおよその理由である。
オーラレン領を守る呪のもの避けの術式は呪のものの活動域を森の奥に制限する効果を持つもので、ハルニードの現在の役割はその術式に綻びがないかを念の為確認してまわるという程度のものだと本人は自嘲する。覚えがある話である。つまり森の番人と呼称される者はだいたい同じような仕事をしている。
日中、少し傾きかけた陽射しが大きな窓を貫く。ハルニードはその眩しさで目を覚ました。カーテンを閉め忘れていたのだ。
広々とした寝台の上、つまり部屋の端にはユエが浅い眠りを喫している。丸まった姿勢でこちらを向いている厚い背中が無防備だとハルニードは思う。
ごろりと寝返りを打ち、シーツの上を肘と膝で這った。寝台としては広くとも狭い部屋の中である。ほどなく規則的に動くその背中に頭頂部をぶつけた。
「……何だ」
ユエは彼にしては緩慢に寝返りをうつ。薄く開いた目の色は黒い。ひそめられた眉間に眠気が残っている。
「時間か」
「んーん、まだ早いけど」
そう答えながら、ハルニードの形のよい頭はごつん、ごつんとユエの脇腹に刺さり続けている。
「カーテン、閉めて」
「……ああ……」
さんさんと西陽を迎える窓辺を示すと、ユエはハルニードと同じようにのそのそと寝台の上を這った。この家の中ではわざわざ立ち上がる必要がないのだ。ユエが億劫そうに手を伸ばし、最低限の仕草でカーテンを閉めるのを見届けて、ハルニードは満足そうに頷いた。
「ありがと」
「ん」
「もうちょっと寝よう」
「ああ……」
よほどまだ眠いのか、ユエはそのまま再び丸くなった。そばに這い寄ったハルニードが、もう一度、その背中に頭突きをくれる。