名前曇天の空を仰ぐ。
光の差さない荒野は重く暗く沈んでいた。
神と同化する時、自分を失うつもりはない、奴を取り込んでやるのだ、と思うと同時に、何処かでこの同化をしてしまえば、自分はもう、元には戻れないことも予感していたように思う。
その予感は的中し、神と同化して1つに戻った時、神殿もこの荒野も何処か懐かしいものとなってしまった。
それは俺の中の大魔王と神がそれぞれそう思わせていたのだろう。
どちらでもない俺は、どちらの記憶も自分のものでない、遠い昔のだれかの記憶になってしまったのだ。
そうして俺は大魔王でも、神でもなくなった。
きっと本当の俺はあの日ここに打ち捨てられたまま、気でも失って、長い夢を見ていたんだろう。
だからこそ、ピッコロ、と呼ばれることも神様、と呼ばれることも俺にとっては居心地が悪いものとなってしまった。
ただ、あの子を除いては。
「ピッコロさん」
地に降りた悟飯は、瞑想にかこつけて感傷に浸る俺の横に立って、嬉しそうに笑う。
悟飯にその名を呼ばれる時だけは、それを訂正する気にもならず、すっと胸のすく思いだった。
きっと、あの日自分で付けたその名の向こうにいた本当の俺自身を、悟飯は見抜いていたからなのかもしれない。
だから俺が変わってしまっても、悟飯はその名を呼んで屈託なく笑う。
その笑顔に許されて俺はまた、少しずつ失った時間を取り戻していくんだろう。
あの日自分から名を受けた、ただのピッコロとして。
「今日は、何の修行をしますか?」
「ふ、そうだな。お前の嫌いなアレにするか?」
あれかぁ、と悟飯と懐かしむ記憶は実感を伴って俺の中にあった。
その事実に温まり、今はむず痒いこの心もきっとそのうち慣れていくんだろう。
荒野の乾いた地面は雲の隙間から覗いた太陽で、もう明るく照らされていた。