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    もろきゅう

    @snd_housamo

    放サモ好きのアカウント。

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    もろきゅう

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    テスカとフッキさんがプチ喧嘩しながら語らう話。
    この二人なにもかも正反対すぎる。

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #放サモ
    #テスカトリポカ
    tezcatlipoca
    #フッキ

    賽を投げる ホウライ由来の茶をティーカップに注ぎ、駅前のデパートで買い求めた茶請けの菓子をテーブルに並べているのは、世界代行者だった。
     穏やかに笑みを浮かべながらティータイムの準備をする。カップは二人分、用意されており、丸いテーブルを挟んで椅子が二つあった。
     誰かと茶会の約束でもしてるのか?
     いいや、約束などしていない。ホウライ出身の世界代行者に、約束などなんの意味も持たない。
    「入室のマナーを御存じないのは、百歩譲って結構であるとしましょう」
     誰もいない部屋で、竜種の彼がぽつりとこぼした。
    「ですが、ええ、ですが……」
     かつかつと靴が床を叩くような足音が響いてくる。まっすぐ、崑崙に住まう竜種のもとへ進んでくる気配もした。
     足音の持ち主は、扉の前で立ち止まる。

     ずどん!

     重々しい音と共に、部屋の扉は内側に向けて跳ねるように開いたのだった。
    「テーブルマナーは、守っていただければと、思いますので」
     竜……フッキが出入り口に目をやり、口許だけで笑む。視線の先には、片足を上げた状態の……そう、扉を思いきり蹴破ったのだろう、テスカトリポカが立っていた。
    「君ィ、きょうだいの行方を知らんかね?」
    「妹なら、つい先ほどここを立ちましたよ」
     世界代行者同士の視線がかち合った。

