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    NaO40352687

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    忘羨ワンドロワンライ
    お題: 『仮病』『ふわふわ』
    所要時間:1時間52分
    注意事項: 道侶後

    #忘羨ワンドロワンライ
    wandolowanRai
    #啓仁先生の兎
    dr.KeihitosRabbit
    #魏無羨失敗する
    weiMuJealousyFails
    #陳情令
    theUntamed

    忘羨ワンドロワンライ【仮病】【ふわふわ】「魏先輩が扉を開けてくださいません」
     藍思追が困った顔で藍忘機を訪ねて来たのは、そろそろ昼餉の時間になろうかという頃だった。仙督として来訪者の相手をする必要があった藍忘機は、常なら自ら用意する魏無羨の朝餉の準備を思追に任せた。膳を静室に運び、並べ、食事をさせて片付けるまでが仕事である。思追はこの仕事が好きだ。話に夢中になって箸が止まりかける魏無羨に、それとなく食事を勧めながら、思う存分魏無羨と二人の時間を楽しむ。魏無羨の持つ多くの邪祟の知識や夜狩の経験談は、夜狩の指揮をとるようになった思追にとって得難いものだし、それ以上に、手に汗握る冒険譚を聞いているようでワクワクが止まらない。だから、その日も藍思追は内心大喜びで静室を訪れたのだ。だが、期待に反して静室の扉は開かなかった。
    「いま手が離せないから食事は後でいい――の一点張りで。無理に押し入るわけにもいきませんので、膳は食籠に入れたまま扉の前に置いては来たのですが……」
     思追は僅かに目を伏せる。確か魏無羨は昨日、午前中は童のための絡繰を作るつもりだとは言っていたが、たとえ一時的に手を離せない状況だったにしろ、魏無羨自身も思追との食事の時間は楽しみにしているはずなのだ、ここまで思追を放置しておくのはおかしな話だ。
    「私が行ってみよう。ご苦労だった。いつもの務めに戻りなさい」
    「はい」
     心配げな思追に、藍忘機は僅かに微笑む。
    「大丈夫だ。ちゃんと返事はしていたのだし、心配することはない」
     教え通りに綺麗な礼をして去っていく思追の背中は落胆を隠せない。藍忘機は小さくため息を吐き、卓に揃えていた書簡を丁寧にしまうと立ち上がった。
     
     数日前のことだ。童の一人が酷い咳嗽で床についた。今までも時折急に咳が止まらなくなり、やむなく休ませたりしていたのだが、数刻も休めば薬も飲まずにいつも通りの元気な様子に戻るため、一時期は詐病すら疑われた。まだ幼い童のことでもあるし、しばらく様子を見てみることにした、その矢先のことだった。
     医師と薬師が呼ばれ、今までの咳の状況を聞き、おそらく咳の原因は兎であろうと推測された。ほとんどの場合、兎の世話を見学した後に咳が出始めていたからだ。今回が酷かったのは、何度か年長者の兎の世話を見学し、ようやく本格的に童達の兎の世話の当番が始まったからだろう。世話係の中に問題の童も居たはずだ。
     何か特定の物にに触れたり、それを食べたりすると、痒みや咳などが出ることはある。原因に触れなければ症状は出ないし、成長するに従い症状が軽くなることもある。童は兎の毛皮を使用した校服の外袍では症状が出ないこともあり、しばらく兎の世話から外れ、原因を絞り込むことになった。
     ただ、兎の世話は童たちの中で最も人気のある務めである。童自身も兎の世話ができることを楽しみにしていただけに、その落胆は激しかった。床の中でシクシクと泣き続ける童を心配して、景儀は一晩中枕元に寄り添い、濡らした布で泣いて腫れた瞼を冷やしてやり、背を摩ってやっていた。そして魏無羨のところに相談にきたのである、なんとかその童を元気付ける方法はないだろうかと。
     魏無羨は景儀の話を聞いて心を痛めた。そして徐に絡繰の設計図を描き始めたのが、昨日のことである。夕餉の時間に藍忘機に楽しげに語って聞かせていた話では、木で絡繰を作り、それに羊毛を纏わせ、呪符か陣を使って絡繰を動かす――と。その時、既に木枠はほぼ出来ていたから、午前中は呪符か陣の設計辺りまで作業は進んでいるはずだ。
     
