安心できるかどうかはともかくとして、自身の身体が魔力の循環を含めて正常に機能していることには納得した。
「ナディは」
「…………」
喉に痞えるような思いでその名を口にすると、ちょうど持ち上げていた紅茶のカップで口元を隠したネムの目が物言いたげな動きをした。
「お従兄様は行方不明、です」
「……」
「不死族が消え、お従兄様が消え、恒星石が残った。不死族が消えたことで棺は星産みに使えるようになった。……お二人が成したことですわ」
そして彼女はにっこりと微笑んだ。その声音は褒め称えているに違いなく、ユエの心象をひどく心細いものにした。顔かたちばかりはハルニードによく似ているが、つくる表情は嘘ではないにしてもいかにも作りものめいているのだ。
いずれにせよ伝えられたことは「同じ重さの心臓どうしが食い合ったものが石になる」という推論が正しかったという結果に過ぎなかった。それ以上追求することも反論することもない。
ユエが黙ってしまうと、ネムは話す言葉を少しばかり弾むような声音に変えた。
「そのあたりの詳しくはお姉様に聞いていただくとして。私からひとつ、よろしいでしょうか?」
「?」
それも何かを誤魔化すようなものではないかと思えたが、ともかくユエはその先を促した。たおやかな両手がそっと彼女の平らな腹の上に乗せられる。
「私、赤ちゃんができましたの」
「????」
それは実にめでたいが、実に場違いな吉事である。ユエは何故今それが自分に告げられるのだろうか、と訝しんだ。その訝しんだことを察したように、ネムは悪戯っぽく微笑む。
「ユエ様のこどもですわ」
持ち上げかけていたカップが傾いて、ぬるくなった紅茶は全てテーブルの上に投げ出された。