ジョハリの箱庭・Ⅳ『未知』
硝子扉を開けるなり、夏の吐息が首筋を撫でた。クーラーに慣れきった肌が、段々と熱を吸い取っていく。運動場の赤茶色い平坦なトラックが、眩い太陽光の中で揺らいで見える。数メートル間隔で壁同士を接合しているはずのコンクリートの塀は、日射しを受けてまるで一枚の鏡のように仄白く光っていた。まるで書き割りのような平坦な風景。塀の上から除く樹冠だけが、穏やかな風に揺れて景色を塗り替える。
白線を跨いで数歩、トラックの内側まで辿り着くと、民尾は隣に並ぶ炭治郎の顔を覗き込んだ。
「それじゃ、普段通りのプログラムでトラック三周とボールハンドリング二十分。そこまで気温は高くないみたいだけど、水分補給は忘れずに。それと、眠くなったらすぐに言うこと」
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