     藍忘機は静室の扉の前に立った。膳の籠は手をつけられずそのままだ。
     そっと扉に手をかけてみるが、特に何か変わったことはない。常と違うのは、こうして静室の前に立っても中から物音もしないことだろう。いつもなら藍忘機の足音に気付くと、ドタバタと大きな物音をたてながら魏無羨自ら扉を開けて出迎えてくれるのだ。
    「魏嬰?」
     食籠を手に持ち、扉を開く。いつも作業をしている卓の前には人影はない。ただ、卓で作業はしていたようで、札が何枚か広げられ、硯には墨が残っている。傍には広めの紙に描かれた陣も落ちていた。
    「魏嬰?」
     ゴソリと音がしたのは牀の奥からだ。ほとんど閉じられることがない紗が今は閉じられ、中に人影が見える。
    「どうした、気分がすぐれないのか」
     卓に籠を置いて牀へと足を向けた藍忘機に、魏無羨が奥から小さく『なんでもないから来ないで』と告げる。
    「なんでもない時に牀に隠れたりしないだろう?」
     紗を開ける手前で藍忘機は足を止める。
    「出てきて。思追も心配していた。顔を見せて」
     しばらく逡巡するような間をおいて、ゴソゴソと布団を引き摺るような音をたてながら紗の手前で魏無羨が座り込んだ気配がした。
    「笑わない?」
     予想しなかった問いかけに、藍忘機は首を傾げる。
    「何かあったのか? 顔を見せて」
     笑う笑わない以前に、隠れてしまっている道侶が心配でならない。よほどのことがない限りこんな真似はしない道侶なのだ。
     紗が揺れて、足先が牀から下される。奇妙に細く白い足先に不穏なものを感じて、慌てて藍忘機は紗を捲り上げた。魏無羨は掛布を頭から被り、上目遣いに藍忘機を見上げている。
    「本当に笑わない?」
     掛布は被っているがきちんと自力で座れており、声も正常だ。顔色も悪くない。藍忘機はほっとして息を吐くと、小さく首を傾げた。顔色は悪くない――のだが。
    「魏嬰、なぜ鼻に綿を付けている?」
     鼻梁から鼻尖かけて、うっすらと白くふわふわとした綿毛がまとわりついているように見える。藍忘機のその声を聞くなり、魏無羨の眉がハの字に下がる。藍忘機が両手でそっと頬を撫でつつ頭を隠していた掛布を背後に引くと、そこから何かがピョコリと――そう、文字通りそれはピョコリと掛布を跳ね除けるようにして飛び出した。
    「兎耳――?」
     それは兎のような長い耳だった。白くてふわふわと柔らかに見えるだけでなく、魏無羨の気持ちを表すように、小さく震えている。
    「これは?」
     戸惑った藍忘機がそっと触れてみると、それは明らかに体温をもった暖かさで、柔らかく、しかも毛皮の滑らさだ。藍忘機の手から逃れようとするかのように、それはプルリプルリと震えている。
    「耳、なのか? 何かを着けているのではなく?」
     耳の付け根へと指を滑らせると、それは確かにそのまま魏無羨の耳に繋がり、耳朶へと繋がる。藍忘機は慌てて首筋から肩、そして腕へと指を進め、夜衣の袖の先端から出ている可愛らしい小さな手袋のような手を見て言葉を失った。
    「先端だけ、兎になったみたいなんだ」
     魏無羨は切々と経緯を語った。
     魏無羨は、童のために兎の絡繰を作り、陣の中でだけその絡繰が兎のように動き回るようにしようと陣を設計して試していた。絡繰は予定通り可愛らしく動き始め、成功したと思えた。跳ね回り陣から飛び出ようとした絡繰を捕まえようと陣の中に足を踏み入れた時、ギシリと何かに捕まるような感触がして、訳もわからないうちにこうなっていたらしい。
     兎の手では筆が持てず、藍忘機に知らせようにも知らせる術がない。自力で対処しようにも、手が使えなくては何もできない。足幅が狭くなってしまったために、十分に体のバランスを保って立って歩くこともできず、藍忘機の仕事場へと歩いて行くこともできなかった。膳を持ってきた思追をそのまま返してしまったことを悔やみながら、牀に篭って悲嘆に暮れていたところ、藍忘機が静室へとやってきたのだという。
    「藍湛、このままずっと兎だったらどうしよう。筆も持てないし、箸も持てない」
     先端が兎になってしまうと情緒の方も兎に似てしまうものなのか、ウルウルと目を潤ませて、常の魏無羨からは考えられないほど弱音を吐く。
    「食事は私が食べさせてあげる」
     だが、まずは状況を確認して原因を探るのが先決だろう。
    「ただ、陣に関しては叔父上に見ていただく方が良いと思う」
     魏無羨はしょんぼりと耳を垂らした。
     
