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    うどんだけじゃない

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    軍会8用の小話です。
    鯉月明治軸

    惚れたが鯉登音之進は悩んでいた。
    悩んでいると言っても、何も辛いとか悲しいとかそこまで大事なことでもないが、経験の浅い若輩者としてはそれなりに頭を悩ませているのである。

    きっかけは、先日行われた飲み会で出た話題だった。
    親睦を深めるという名目で、同じ連隊の若手尉官達がこぞって集まり飲んでいたのだが、そこでとある少尉の話題が出た。
    別隊の男なのだが、どうやら其奴がとある女郎に入れ揚げ、曰く『寝ても覚めても』という状態になってしまったらしい。
    「そんなに良い女だったのか?」
    「いや、よくある女郎の手口だよ。名前を呼んで、そっと身体の何処かに触れてくる」
    「甘く耳元で囁いて、次の約束を強請り、最後に『待ってます』ときたもんだ」
    「それで引っ掛かるのかい?」
    彼奴は田舎から出てきて女に免疫がなかったのさ、と一同は笑い飛ばすと話題はあっという間に流れてゆく。
    それをムスッとした顔で黙って聞きながら、鯉登は独り考えていた。
    自身は元より連隊旗手を目指す身で、女にうつつを抜かすつもりはない。地元ではその昔「女が生まれたら床ゆかの下したに寝かせよ」とするくらい男女の扱いには相当な差があり、現在でも未だ女は家に篭って貞淑に、が根付いている土地柄である。自分自身も幼い頃から異性というものは未知なものであるという感覚だ。それを女に免疫がないと捉えるかは不明だが。
    それでも我々は大日本帝国陸軍において将来国家の干城たるべき立派な将校である身。だと言うのに商売女に入れ揚げているとは何とも愚かだと思う他は無い。笑い呆れるよりも先にそう憤り、はて、と頭を捻った。
    周りの男どもが下世話な噂話で盛り上がる中、鯉登はとうとう手にしていた杯を卓に戻しておもむろに腕組みをする。
    そういえば自身の身を振り返り、ついぞ最近同じ様な事をしていなかっただろうかと思い当たる。それは主に自分の先任軍曹に対して。

    名前を呼んでーーだって自分にはまだ解らない事が沢山ある。
    (それに毎回返事をしてくれる)
    耳元で囁いてーー鶴見中尉殿と話したい時には致し方がないだろう。
    (迷惑そうな顔は隠さないが)
    身体の何処かに触れてーーいや、明確な意思を持って触れたのは一度だけだ。噂の奉天で鶴見中尉を御守りしたという傷を見せて欲しくて。
    (なんとこれは断られた!)
    つい先日、十数回目になる鯉登からの誘いに対して、初めて付き合ってくれた。そもそも上官からの飲みの誘いを、忙しいが理由で断るなんて些か不敬じゃないか?いや、別にこれは命令でも何でもないから別に奴の自由なんだろうけれど。
    あの夜、とぼけたような月明かりを二人でほろ酔いながら歩いたのだが、執務室では感情もなく冗談も言わない面白みのない歳上の補佐官が、酒の席では穏やかにこちらの愚痴を聞き、時に助言もしてくれ思いの外、居心地の良い時間となった。
    楽しかったからまた行こうと言ったら、明らかに今までのような愛想笑いではない表情で『お待ちしてます』と言ってくれて。それを見たら何故か胸がキュ、と。
    (うん?)
    ……つまり、もしかしなくてもこれは自分に惚れさせてしまうような、誤解させる行動を取ってしまっていたのではないだろうか。

