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    tk_hgmt_dc

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    うどんだけじゃない

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    いとはじ2024用
    鯉月小話です
    共寝(一緒に寝るだけ)を受け入れていたら、気付いたら本気で惚れられていた話。

    熱と、鼓動(若しくはその両方)熱と、鼓動(若しくはその両方)

    どうしてこうなった。
    眼の前に敷かれた一組の布団を前に、月島は悩んでいた。一組の布団には仲良く並べられた二つの枕。
    「月島……」
    横から声を掛けられ、ハッとなる。明らかに緊張して上擦った声だ。
    まだ青い畳の上に二人して正座して、互いの出方を探っている。
    この場を上手く躱す方法を、月島は瞬時に三通り考えていた。なんと答えれば一番穏便に済ませられるか。
    しかし、まるでそれを予測したかのように、唇を噛み締めて鯉登が膝に置いた拳を強く握り込むのが横目で見えた。
    この人を傷つけたい訳じゃない。
    今はため息一つで誤解が生じる恐れがある為、喉の奥でそれを殺す。
    裏の通りで猫が鳴いて誰かを呼んでいる。いつも鯉登が可愛がっている斑のアイツだろうか。
    それも今は聞こえないのか、チラリと顔を見ると、こちらを見つめる紫紺の瞳と合った。真っ赤な顔を隠しもせず、ただひたすらに真っ直ぐに。逸らすことは叶わない。
    月島はこの部屋に来てから何度目か、胸中で呟いた。
    本当に、どうしてこうなった。

    上官である鯉登と、ひとつの寝床で共に寝た事がある。それは言葉の通り、ただ一つの寝具を使って寝るだけの意味だ。
    それも一回ではない。普通に考えると不思議であり不自然だが、思い起こせば最初は樺太の旅でだった。
    先遣隊として出発した時は、当たり前だが別々に寝ていた。鯉登は散々寒い寒いと一つ覚えのように毎晩文句を言ったが、だからといって部下である月島の毛布に、無断で入るなんてことをする人ではなかった。
    そもそもが、彼は幼い頃から個人の自室を与えられているようなボンボン生活のお人だ。士官学校時代の相部屋でも寝台は一人一つだし、雑魚寝の経験なんてきっと演習の時ぐらいだろう。それも一枚の毛布を複数人で使用するなんて状況では無かった筈だ。
    それでなくとも少々潔癖のきらいがある鯉登にとって、ひとつの寝具を他人と分け合うような寝方は到底受け容れられないものだっただろうに。
    さりとて、樺太の夜は寒かった。
    さすが北海道の最北端よりも更に北国である。
    寒さに慣れていると思っていた月島でさえ命の危険を感じていた。雪が滅多に降らない南国生まれの鯉登には、もっと厳しいものだっただろう。
    かといって曲がりなりにもこの旅での指揮官である意識を持っているからか、おいそれと弱音を吐くことも憚れる。谷垣とくっついて眠るチカパシや、祖父と寄り添って眠るエノノカを羨ましそうな目で見ている時があったが相手は子供だ。そう自分を納得させていたのだろう。
    それが亜港監獄でアシㇼパを確保した後の帰路で、状況が変わった。
    アシㇼパは事もあろうか、杉元の腕の中に当然のように潜り込んだのだ。杉元も当然のようにそれを受け入れていた。
    「十を越えたおなごが、身内でもない異性と共寝するとは」
    鯉登は唸ったが、アシㇼパは平然と「寒い所でそんな事を言っていてはいざという時に動けないぞ」と言い放った。
    「ちゃんと眠ることで心も体も守られる」
    エノノカも「私がヘンケと一緒に寝るのもヘンケの為だよ」と加勢した。
    「年をとると指先までちゃんと血が回らなくなる。そうするとあっという間に腐って先っちょ落ちちゃうんだから。そう言う年寄りをいっぱい見てきた。だから私一緒に眠って温まるようにしてる」
    「凍傷か」
    「杉元も体温が高いからな。とても温かい」
    傷の治りが驚異的に速い杉元は、基礎代謝が良いので体温も高いのだろう。そうそう、と白石が一緒になって笑う。
    「それに杉元は他人じゃない。私の大切な相棒だ。そこに寝ている月島も鯉登にとって大切な人じゃないのか?」
    「大切……」
    鯉登は俯き、月島の手にそっと触れてきた。
    「冷たい」
    月島はキロランケの手投弾によって受けた傷が元で、まだ殆ど寝たきりだった。血も多く失われたし、首を動かせないせいで物を咀嚼することもままならず、体力が落ちてしまっていた。
    身体が動かせないと血の巡りも悪くなる。もともと色白であった月島の指先は、まるで死体かのように異常に白くみえた。
    「大切だ」
    自分に言い聞かすようにそう呟いた鯉登は、月島の指を握り込んだ。自分の体温を少しでも与えようとしているかのように。

