「すぐるくーん、ご指名だよ」
　店長の呼ぶ声に軽い頭痛を覚えて、額に指を押し当てる。
「店長、何度も言いましたけど、私はこの店にホールスタッフとして雇われたはずですが？」
「まあまあ、そう言わずに。太客だからさー、ね、その分の手当てはちゃんと出すから」
　深くため息をつき、指定された席に向かう。
「あ、すぐるくーん！　おっそーい！」
　顎に両手の握り拳を当てて、上目遣い。かわい子ぶった仕草で見上げてくるこの男、五条悟。
　初めて見た時、こんな場末のキャバクラに似つかわしくない、その美しい姿に目を奪われた。
　紫がかった白髪、不思議な虹彩の青い瞳、嘘みたいに整った顔、彫刻のように均整のとれた長身、モデルや芸能人というより、別の世界の生き物のような美貌だった。

「さて、次の質問はと、千葉県のカスタード醤油飴さん、え、マズいのか美味いのか分かんねーな。『もうすぐ30歳のお二人、若い頃には出来たけど、今は無理だ、という事があったら教えてください』
　歳のこと言うんじゃないよ！ピチピチだよ、俺なんか未だに高校生に間違われるよ？傑は高校の時から老け顔だし。うーんそうだなーマジで特に思いつかねえなあ、あーでも、体力が落ちたからじやなく、時間が無いから出来ない事とかはあるかなあ、芸人なりたての頃とか時間だけはあったもんな。桃鉄99年とか、24時間耐久SEXとか、やろうと思えば今でも余裕で出来るだろうけど。ま、忙しいのはアリガタイコトデース！じゃ、次ー」

　その晩、ファンの間に激震が走った。

「こんばんはー今週も始まりました、祓ったれ本舗のオールナイ◯ニッポン！
祓ったれ本舗の白い方、五条悟です！
　いやー今日はね、やんごとなき事情で相方は欠席なので、ぼっち放送です！まあ分かると思うけどね、地方ロケから戻るのが間に合いませんでした！ダッサ。
　という訳で今夜はリスナーからのメールの質問回答とか多めにしてこーかなっと思います。
　えーまずは、埼玉県の青い鳥さん他、たくさんの方からの質問！ありがとねー
　『はら本は五条さんが夏油さんを誘って結成したそうですが、五条さんは何故、お笑い芸人になろうと思ったんですか？目指すきっかけなどあったら教えてください』
　ふーん？芸人になろうとした理由？いや、そんなの、大体の芸人はアレでしょ、ズバリ、モテたいから！目的じゃなくて手段！お笑い論とか言っててもさー芸人目指す奴の8割はそーなんじゃん？あとの2割がもーただひたすらウケたい奴。ほとんど病的に。