【一左馬】雪が溶けたら何になる? 縄を出されて正直、こいつMなんかなと思った。
「こう結んで……潜れる? 俺も潜るからさ」
がっしりと腰を掴まれて、入り口をなぞっていたものが明確な意思を持って先端を沈めてきた。期待に勝る、ごく自然な反射で左馬刻は腕を突っぱねる。
「やだったらやめる……」
時々する子犬のような顔、キラキラと濡れたように光る瞳が眩しい。まあお前がやりたいならやってやっても満更でもないが、と言う気持ちになる。ただ正面座位なんだよな。先ほどから視線がうるさい。
一郎との関係は既にのっぴきならないものになっていた。まさに今の体勢がそれを表しているかのようだ。縄の輪っかにお互いの頭を通して、自分が引けばその分相手が引っ張られる。挿入され、揺さぶられ、意図せず声が出た。
「あっ、うう、ん、う、おい苦し」
「う、ぐう、う、ごめ」
お互いを苦しめ合って、気持ち良くなるたび中断された。良いところを硬いものが抉るようにされてそれだけで頭は真っ白になるのに、絶頂までが果てしなく遠い。気持ちいい。焦れったい。
「んく、あっああっあ、は、だめっえ」
やっと達した時には縄が肩に落ちて、互いに抱きしめ合っていた。
クリスマスや年末は萬屋の掻き入れ時で、毎年忙しさに身を任せるままになっているらしい。疲労を感じていることは明白なのに、合間に眠るどころかこんなところでこんなことをしている。
「サンタさんは、子どもにプレゼント用意しなくていいんかよ」
「用意はしてるよ。まあ、サンタからじゃなくてもいいだろ」
「ふーん」
合歓にはいつも、イブの夜枕元にプレゼントを置いていた。何が欲しいだとかいうことを全く聞かず置いていたのに、幼い頃からそれに不服を漏らされることは無かった。今思えばバレていただろう。
「あ、降ってる」
息苦しささえ感じるホテルの小さな窓から灰色の街が覗く。かなり大ぶりの雪が宙を舞い、世界を塗り替えていった。ここからヨコハマまでは結構な距離がある。
「早く帰った方がよさそうだな。てめえも仕事だろ」
言いながら煙草に手を伸ばす。のを一郎が阻んだ。
「おい」
「俺のセックスつまんない?」
「はあ?」
指を絡ませながら手を握り、顔を近づけてくる。
「不満あったら言って」
「ンな話してねえだろ」
降りかかるようなキスが、深く左馬刻を貪った。唇を覆い舌を吸って絡めて、応える隙すら無い。
「……また連絡する」
クリスマスのプレゼントが縄ひとつのくせに、そんな顔すんなと思った。