     
     藍啓仁は事情を聞いて飛ぶように静室にやってきた。そして牀に座り込んでいる魏無羨を見て目を見開く。少し癖のある、上半分を簡単にまとめただけの髪の横に、ピョコリと立派に飛び出している兎耳、鼻尖の白い毛、大人しく膝上に揃えられた小さく愛らしい前脚。拗ねたように唇を尖らせ、悲嘆に暮れて悪態すら吐けなくなった魏無羨がそこに居た。
    「魏嬰、いったい何をした」
     赫赫然然と説明し、問題になった陣はソコ、絡繰はそっち――と牀から指し示す魏無羨の前に腰を落とすと、藍啓仁は両手を差し出した。
    「手を見せてみよ」
     大人しく差し出された前脚をそっと握り、手首から指先へと探っていく。
    「痛くはないな?」
     うん――と頷くのを見て、次は足を同じように探る。そして藍啓仁は小さくため息を吐いた。
    「陣で何かを根本から変容させるのは容易ではない。思った通り、骨には問題は生じていない。つまり、外側が兎のようになっているだけで、中は人のままだ、手も足もな。きつく手袋を嵌められているようなものだと言えば分かるな?」
     おそらくは耳もそうだろう――と言うと、藍啓仁は傍の陣に目を落とした。
    「この陣の誤りは、動きの始まりを描いて、終わりを描くべきところが描かれず破綻しているからだ。兎の動きを模倣しようと途中で要素を描き加えていったのではないか? そのため、破綻した陣の要素が兎そのものを模倣させたのだ。符と違って陣の効力は長い。符は注がれた霊力が尽きれば効果も尽きるが、陣は終わりがないと収集がつかぬぞ」
     藍啓仁の言葉を聞いて、魏無羨は見るも無惨に耳を垂らし、しょげ返った。
    「絡繰を動かしたいなら、薇発条を使いなさい。あれならば巻いたバネの効力が切れれば勝手に止まる。必ず止まるのが薇発条の良いところだ。動き続ける絡繰は少々魔に近すぎる。控えなさい」
    「薇発条は考えたけど、あれは動きが単純で――」
     魏無羨は反論しかけて、ピタリと言葉を止めた。
     ネジで巻いただけなら動きは単純だ。だが、薇発条そのものを霊符に仕立ててみたら? ネジを巻く時に僅かに霊力を通すだけで、動きを複雑にできるのでは?
     ピタリと動きを止めて頭の中でぐるぐると何かを考え始めた様子を見て、藍啓仁はため息を吐く。この様子では、魏無羨は全くもって懲りていないだろう。
    「忘機、来なさい」
     藍啓仁は藍忘機を静室の外に連れ出す。それにすら気付かず、魏無羨はちょこんと牀に座ったまま思案にくれていた。
     