    その日から彼は月島に掛けられた毛皮と毛布に潜り込んでくるようになった。
    動けない体では逃げ場が無かったし、苦言を言いたくてもまだそこまで頭が回らない。なにより、若い鯉登は温かかった。仰向けにしかなれない月島の側面に、横向きで抱え込むように長い手脚を絡ませる。母親に振り落とされまいとしがみつく子猿のようだ。
    ドクドクと脈打つ音が聞こえるのは、果たしてどちらのものなのか。
    姿は見えずとも笑う尾形の気配を感じつつ、何故か月島はその体温を受け入れてしまった。怪我と寒さで朦朧としていて正常な判断が出来なかったのもある。本当ならば強く断らなければならなかったのに。それが始まりだ。
    尾形が逃走し、漸く月島が動けるようになっても豊原に移動する迄の間は変わらず共に寝ていた。
    もう必要ない筈なのだが、鯉登は夜になると当たり前の顔をして寝床に潜り込んでくる。二人分の体温で温められる寝具は暖まるのも速く、効率的ではあった。だからか、つい月島も止め時が判らず放置したのが悪かった。何かきっかけがないと。部屋自体が暖かくできる(例えばペチカのように)宿だったら、樺太程は寒くない北海道に帰ったらーー。

    それは突然、終わりをつげた。
    豊原の宿では鯉登が強請った通り、温かな布団と充分な炭があり他人の熱で暖を取る必要が無くなった。
    それ以上に、鶴見中尉による甘い嘘と真実の欠片を手にしてしまった鯉登には、月島が受け容れがたい存在になったのだろう。
    夜になっても鯉登が月島の横に潜り込んで来ることもなければ、先に待ち構えている事もない。自然と其々の寝具で眠るようになった。
    勿論それが本来有るべき姿であり、普通のこと。親離れが出来たと喜ぶべきか。
    ただ、月島の方があまりにも鯉登の体温に包まれて眠ることに慣れてしまっていたから、独寝がこんなに寒く堪えるモノだと気付くきっかけにはなった。
    その後も中尉率いる本隊と合流したり、杉元に刺された鯉登が入院したりしていたので、やはり共に寝る事は無かった。

    その機会が訪れたのは、インカラマッを連れて逃げた谷垣を追って辿り着いた小樽のコタンでのことだった。
    自身もまだ傷病者であるのに、無謀にも鯉登は馬で月島を追いかけてきた。そこで初めて彼が下した上官命令。まだ遅くないと力強く返された言葉。それらによってギリギリの均衡だった月島の心はバラバラになってしまった。感情や感覚の全てが遠く、無気力になり、何もする気が起きない。ただ言われるがままに座り、人形のように横になって。
    鯉登が横で「毛皮を被れ!」と騒いでいたが、曲がりなりにもここはアイヌの家の中で、囲炉裏に火も入っている。樺太の旅とは違ってそのまま寝ても末端が凍傷すらしないだろう。
    相変わらずガミガミと煩い声に、もはや反応すら億劫で月島は無視していた。
    するとこれ見よがしに大きく溜息を吐いた鯉登が、己ごと毛皮を被ると月島に覆い被さってきた。背中から包みこまれる熱と、自分のではない鼓動。トクトクと、あの旅の時に何度も聴いた音が響く。鯉登が生きている証拠だ。そのうち、動いているかも判らなかった自分の心音とゆっくり重なり出す。すると何の匂いも感じられなくなっていた嗅覚が、鯉登の体臭を感知して脳に情報を伝達する。ガッチリと回された腕は月島を護ろうとしているかのようだ。
    ウンザリするほど真っ直ぐな人。月島も彼ら親子を謀った側の人間であることを、知ってなお自分の傍に置く豪胆さ。自分の目で見て、感じた事を信じ抜く強さを持つ事ができる稀有な男。
    そんな鯉登に包まれ、不思議とまるで胎児に戻った気持ちで眠りについた。
    そう、あの日確かに月島は産まれ直したのだ。


