「だからと言って何が変わる?」
「ただ斃すべきものではなく、理由があって存在するのならその原因を解決すべきってこと」
「原因?」
「……僕だよね、やっぱり。御神体は僕に『繧医≧縺薙◎縲∝酔縺倬㍾縺輔蠢∮』と言った」
「ナディ」
ハンスの呼びかけは自嘲の色が濃いハルニードの言葉尻を嗜めるようだった。
「仮にそうだとしても、あなたは原因ではなくきっかけです。お間違えのないように」
ぴしゃりと訂正されて首をすくめると、ハンスは授業を先に進めた。
「しかしユエさんの疑問はもっともです。世界の水平性というのが何故保たれなければならないか。水平性が崩れた時に何が起きたのかは実は歴史に記述がありますよ」
習った知識を思い出させるやり方はまさに授業のようである。
「王家の衰退……?」
「記述が正しければ、ということになりますが」
ハンスが無表情に頷く。正解らしい。
「かつて王家グライファは大陸のすべてを見据え、先見の巫女の力を持って来たる危機への対処にあたっていました。その治世は長きに渡りましたが、やがて人類の脅威として不死族が現れたと言います」
「それも御神体とやらの知識か?」
「はい。オーラレンでは基礎教育で習う話ですよ。童話みたいなものですけど」
ハンスがちらりとハルニードを見る。請け負ったハルニードが口を開いた。
「不死族は力をつけすぎた王家の弱体化を求め、王家は人間の世界の平和を守ろうとした。闘いは激しく、神世の天秤は揺れに揺れた。……世界の水平性を量るとされる天秤のことね。揺れに揺れ、ついには壊れた。その天秤を治すために創世の神が現れて、王家は王権を剥奪されて、不死族は封じられた。天秤は新しくされて、新しい歴史が始まった。というお話。」
「脚色はあるでしょうけどね」
実際の歴史に連なるにはずいぶん乱暴な話である。