     
    「魏嬰」
     魏無羨が藍忘機の呼び声に気が付いた時、既に藍啓仁の姿はなく、卓の上には食べずじまいだった朝食の膳が並べられていた。粥は温め直してくれたらしい、ほかほかと温かな湯気が上がっている。魏無羨の腹は現金なもので、膳が並んだ様子と優しげな粥の香りに、思い出したようにキュウキュウと空腹を訴えだす。
    「さあ、おいで」
     常なら呼ばれれば藍忘機の広げた腕の中に飛び跳ねていく。だが今は、飛び跳ねるとしたら兎のように四つ足で跳ねるしかない。魏無羨は立ちあがろうとして逡巡する。細く縮まった足が立ち上がって歩くことに向いていないことは、牀まで歩いた時に数回倒れそうになったことで十分に理解しているのだ。
     藍忘機はすぐにそれに気付き、歩み寄って魏無羨を牀から抱き上げる。そのまま卓の前で座った膝の上に横抱きにされ、匙で掬った粥を差し出されると、魏無羨は大人しく口を開いてそれを口に含んだ。
    「藍先生は?」
    「叔父上は帰られた。使わなくなった玩具から薇発条を取り出しておくそうだ」
    「そうか」
     魏無羨は毛皮に包まれた小さな前脚に変わってしまった自らの両手を寂しそうに眺める。
    「いつまで続くんだろう」
     藍忘機はため息を吐く。
    「陣の効果は長い。石に刻まれた陣は風化するまで効果が続く。この陣は退魔や結界の類いではないから、汚せば効果がなくなるということもないだろうし、絡繰を動かす時に陣に注がれた霊力は、まだ十分に残されている」
     魏無羨の兎の耳がしょんぼりと垂れ下がる。歩けない、字も書けないし、呪符も持てない、箸も持てない、自力で服を着ることもできない。もちろん、藍忘機はその全てを自分が肩代わりすると言うだろう。いま膝に抱いて粥を食べさせてくれているように、毎食食べさせ、服を着せ、髪を結い、必要なら手紙の代筆をし――。
    「魏嬰、大丈夫だ。私が君の手の代わりをしてあげられるし、抱いて外へも連れて行ってあげる」
     でも、それでは嫌なのだ。
    「なんとかして元に戻らなきゃ」
    「魏嬰、焦らなくていい」
     優しい藍忘機の微笑みを見て、魏無羨は小さく頭を振った。
    「嫌だ。だって、お前の髪を結ってあげられないし、夜狩に付いても行けない。お前が食べさせてくれるのは嬉しいけど、俺だって食べさせたいし、なによりもちゃんと自分で隣を歩きたいんだ。元に戻る。なんとしても」
     断固として言い切った魏無羨に、藍忘機はため息を吐く。
    「魏嬰、でも、今はまだ」
    「嫌だ。絶対に元に戻る方法を見つける。藍湛にはしばらく世話をかけちゃうけど、俺、絶対に方法を見つけるから!」
     雛鳥を餌付けするように次々と菜を口に運ばれ、魏無羨は箸で摘まれて口元に掲げられていた菜をパクリと頬張ると、元気に噛み砕いて嚥下する。
    「まずは陣を再確認して、問題点を洗い出しておかないとな。俺みたいに色々作るやつが今後出てくるとは思わないけど、こういったことがないようにしておかないと。でも、その前に戻り方だな」
     藍忘機は、意気高く耳をピンと伸ばしてブツブツと今後の計画を練り始めた魏無羨を見つめる。
    「もう、こんな危ない真似はしない? 何かを開発するにも、もっと慎重にする?」
    「当たり前だろ? 失敗は一度すれば十分だ!」
     魏無羨の力強い返事を聞いた藍忘機は、徐に手を伸ばし、傍に置かれていた陣の端を掴むとポイと蝋燭の火に焚べた。
    「藍湛! なんて事するんだ!」
     メラメラと燃え上がって灰になっていく陣を見つめて、魏無羨は思わず藍忘機の襟元を掴み上げた。
    「考えなしに陣を燃やしてしまうなんて! もし、何か問題が起きたら燃やしたお前が――!」
    「うん」
     魏無羨はポカンと口を開けたまま襟元を掴み上げた手を見つめる。そう、掴み上げている。きっちりと纏った藍忘機の里衣の襟を、両手で。
    「戻った! 戻ってる! なんで!」
     戻った両手と立派に人の足になった足先を何度も見比べて膝からずり落ちそうになった魏無羨をしっかりと抱え込み、藍忘機はため息を吐く。
    「叔父上が、かつて蔵色散人に『踊り続ける陣』の悪戯を仕掛けられた時、魏長沢殿が陣を燃やして助けてくれたのだそうだ。今回の陣の要素もそれに似てさほど複雑なものではなかったから、おそらく陣を燃やしてしまえば元に戻るだろうと」
     魏無羨はポカンと口を開けたまま、藍忘機の話を反芻する。
    「踊り続ける陣――。藍先生が? 悪戯? 踊る? 藍先生が?」
     それはさぞかし怒りの叫びを発しながら踊った事だろう。
    「うん。叔父上が」
     魏無羨は藍忘機の胸元に縋りついた。
    「踊る、藍先生が――」
     震える声は、そのまま堪えきれない笑いに変わっていく。
    「藍湛、悪い――藍先生には、俺が笑ったこと――」
    「うん、言わない」
     全身を震わせて笑う魏無羨を抱きしめながら、藍忘機は叔父の困ったような顔を思い出した。
    『親子とは似るものだな、描いてあった陣がそっくりだった。ただ、魏嬰の方が童のためを思って作った陣であるだけ良い。――良いと思ったことが腹立たしいが』
     反省したら元に戻してやりなさいと言い置いて去った叔父は、何やら少し楽しげだった。
     
