ジョハリの箱庭・Ⅶ『箱庭』
肩に触れた手から、つめたいものが伝わる。
力など殆ど込められていないはずなのに、振り払えない。何某かの行動を踏み出せば、時間が移ろってしまう。予想もつかない破滅的な何かが、やってきてしまう。毒蛇に噛まれた瞬間を濃縮して永遠に引き延ばしているような、諦観にも似たつめたさ。
「お前、お前は……」
あり得ない。
全て、お前の妄想だ。
否定の弁ならいくらでも思いつくのに、上手く言葉に紡ぐことが出来ない。唇が、喉が、震えて。唾液が引いてしまった口の中が、からからと乾いて、声を摩滅させる。結びついてしまった記憶が、可能性を切り落としていく。眼球が軋む。瞬きすら満足に出来なくて。勿忘草色の光彩が、引き絞られる。ただ、目の前の扉がひどく遠く見えて。
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