「文武両道容姿端麗、家柄性格と全てを兼ね備えたパーフェクトヒューマン……ふーん」
トランクスの家に遊びに来た悟天は、トランクスの部屋で興味深い物を見つけていた。彼の通うハイスクールの、校内新聞。そこには大々的にトランクスの事が書かれていて、内容と言えば彼の全てをベタ褒めする事だ。隠し撮りじゃないのかそれは、という角度で撮られている貼られた写真は、どれもこれも彼の美しい容姿を最大限魅力的に魅せる表情で……具体的には、キリッとした顔だとか、真面目な顔だとか。そういう物ばかりだった。
「おい、返せ」
「あっ」
ジュースとグラスを持って戻って来た件の彼が、悟天が夢中になって読んでいた紙をひったくる。そしてあろう事か、気を込めて粉微塵にしてしまった。
「ああーッ! まだ読んでたのに!」
「うるさいな、騒ぐなよ」
「全くもう。何処が性格が良い、だよ。良い性格の間違いだよね」
トランクスが差し出してきたグラスいっぱいのオレンジジュースを受け取り、それを一気に飲み干す。ん、とグラスを差し出せば、何も言わずに追加してくれた。そしてそれをまた一気に飲み干す。乱暴に袖口で口元を拭き、またグラスを差し出す。流石に「飲み過ぎ」と咎められた。そんな余裕綽々な顔の彼をキッと睨むと、美しい容姿をした男は呆れたように眉尻を下げた。
「何で怒ってんだよ」
分からないのか、コイツ。
悟天は頬を膨らませて、ぷいとそっぽを向いた。
「なあ。そんなに新聞読みたかったのか?」
「違うし」
「んー、オレが凄え褒められてるのが気に食わないとか?」
「ボクのトランクスくんがみんなに魅力的に映るのは当たり前だから、それは別に」
「じゃあ何」
「トランクスくんには関係……」
「無いわけないだろ」
「……ある、けど」
絶対言ってやるもんか。の強い意志をもって下を向き、奥歯を噛み締める。するとトランクスは、いつの間に後ろに回っていたのか、背後から悟天をギュッと抱きしめた。うわ、そういう事する。そんなんで機嫌取れると思ったら大間違いだぞ。と思いつつ、しかし大好きな彼にバックハグなんてされた日にゃ顔がニヤケそうになるのは仕方のない事で。心地いいなあ、ずっとこうしていたいなあ、なんて。
好きな子には割とチョロい思考を持っている悟天の気が緩むのを分かってやっているのだから、狡いのだ。この男は。
「言ってくれなきゃわかんねえって」
「ホント、良い性格してるよキミ」
「うっせ。外面はもっと完璧にしてるわ」
「ふーん、あっそう」
「なあって、悟天。お前が怒ってたらオレつまんねえよ」
キミ、そんな猫撫で声普段出さないじゃ無いか。馬鹿にして。可愛いなんて思ってないから。嘘、すごく可愛い。悟天の心は絆されつつあった。
「……写真」
「あ?」
「勝手に撮られないでよ」
「ああ、あれな。……え? 何、お前そこに嫉妬してたのか?」
「嫉妬してないし。ボクはただ、盗撮されるなんて鈍ってんじゃないの? って言いたいだけだし」
「ふはっ!」
拗ねたように言うと、トランクスは声を上げて笑った。大笑いした。顔がカァッと熱くなるのが分かる。なんだか耳まで熱い気がする。後ろで大笑いしてる男は、笑いを堪えきれないながらも「怒んなって、あはは」と悟天を宥めた。
違う、そうじゃ無い。笑われた事に対して怒って顔が赤くなっているんじゃ無いんだ。悟天は気付いてしまったのだ。ねえキミ、スクールじゃこんな無邪気に笑ってないでしょ。外面は完璧って、そういう事なんでしょ。悟天は知っていた。彼の端正な顔立ちが一番際立つのは真面目な顔だが、一番魅力的且つ心惹かれるのは、彼の屈託のない笑顔だという事を。
そんな写真を切り抜かれていないという事は、つまり、要するに。
「うう〜ッ」
「はは、悪かったって。ほら機嫌直せよ、あははっ!」
「うーるーさーい〜」
家族と仲間と、そして悟天にしか見せない、トランクスのクールとは言い難い表情。笑い声。存外負けず嫌いの悟天は、こんな事で惚れ直したなんて言ってやらないと思うのだった。