    それが鯉登の近頃の悩みなのである。
    まぁ奴が惚れてしまっても仕方が無いくらいに己は若く、美しく、そして優秀だと自負している。しかし幾ら本気で惚れられても申し訳無いが応える事は出来ない。何故なら自分は鶴見中尉殿一筋だからだ。
    それについては、彼が一番近くにいるのだから薄々でも気付いている筈だが、そうであっても止められないのが恋心と言うものなのだろう。なんと罪づくりな漢だ、鯉登音之進。
    (すまないな、月島軍曹)
    だが。心中で頭を下げつつ気分は上がり、ついでに口角も上がってしまう。
    そう、悪い気はしないのだ。今までも家族には愛されてきたし、使用人にも可愛がられていた。もちろん、自分も彼等に与えられた分以上の愛情ーー親愛とか、友愛と言ったものだーーを返している。現在でも鶴見中尉からはお気に入りとされて、鯉登は人を愛し、愛される事には慣れている。
    奴に応えることは出来ないが、己に好意を持っている人間を邪険に扱うような鬼畜ではない。月島の唯一には成ってやれないが、誠意を持って大事な部下として接してやろう。
    うんうん、と胸中で頷いていると不意に影が射す。
    「鯉登少尉殿」
    「……うん?」
    驚きで瞬きする鯉登の眼前に、月島の顔があった。先程まで脳裏に浮かべていた、小柄ながらに巌のような男。不機嫌に見えるほど表情がないーーいやあれはあれで中々に表情豊かだ。
    現に今も少し心配そうにーー
    「ぅわッ!?」
    ピタリと額に掌を当てられて思わず仰け反る。厚みのある硬い皮膚の感触。
    「熱は無いようですが……如何されましたか?」
    「いや、何でもない何でもない!」
    「そうですか」
    一歩後ろに下がって小首を傾げる様は、小動物のようで愛らしく……見えない事もない。
    「余り筆が進んでおられないようですが」
    「問題ない」
    まさかお前のことを考えていた等と言える訳もない。鯉登は誤魔化すように手元の書類を手繰り寄せるが、こちらを見つめる月島の視線を感じてしまい、書面の文字が滑る。
    「気分転換に茶でも淹れましょうか。貰い物の菓子がありますので」
    「あぁ、ありがとう」
    礼を言うと、奴はヒョイと眉を上げた。
    「……いいえ。今日は天気が良いですから、換気のために窓を開けておきましょう」
    床板を鳴らす靴裏の鋲の音が遠のいてゆく。鯉登は月島が出て行った扉を暫く見つめて、同期らの会話を思い返す。
    女郎に恋をしたあの男はどうしていると言っていたか。
    朝も夕も四六時中、その身の心配をしてーー
    (熱は無いようですが)
    身銭を切って特別な贈り物を繰り返しーー
    (貰い物の菓子がありますので)
    女郎部屋は健康に悪いからと生活環境の改善をーー
    (窓を開けておきましょう)
    開け放たれた窓からは兵達の演習の声が聞こえてくる。

    あぁこれは、間違いなく惚れられてしまっている。


    どうしてもと言うなら抱いてやっても良い。それくらいに月島のことは大切な部下だと思っている。
    鯉登は一人、自宅の布団の上で胡座をかいていた。これまでも学友や先輩方から誘いは幾度かあった。しかし、どれも見目麗しい鯉登を『抱きたい』というもので、もちろんそう言った輩には一刀両断で拒否してきた。男同士の閨事にはそこまで抵抗はないが、自分が受け身となるのは解釈違いだ。そんなこんなで鯉登音之進、未だ誰とも肌を合わせた事はない。
    そもそも念友の契というのは忠義の心、信頼の証であってそう気軽に交わすものでもない。この者こそ、と互いに想い合うから契るのだ。男女の惚れた腫れたの感情ではないから連隊旗手の示す清廉潔白さは損なわれない、のだと思う。そう、これは単なる肉欲ではないのだ。求めているのは女性の様な柔く白い肌ではなくーー
    (普段軍服に隠れている部分の白さは雪国生まれのものか)
    豊満な胸や腰回りでもなくーー
    (腹の傷を見たいと服を捲りあげたときの、引き締まった胴回りと鍛え上げられた胸筋!)
    麗しの美貌がーー
    (控え目な鼻筋も慎ましやかな口も、見慣れれば愛らしいと言えなくもない)
    先日実家から送られてきた舶来物のぶらんでぇけぇきは、幼少期からの鯉登の好物なのだが、それを口に入れてやった時の、頬一杯にして食べる小動物のような仕草!食べかすを舐めとる短い舌が濡らした薄い口唇。
    はて、あの口から出る艶声とはどんな声色をしているものか。
    気が付けば何故か褌の前が張っていた。
    「む?」
    いつもならこの手の処理は素振りや鍛錬で落ち着かせるか、朝の生理現象なら厠で小水を出せば収まる。しかし、今は月島の事を考えていて魔羅が張ったのだから、月島の事を考えて自涜するのが道理であろう。
    浴衣の裾を広げて褌を緩め、慣れた手つきで自身の魔羅を取り出す。それは既にビクビクと脈打ち、明らかに昂っていた。
    「ふむ」
    鯉登は目を瞑って、脳裏に今日の月島の姿を思い浮かべる。
    仕方が無いだろう。なにせ月島は鯉登の事が好きなのだから。


    「貴方、そんな事を考えていらしたんですか?」
    月島は思わず呆れた声を漏らした。まだ熱も引かぬ褥の中で、寝物語に出た昔話だ。
    (通りで、幾ら邪険にしてもあの頃は妙な自信を持っていた筈だ)
    気位ばかり高い子猫のような新品少尉を、指先で転がすのも楽しいものだったが。
    「結局あの男は件の女郎を落籍いて、郷里に帰ったと聞いた」
    偽りの花も、続ければ何時かはほんとうになる事もあると言う事か。その女郎が当時本気だったのかはさて置き。
    「なぁん基ぇ、何時からおいの事好いちょっと?」
    今、月島の膝でゴロゴロと懐くこの男はあの頃とは違う。研鑽され酸いも甘いも噛み分けた、今や立派な肉食獣だ。隙を見せれば骨まで喰らい尽くされる。
    「そうですねぇ……」
    なぁんなぁんと鳴く、歳を取っても尚美しい男の、美しい形の唇をそっと指先で押し留める。

    「それは、無粋と言うものですよ」
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