     
     数日後、景儀は白い羊毛で兎を模った絡繰を童の元に持って行った。
     薇発条仕掛けの兎は愛らしく、童はバネを巻いては飛び跳ねる兎を追って抱き上げた。そのうち、兎が苦手な童もそれに加わり、兎の世話をする前の練習用として、童たちは羊毛が草臥れたら何度も張り替えて、その絡繰を大切に大切に愛しんだ。
     兎を作ったのは魏無羨だが、童たちはその踊るように跳ね回る兎を『啓仁先生の兎』と呼ぶ。
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    NaO40352687

    DONE忘羨ワンドロワンライ
    お題: 『仙薬』
    所要時間:58分
    注意事項: 道侶後
    忘羨ワンドロワンライ【仙薬】「止血するには、まずは押さえるってことは学んだよな? 傷口が汚れているなら洗う。毒があれば搾り出して、毒の全身への侵食を進めないように必要以上に体を動かさないこと。刺し傷で絞り出すことが難しい場合は、切開して絞り出すか、吸い出す。――では、今日はその次、丹薬についてだ」
     魏無羨はポンと丸めた教本で自らの肩を叩く。
     今、魏無羨の前に並んでいるのは、これから夜狩に参加を許される予定の若い門弟たちだ。彼らは実戦の前に薬剤の講義を受ける。詳しい内容は薬師が教えるが、初歩の初歩、最初の授業を担うのは夜狩を指揮する高位の門弟と決まっている。今日は魏無羨にその役目が回って来た。
    「夜狩の際には、全員に丹薬袋と止血粉が支給される。もちろん、自前で中の薬を増やしてもいいが、丹薬袋に最初から入っているのは三種類だ。霊気が尽きかけた時のための補気丸、血を流しすぎた時の補血丸、そして霊気をうまく制御できなくなった時のための理気丸だ。理気丸を服用するときは、霊気の消耗が激しくなるので補気丸も一緒に服用することが望ましいが、混迷しているときは補気丸ではなく直接霊気を送る方が安全だ。霊気には相性があるので、日頃から気を付けておくこと。年齢、顔立ち、背格好、血統、似ているもの同士の方が相性はいい」
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    NaO40352687

    DONE忘羨ワンドロワンライ
    お題: 『神頼み』
    所要時間:1時間45分
    注意事項: 空白の16年中
    忘羨ワンドロワンライ【神頼み】 藍景儀は十一を過ぎてしばらくして結丹した。幼い頃から同室の藍思追が同期で一番早く結丹して以来、絶対に自分も結丹するのだと心に決めて、毎日苦手な早起きを頑張り、得意ではない整理整頓も礼法の授業も励んだ。その甲斐あってか思追に遅れること二か月で結丹し、同期の中では二人だけが、今日からの遠出の勤めに参加する。これは結丹した門弟が正式に夜狩に参加できるようになるまでの期間に行われる、夜狩の準備段階だ。
     幼い時から雲深不知処で寄宿生活をする門弟達は、あまり世間慣れしていない。特に藍思追と藍景儀は共に実家が雲深不知処の中にある内弟子で、雲深不知処からほど近い彩衣鎮にすら、年に数回、兄弟子に連れられて出かけたことがある程度だ。夜狩をするとなれば、街で休むなら宿を自分たちで取り、街がないなら夜営を自分たちで行わなければならない。もちろん、食事の準備も自分たちで行うことになるし、夜営に適した場所を選び、様々な采配を行うのも自分たちだ。夜狩では常に列をなして行動できるわけではない。最悪、その場で散開して帰還する羽目になったとしたら、一人で安全を確保しながら雲深不知処に向かわなくてはならない。そのためには地理に慣れ、人に慣れておかなくてはならないのだ。こうした夜狩に必要な知識を遠出の勤めを繰り返すことで習得し、剣技や邪祟の知識などを習得してはじめて、姑蘇藍氏の仙師として夜狩の列に連なることができるようになる。
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