     サモナーの……正確には、サモナーの中身の身内を名乗る者同士、会話をするのは何度目か。何億ループの中でこうして二人きりになることなど、片手の指を折り曲げても余るほどではなかろうか。
     案内されるままに席に着いたテスカトリポカは、不躾にもテーブルに頬杖をつき、フッキの身のこなしを眺めていた。
     茶を淹れる様のなんと優雅なことか。
     一応、美と誘惑を司る身としてその辺りの感慨を持ち合わせているエルドラドの代行者は、ホウライの代行者のしゃなりとした動きに、故郷とは趣の違う美しさを感じ取っていた。
     す、と静かにホウライの茶が差し出される。ティーカップの取っ手をつまみ、テスカトリポカは舌先でなめるように茶を少し飲んだ。
    「フフ、毒は入れておりませんよ」
    「知っているとも。君がそのような真似をしないことくらい」
     フッキが相手を陥れるなど、数えるほども見たことがない。それはフッキが誠実で親切だから……ではなく、未来を見通す力を持っているからだ。
     毒を盛る必要などないのだ。それよりももっと迂遠で、些細な動きを取れば、相手が滅亡の一途を辿ることを、フッキは知っている。
     ねぐらの最奥に陣取って、敵対する者の衰退を気長に待てばいい。それがフッキのスタンスである。最前線に立って敵対者を完膚なきまでに叩き潰すテスカトリポカとは、正反対の男だ。
     フッキは、テスカトリポカの言葉を待った。
     何を言い出すかは見通しているだろうに。
     ジャガーの獣人は、ぬるい茶を一気に呷る。
    「君」
     そして口を開いた。
    「きょうだいが……サモナーが、しばらくここを留守にする未来は、見えていたかね」
    「ええ、ええ、勿論ですとも。僕のもとを離れ、十四日は戻らないでしょう」
     ふうん、とテスカトリポカはお高いクッキーを指先でつまんだ。いくらするのかは興味がない。どうせ彼にも買える。その菓子をひょいと口の中に放り込み、ざく、と咀嚼。まるで煎餅でも貪っているように、遠慮なく噛み砕いた。
    「サモナーは明日、私のもとへ帰るのだよ」
    「存じておりますとも。あなたのもとへ三日ほど身を寄せ、その次は豊洲の教授のもとで三日」
     おてんばな妹です、方々を渡り歩いて自由気ままに振る舞うのです。フッキがおかしそうに笑うのを、テスカトリポカはじっと見ていた。
    「つまらなくはないのかね?」
     子供じみた質問が飛んだのは、直後のこと。
     フッキは目をぱちくりと瞬かせ、目の前の客人を見つめた。物事の大局を見、大きな出来事を、そして将来を見通せるフッキだが、森を見て木を見ずというべきか、目の前の些細な出来事までを見通しはしないようである。
     興味がないことは見通さない。
     自然な成り行きだ。
    「つまらない、ですか?」
    「自分のきょうだいが自分のそばにいないのだよ。私としては、その間、戦争も喧嘩も闘争もできないのはつまらんと断ずるほかないがね」
     背もたれに寄りかかり、指を組んで足も組む。
     テスカトリポカの言葉に、フッキは笑った。
    「僕は妹と喧嘩などしませんよ」
    「喧嘩など、できない、の間違いではなくてかね」
     低い声が楽しそうにこちらをからかってくるのに、フッキはピクリと目元を動かした。
     確かに、フッキは妹と喧嘩ができない。
     それはフッキが妹であるジョカを無意識に見下して……自分よりも下位の存在であると認識していたからに他ならない。ジョカもそれを察していたから、フッキと争うことなく黙っていなくなったのだろうから。
     それに対してテスカトリポカは。ケツァルコアトルというきょうだいと立場を対等とし、いつでも全力でぶつかり合っていた。
     ……羨んだことがない、といえば、嘘になる。
    「ですが、ええ、僕は」
     フッキは茶で喉を潤し、目の前の彼に微笑んだ。
    「妹と争う必要がなかっただけ、とも、言えますのでね」
    「ふむ?」
    「争っても、意見を対立させても、僕にはその先……結果が見えていますから、やるだけ無駄という見方もできますでしょう?」
    「なるほど?」
    「妹を傷つけたい訳ではないのです。妹を痛め付けるような行いを、僕がするはず、ないじゃありませんか」
    「失言を詫びよう」
     存外素直にテスカトリポカは言った。ただしつまらなそうな表情は変わらずに、だ。
     フッキは静かに微笑む。退屈ではないが、今のところ面白くはない時間だった。
    「ならば君は待つのかね。十四日間を、おとなしく」
    「はい、そのつもりでおります」
     だってそうでしょう、とフッキは茶をすする。高級な菓子を一つつまんで口に入れると、遠慮がちに、静かに噛み砕いた。
    「僕のもとへ帰ってくると分かっているのに、何をあせる必要がありましょう?」
    「しかし君の妹は帰ってこなかったのだろう?」
     ざっくり、と、音がした……気がした。フッキの心臓に、言葉のナイフが深々と突き刺さったような、そんな錯覚さえ覚えてしまった。
    「どうせ戻ってくるなどと、高を括っておとなしく待っているばかりでは、他の代行者にインターラプトされるのが落ちというものだよ、君ィ」
     もし仮に、本当に十四日後にサモナーが君のもとに戻ってくるとして。と悪気なく彼は言う。
    「戻ってくる理由が、仕方なく嫌々で、だった場合、君はその帰還を歓迎できるのかね」
    「……何を、おっしゃりたいのか」
    「分からんと言うつもりかね? 未来を見通せる君が、私の言葉一つ理解できんと抜かすつもりなのかね? ……良くないなあ、良くない。白々しいとはこの事だよ」
     だんだんと世界代行者の間の空気が冷えていく。
     フッキとテスカトリポカが睨み合う。
     茶が冷める。クッキーが湿気る。
     青筋が浮かぶ。
    「さすがは、捨てられたことにも気づかず飼い主を探す馬鹿な犬のようだと、鏡に向かって吐き捨てられたお方なだけはありますね。眼前の獲物に食らいつかずにはいられない短絡さ……脊髄反射の図々しさは、見習いたいものですよ、ええ!」
    「見習いたい? それは無理だろうね。最奥に構えて獲物をひたすら待つ臆病者に微笑む神はおらんのだよ。一歩でも自分の足を動かしたまえよ。まあ、君は動いたらダメージを食らってしまうから、無理せずいつも通りサモナーを見逃すといい」
     ばちんばちんと火花が弾け飛ぶのが、見える気がする。二人は睨み合う。ただ睨み合う。
     それはそうだ。フッキが相手にしているのは鏡たる存在。嫌みを言えば嫌みを返し、睨み付ければ睨み付け返してくる。そういうもの。
    「つまらない!」
     そして鏡は喚き出した。
    「僕の何がつまらないと言うのです」
    「そうじゃあないよ。君は待つのだろう? 見えた未来を素直に信じて、良い子で待つ! まるで親を待つ留守番中の子供のように!」
    「子供……僕が?」
    「実年齢のことを言っているのではないぞう? そんなことを言ったら創世神たちなど世界代行者の最年長もいいところだ」
    「精神年齢ですか?」
    「それこそ違うだろう。君は己が子供じみている自覚でもあるのかね?」
    「あなたより大人であると自負していますよ」
    「……どういう意味かは、聞かないでおいてあげよう。私も大人だ。聞き流す度量くらいあるとも」
     不機嫌そうに唇を尖らせているあたり、聞き流せていないように見えるのだが。
     テスカトリポカは、フッキに視線を向けた。細められた目付きは、獲物を狩る目とも、子供を見守る目ともつかない、曖昧なものだった。
    「待つばかりが、未来を見るということなのかね」
    「……と、おっしゃいますと?」
    「見えたものが全てなのか、と聞いているのだよ。君が一歩も踏み出さずに、ただ眺めているだけであること前提の未来と、君が一歩でも踏み出した先にある未来は、果たして同一のものか、とね」
     フッキは、きょとんとした顔でテスカトリポカを見つめていた。何だねその間抜け面はぁ……とテスカトリポカからの不興を買ったが、それはフッキにはどうでもいいことだ。
     そういえば、見るばかりで、その未来に自ら介入しようなどとは、考えなかったな、と、一人で物思いにふけるばかりである。
     妹が傷つくことを、妹の名誉が汚されることを、怒ったし、狂おしい気持ちにもなった。しかし自分は、自ら妹への不評を払拭しようと動いたことはなかったし、崑崙から出ることもなかった……。
     一言でも物申していれば。
     一歩でも崑崙から出れば。
     何かが変わっていたとでも、言うのだろうか。
    「十四日、のんきに待ち続けるも良しだが、私は堪え性がない。だから追いかける。一秒でも早く会いたいからね。そして一秒でも長く喧嘩をしたいからね」
    「……相変わらず、物騒なお方ですね、あなたは」
     フッキは、ゆらりと立ち上がった。茶会はこれにて終いだ。ディーラーの服をぴしっと直した彼は、先ほどエルドラドの代行者に蹴飛ばされ、蝶番が馬鹿になった扉に手を掛けた。

    「我が妹があなたのもとへ行くのは、明後日になりそうです。ええ、明後日です」

     ホウライの世界代行者からの宣戦布告に、エルドラドの世界代行者は不敵に笑った。
     その勝負、受けてたつ。
     今度の火花は、熱かった。
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