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    Umi1115Tkso

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    モブ兄妹と双子の話

    和解後のイメージです〜

    童心に返るあいつだったらどうするだろう。
    昔はそんな事を思うこともなかった。いや、あの頃はいかなる時も隣に居たせいで、その答えは考える間もなく目の前で形になっていたのだと、今改めて実感していた。

    「…ぅっ…ぅっ…おにいちゃん……」
    「………………」
    オレの腰ほどの背丈しかない少女が、堰を切ったように泣き出す。ぐずぐずと湿っていく足元に目を伏せ、オレは正直、手を焼いていた。ただでさえこの時代で多くの罪を犯し、こうして街に長居することすら憚られるというのに、そんな事を知りもしない無垢な子供の世話をしてやれるような器量はない。

    シャロットであれば…と不平を含んだ思考を振り払って、溜息をつく。こんな事をしていても、オレの服が涙を含んで黒く滲んでいくだけだ。仕方ないと覚悟を決めて少女の目線へと腰を落とし、さめざめと泣く小さな背中を撫でてあやす。だんだんとしゃくるような泣き方に落ち着いた頃、無抵抗なオレの首に甘えるように少女の腕が絡んだ。

    「…おにいちゃん…」
    「オレはお前の兄ではない…」
    至極当然の返しに少女は首を左右に振る。恐らく、そんな事を言っているのではない、という否定だろう。オレはもう一つため息をついて、小さなその身体を抱き上げた。ぐす、ぐす、と耳元で聞こえる啜り泣きを聞きながら街に向かって歩き出す。

    「…もう泣くな。兄弟を探してやる」
    「……ほんと?」
    「あぁ」
    どんなヤツだ、と聞くオレに彼女は目を輝かせ、さっきまでの号泣ぶりが嘘かのように、満面の笑みで兄の話を始めた。

    魔物に襲われた時に助けてくれただの、お菓子をいつも半分にしてくれるだの、いろんな事を教えてくれるだのと話す彼女は嬉しそうだが、オレにはそれがあまりピンとこないでいた。彼女が話すようなことは、ここまで嬉しがり、感謝するようなことだろうか。水を得た魚のように、次から次へと楽しそうに話す彼女の口から出る言葉が自分とシャロットの記憶と重なる。その度にオレ自身とは何の関係もないと言うのに、だんだんと自分に言われているような気になった。その気まずさのような居心地の悪さから、咄嗟に唇に手のひらを重ねてその言葉を遮る。

    「…今日は、どんな格好をしている?」
    「んーと、きょうはね、あかいの」
    「……赤か」
    「あとね、あとね、これといっしょのやつだよ」
    オレのフードをぐいぐいと引っ張ってそういう彼女の話を聞きながら、わかったと相槌を打って赤い服の少年を探し始めた。

    街の外れに当たるこの辺りは酒に溺れて自制を失ったり、弱者から金をせびったりするような輩ばかりで、とても子供が紛れていられる場所ではない。腕の中ではしゃぐ少女の兄も到底こんなところにはいるはずもないだろう。
    早急に人通りの多いところへ行こうと、いくらか足を進めたところで、案の定、品のない輩が両脇からニヤニヤとオレたちを取り囲んだ。少女も不穏な空気を感じ取ったのか、顔を隠すようにオレにしがみつく。

    「よぉ。この辺じゃ見ない顔だな」
    「……失せろ。お前らに構ってる暇などない」
    「あ?随分な口ぶりじゃねぇか」
    不快な顔がずいっと寄った。図体だけが無駄にデカい男が金を出せだの、この街のルールだのと自分勝手なことをのたまう。下から見上げるオレの視線が気に入らないのか、青筋を立てて、聞いているのかと怒鳴る男の太い腕が胸ぐらへと伸びた。オレはそれを避けていつまでもべらべらとうるさい口を、少女を抱えるのとは逆の手で塞ぐ。頬に食い込む指の力に短い悲鳴をあげ、膝を折った男の傲慢な瞳がみるみる恐怖に染まるのを見ると幾分か胸がすいた。だからといってこんな奴らを侍らせて楽しむ趣味も時間もオレにはない。何も言わず見下ろすオレが余計に恐ろしかったのか、自由になった瞬間に男は何度も謝罪しながら仲間を連れて走り去っていった。