    それから金塊争奪で怒涛のように時が流れ、漸く生活に落ち着きを取り戻せたと思えた頃の事。
    鯉登から、久し振りに二人で呑もうと営外の邸宅に誘われた。本部からの監査官が来ているうちはそうそう気も抜けず、二人きりで話をするのも人目を憚るような日々がやっと終わったのだ。
    「良いですね」
    月島も二つ返事でそれに応えた。
    久方ぶりに仕事以外で外泊届けを出し、簡単ながらにつまみを持参した。夕方積もった雪を踏み締めながら、何度か足を踏み入れたことのある邸宅を訪問する。
    軍服を脱いで着流し姿の鯉登は、水で濡れたような美丈夫ぶりだった。
    これはそろそろ見合の話が上がり出すのも時間の問題であろう。
    本部が手を引いた以上、鯉登がこれ以上金塊騒動の責任を取らされることはない。連隊長も次の陸大受験に鯉登を推薦する思惑らしい、と兵内で噂になっていた事を思い出した。
    本人も噂を知っていたが、彼にしては珍しく片頬だけで笑って受け止めていた。
    「それが真実であれば嬉しいが、期待しすぎるとそうでなかった時に大変だからな。まぁ準備だけは進めておくつもりだが」
    一年前には無かった男臭い仕草で、冷静に落ち着いた物事の見方。出会った頃の鯉登ならばはしゃいで浮き足だっていただろう。しかしこの一年で、本人が望まぬ辛酸な経験をさせられた彼は、急いで大人にさせられてしまったのだと少しだけ憐憫を覚えた。
    鯉登の選んだ酒はどれも美味かった。酒に強いお国柄の生まれだ。彼自身が目利もあるのかもしれない。そして月島が持参したつまみもそれらによく合った。
    程々に呑み、ほろ酔いのまま月島は風呂をもらい、寝巻の浴衣まで借りた。もう床の準備ができていると言われて、ありがとうございますと隣室の襖を開けたらこれだった。
    酔狂でもないのは彼の性格上分かっている。
    至極ゆっくりと膝を曲げて、布団の前で正座をすると後から入ってきた鯉登が同じように横に座った。
    「月島……」
    普段の二軒先まで通る音量の持ち主とは思えぬ、緊張で震えた鯉登の声に月島は瞼を伏せる。
    さて、どうしたものか。
    彼に拾われたこの命は、もとより全て鯉登の為にこの先使うつもりではあるがーー問題はこの人が童貞であることだ。連隊旗手を目指していたし、あの人が居なくなってからは、その後始末に駆けずり回りそれどころではなかった。
    花街は交渉の場としてしか使う事がないのは手配した月島が一番知っている。鯉登がそのどれにも最後まで付き合うことなく、むしろ毎回迎えに行かされたことも、彼が白粉の匂いを毛嫌いしていることも。
    だからこの男は間違いなく『童貞』だ。
    そうなるとますます月島は悩む。輝かしい未来が約束された青年の初めてを、使い古されたこの中年男に与えるというのは如何な物か。どうすれば諦めるだろう。
    迷ったのは一瞬。紫紺の瞳に真正面から見られては答えはひとつしかない。
    月島は深々と頭を下げた。
    「……貴方に捧げた命です。お好きにお使い下さい」
    すると、目の前の鯉登の気配がカッと怒りを帯びた。怒らせるつもりだったので思惑通りではあるが、流石に殴られるかもしれないとグ、と奥歯を噛んだ。
    だが拳が飛んでくる代わりに、強い力で肩を掴んで引き寄せられる。
    「『使う』ちゆな!あたいはわいに触れよごたっ、わいん心が欲しか……じゃっどん身勝手に暴こごたっ訳では無か!」
    真っ直ぐな眼に宿る焔の苛烈さに、月島の身体の熱が上がった。
    畳についていた手を取られ、両手で握り込まれる。
    「お前が好きだ」
    「っ、それは」
    「一時的な感情で言っているのではない。ずっと思っていた。……好っじゃ、私の側にいて欲しい……あたいん前からおらんくならじくれ」
    泣き出しそうになりながら、全身全霊で自分を求め縋る鯉登の姿に、月島は心臓を掴まれた気がした。
    「私は何処にも行きませんから」
    とりあえず離して下さい、と言うと更に腕を掴まれ、相手の胸の中に引き寄せられた。ふわりと、同じ石鹸の匂いと鯉登の体臭が薫る。
    触れたところから互いの熱が伝播して、二人ともカッカしていた。
    「離そごたなかっ!今日はこんまま寝っ」
    呆然としている間に、抱き込まれたまま布団へ共に転がる。慌てて身を離そうとすると、痛いほどに強く抱えられてしまった。まるで奪われまいとする子供のようで、月島は早々に諦めることにした。
    抵抗がなくなったのに気付いて、鯉登の力も抜ける。それでもまだ腕の中に囲われたままだが。

    外はまた雪が降り出したのだろうか。深々とした静けさの中、少し肌蹴た胸元に耳を当て、寝巻き越しに鯉登の鼓動を聞く。
    トクトク、トクトクと、いのちを、彼の想いを伝えてくる。
    「あの、」
    「うん」
    「当たってます」
    密着した腰の辺りに、硬いものが存在を示している。
    「あっ、す、済まない」
    わざとでは無いのだろう、鯉登が慌てて上体を起こして身を離す。その隙に月島はサッと布団から抜け出した。
    「月島ぁ!」
    逃げると思われたのか、鯉登が浴衣の袖を掴んで引き止めた。その手を今度は押し留める。
    「湯を、もう一度お借りしても良いでしょうか」
    「は?」
    「……準備を、してきますので」
    顔が上げられない。鯉登の熱が感染ったように、さっきから身体が、顔が熱を帯びていた。
    固まった鯉登の返事を聞く前に、月島はその場を逃げ出した。背後で響く猿叫に「近所迷惑ですよ」とコッソリ注意しつつ、足早に廊下を進む。

    どうしてこうなった。
    己の心が一番理解できない。求められる事が嬉しいだなんて、本当にどうかしている。
    だがそれも悪くない。

    きっと明日の朝には、見たことのない世界が待っている。
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