初詣よりも家で君と こたつに入ってカチッ、カチ……とボタンを押しながらゲームの画面に夢中になっている恋人を、アンドルーはミカンの皮を剥きながら眺めた。
「……っよし! ノーミスクリア!」
せっかくの正月なのだから初詣に行かないかと誘おうと思ったけれど、この様子だとこたつから出ることそのものを嫌がりそうだ。
アンドルーもトイレに行こうとこたつから出ると、廊下の寒さに思わず震え上がってしまったのだから。
「なぁ、アンドルーはゲームしないのか?」
「……僕はいい。上手くないし」
ぱく、とミカンを食べるとルカは寝そべっていた身体を起こし、クッションに座り直す。
「何事も経験だぞ、アンドルー」
「そう言ってお前にやらされたやつ、開始早々僕は落下死したろ」
「あー……あれはまぁ、操作がちょっとコツ要るからなぁ……」
アンドルーの手元のミカンを見ては、「私にも頂戴」と言いながら口を開ける。
自分で剥けばいいのに、と思いながらも、ルカが嫌がる白い筋を取ってやっては、口に放り込んであげた。
「ん〜、美味い」
「良かったな」
自分の口にミカンをもう一つ放り込むと、ピロン、ピロンとルカのスマホとアンドルーのスマホから二回音が鳴る。
ルカがスマホを見ると、「おぉ〜」と言いながらアンドルーに画面を見せた。
「ワルデン君とビクターから新年の挨拶のメッセージが来てるぞ」
「……ワルデンの後ろにあるの……ウサギの水墨画……か?」
「卯年だしなぁ」
大きなウサギの水墨画を描き、自慢げに微笑んでいるエドガーの写真が送られ、書き初めならぬ描き初めだなとルカは笑う。
ビクターからは『謹賀新年』と書いてある書初め用紙を持っていて、ウィックと共に写っている写真が送られていた。
「正月らしい写真、そう言えばまだ撮ってないな」
「初詣もまだ行ってないしな」
「んー……外寒いし、それに人多いぞ?」
人が多いのはアンドルーも苦手だが、ルカとお揃いのお守りぐらいは買いたかったな……と思いながら、アンドルーは返事のメッセージを送る。
「……あ、そうだ。アンドルー、もうちょっとこっち来て」
「……?」
ルカの方へと身を寄せると、ルカはスマホを掲げて何だろうとアンドルーがルカのスマホを見つめると。
「はいチーズ」
「……えっ」
カシャッ、とスマホから音が鳴ってアンドルーが呆然としていると、ルカはポチポチとスマホのキーボードを叩く。
「ル、ルカ……何して……」
「これでよし、と」
ピロン、とアンドルーのスマホから通知音が鳴り、スマホを見ると……。
「なっ、な……!」
「ヒヒッ」
寝正月最高、という文字と共に送られた写真は、ルカとアンドルーのツーショットの写真だ。
早速エドガーから『新年早々惚気てんの?』と返されている。
「これ待ち受けにしとくかぁ」
「すっ、するなっ、馬鹿!」
「だってアンドルーの顔可愛く撮れてるし」
ピロン、とまた通知音が鳴り、ビクターからウィックの散歩帰りにここに寄ろうかと思ったけれど、今日はやめておこうかとメッセージを送っていて、アンドルーは慌てて来たらいいと返す。
「えー、せっかくアンドルーと二人だけで寝正月過ごせると思ったのに」
「ぞ、雑煮とかぜんざい、お前が調子乗って二人で食べきれない量作ってたろ……!」
「あー……まだまだ残ってたなぁ……」
ルカがこたつが温まるまで暇だったから、と言ってぜんざいと雑煮を何故か大きめの鍋で作ったのだ。
そう遠くないルカの実家にお裾分けするかと提案すると、絶対に嫌だと言って聞かなくて、まだそのままになっている。
「……ああ、ほら。ワルデンも来ていいなら時間あるから来るって」
「んー……まぁ、四人で食べて何かして遊ぶのもいいな。……でも」
ルカはアンドルーの耳元に唇を寄せては、低く甘い声で囁いた。
「夜は……流石に二人きりで居させてくれよ?」
「っ……!」
「あの二人に君の恥ずかしい声、聞かれたく……むぐっ」
アンドルーは顔を赤くさせながらルカの口にミカンを全部捩じ込み、ルカは可愛いなぁと思いながら捩じ込まれたミカンをそのまま食べる。
「……じゃあ、二人が来るなら今のうちに雑煮とぜんざい、温め直しておくか」
「……やっとく。どうせこたつから出たくないだろ」
「おや、バレていたか。じゃあせめて、四人で遊べそうなゲームでも出しておくよ」
アンドルーはミカンの皮を持っては立ち上がり、ゴミ箱に捨てては鍋に火をかける。
初詣に行けないのは少し残念だったけれど、夜の時間はほんの少し……本当に少しだけ、期待をしながらアンドルーは鍋を掻き混ぜた。