透明な棺の中には裸の男が横たわっている。沈んでいる、とするのがより正しい言い回しだろうか。元来このために作られていたのだと理解する。このように目を閉じていると——狂気が伏せられていると、形の整った人形のようだ。実際に人形と呼ぶのが近いような気もする。ここに浮かんでいるのは予備だ。今森で活動している不死族の身体が使えなくなればこれが動き出す。これが動き出せば棺は同じものを造るだろう。このように棺は占拠され続け、星産みの術式はままならない。
棺を満たす温水は給水口からだあだあと注がれては棺の淵からざあざあと流れ落ちていく。棺そのものが結界の役割を果たすためこの中に居るものへの物理的な干渉は困難である。濡れた床の上に立ったまま、ローザリエはふと口を開いた。
「「遘√繝槭い繝医螟ゥ遘、
逾槭蝨ー繧帝吶≧繧ゅ繧
縺薙蝨ー縺ョ逅↓螳壹a繧峨l縺
豎昴驥阪∩繧堤、コ縺」
両目に魔力を集中させ、棺の中を視る。神世の言葉でいう『心臓の重さ』が示す数値を測る術式は星産みのために御神体より教えられた文言である。星産みの術者は創世・測定・成長の三つの術式を用いて、呪のものと全く同じ寸分違わぬ重さの『心臓』を創り出して食わせ、恒星片を造る。
歴代最強度の魔呪階層を持って生まれたローザリエの目の精度は正確である。対象の重さを誤差なく読み取ることができる。
「……『蜷後§驥阪&縺ョ蠢∮』」
温水は絶え間なく流れ落ちていて、ローザリエの呻き声を掻き消した。
成人を迎える前に期待はずれと見切られた異母弟は確かに、魔呪的には弱々しい存在だった。いつからだろうか——否、議論するまでもない。種馬としても不適格と看做されて放逐されたハルニードは、手脚を失ってから魔呪的な存在強度を増した。
その結果がこれだと言うのか。大きく息を吐いて、ローザリエは棺の中の邪魔な大男を睨みつけた。