Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    もろきゅう

    @snd_housamo

    放サモ好きのアカウント。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 😊 😺 💪 👔
    POIPOI 22

    もろきゅう

    ☆quiet follow

    主人公とオニワカがバスタブに詰まる話。

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #放サモ
    #オニワカ
    blockhead

    バスタブに詰めて ガタガタと揺れる窓。
     ゴロゴロと唸る雨雲。
     ザンザンと叩きつける雨。
     セーフハウスの一つであるアパートの一室で、サモナーは一人、台風の対策をしていた。雨戸を閉め切り、非常食を蓄え、ある者を喚び出す。

    「我が声に応じ、参じたまえ、オニワカ」

     召喚紋が浮かび上がり、光となってあたりに漏れ出す。少しだけ強い輝きのあとに姿を表したのは、目を見開いて周囲を見回している、ずぶ濡れの忠臣だった。
     拳には血が滲んでいる。おそらく生きるための何らかをしてきたのだろう。
     サモナーは雨粒を滴らせるオニワカに笑いかけると、言った。

    「有事の際は遠慮なく呼んでいいって言われてたから、呼んじゃったよ」
    「何だよ主様。誰かから命でも狙われてんのか?」
    「台風は立派な有事だろ?」
    「それだけかよ。毛布でもかぶって引きこもってな」

     ぶっきらぼうに吐き捨てるオニワカに、しかしサモナーは怒らない。
     蛍光灯が煌々と部屋を照らす。
     照らされて顔の半分に影を宿した彼に、バスタオルをかぶせた。

    「とりあえず服を脱いで。風邪ひくからね。この部屋、オーバーサイズのTシャツなら用意してあるから、それを着よう」
    「……随分と用意のいいこって。予め揃えてたみてえじゃねぇか、主様」

     バスタオルはおろしたてらしい。ふかふかした感触のそれは、オニワカに纏わりつく水滴をぐんぐん吸収する。ため息交じりに服を脱ぎ、サモナーに手渡すと、サモナーは部屋の隅から隅へとピンと張ったロープに、濡れた服をかけ始めた。

    「災害のときって、家の中でどこが一番安全なんだと思う?」

     サモナーからの問いに、オニワカは眉をひそめる。

    「災害って……範囲が広すぎるだろ」
    「じゃあ、地震のとき」
    「なら、トイレだな。余計なもん置いてねえし、窓が小せえから割れてもそんなに飛び散らねえしよ」
    「じゃあ台風のときは?」
    「そこまでは知らねえな」

     サモナーは、アパートのどの部屋が一番安全か、なんてことをオニワカに尋ねる。台風が怖いからね、などと笑っているが、オニワカが外で、誰を殴ってきたかなどは、オニワカが意外に思うほど無視をしているようだった。
     サモナーが、そっとオニワカの手に触れる。
     そのまま誘導するかのように連れて行かれたのは風呂場だ。
     窓は閉め切られていて、浴槽は空。水気をこれでもかと拭き取られた、少し蒸し暑いだけの空間と化したそこで、召喚主は口を開いた。

    「竜巻が来た時に、浴槽で身を縮こまらせていたら助かった、なんて話を聞いたことがあってさ」
    「台風に適用されるかはわからねえぜ、主様よ?」

     覗き込んでみれば、浴槽の中には小さなカーペットが敷かれていた。
     迷わずサモナーが浴槽に入り込む。服を着たまま。

    「オニワカも来て」
    「狭えだろ、さすがに」
    「それでもいいよ」

     オニワカはやれやれと肩を竦める。そうして、サモナーと向かい合う形で浴槽に身を滑り込ませた。やはり狭い。お互いが三角座りで足を絡め合うことになる。
     どうどうと滝のような音が外から聞こえていた。
     いざというときのためなのか、アロマキャンドルが二つ三つ置いてある浴室で、二人は静かに向き合っていた。

    「台風が弱まるまでここにいようよ」

     サモナーがそんな言葉を発するので、オニワカは片方の眉をピクリと上げて、静かに問いかける。

    「その間、学校はどうすんだよ? 学生の本分は学ぶことにあるだろ?」
    「ここさ、学生寮よりちょっとだけ神宿学園に近いんだ。一緒に登校してよ」
    「甘えただな、主様?」
    「そうだよ。ただの人間だからね。嵐は怖い。決して一人にはしないでね」

     オニワカは盛大にため息をついた。サモナーのそれは本心でもあるのだろう。だが、ほかに目的がある。とても分かりやすい目的が。
     ずぶ濡れで召喚されたオニワカ。
     それは今まで傘もささずに一人、外を出歩いていたことを物語っていた。
     拳に滲んだ血。
     それは先程まで誰かを、力まかせに殴りつけていたことを示していた。
     オニワカは答える。
     ぶっきらぼうに答える。

    「俺が一人で濡れねえよう、屁理屈をこねてらっしゃるな、主様?」

     それに返るのは。
     歯を見せて笑う、主人の得意げな顔だった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works