    不快感の残る手を服の裾へと擦り付け、改めて怯える少女の背を叩くと、行くぞ、と声をかける。彼女は恐る恐る辺りを見渡し、危険が去ったことに気づいて安心したのか、またパッと花が咲くように笑った。

    「こわいおじさん、おにいちゃんがやっつけたの?」
    「あぁ…」
    「すごい!ねぇ、どうやってやっつけたの?」
    『すげえな!ジブレット!今のどうやってやるんだ!』
    無垢な少女に、あいつの眩しい笑顔を思い出す。純粋な憧憬を真っ直ぐ向けるあの瞳から逃げた事を思い出し、自嘲ぎみに笑った。オレの複雑な表情をじっと見つめた彼女は、不意にその小さな掌でオレの両頬をぐいっと挟み込む。オレが、なんだ?と聞くより先に彼女が口を開いた。

    「…おにいちゃん、だれかとケンカしたの?」
    「……なぜそう思う」
    「…ノトとケンカしたときのね、おにいちゃんとね、おんなじかお」
    彼女の言葉に目を剥く。彼女は何も言えずにまたすぐ目を伏せたオレの頭を撫でて頬を寄せる。
    「ノトもね、ケンカするとね、おにいちゃんイヤってなるけどね、いないとさみしいよ…だから、なかなおりするの」

    さみしい、なんて久しく考えてもみなかった。いや、考えないようにしていたのかもしれない。そんな感情は目的の邪魔にしかならなかったからだ。

    『なんでなんだよ…ジブレット…』

    あの日シャロットが浮かべた表情には、怒りの向こうにもう一つ、憂いが見えた。あの時のシャロットも彼女のようにオレを想っていたのだろうか。そんな事を思えば、罪悪感と共に湧く喜びに、我ながら現金だな…と呆れて目を伏せた。

    黙ったオレを不思議そうにノトが覗き込む。おにいちゃん?と傾げられた顔に努めて柔らかく手を触れて、行くぞ、と声をかけた。

    ----------
    「…まだですか」
    「だぁーっ!今やってんだろ!ちょっと待てって!」

    とは言ったものの、鼻をツンとつく刺激臭に歯を食いしばる。ゆうかく?だか、はながい?だかに続くこの裏路地は酒と煙、それからくすりみたいな変な匂いが混じってやべえことになってた。確かにその奥から目当ての奴の匂いもする…気もするが、数秒で限界が来て、ゔっ、と鼻を摘んで疼くまった。

    ダグ、と名乗ったそいつは、いつまでも先に進まないオレを呆れと疑いの目で見た後、不安そうに腕を摩る。その両腕は微かに震えていて、その震えを押さえつけているようにも見えた。
    妹を探して欲しいと見ず知らずのオレの目を見てはっきりと言った意思の強さと、どれだけトラブルに巻き込まれても弱音の一つもこぼさなかったダグが初めて見せた弱さに驚く。

    「…おい、大丈夫か?」
    ダグは複雑な表情でオレを見上げると深くため息をついて、大丈夫じゃないです、とはっきり言葉にした。そりゃそうかと納得しかけたオレは、ダグの次の言葉に固まる。
    「…こんなとこ…ノトが迷い込んだら……」
    ダグが心配してんのは自分のことなんかじゃなくて、妹の事だった。そこまで妹を思うダグをかっこいいなと思うと同時に、目の奥にあの日の光景が浮かぶ。

    『シャロット!!おまえは逃げろ!!!』

    ジブレットの迫真の表情と言葉を思い出した。あの日のジブレットもそうだったのか。目の前の敵に対するどんな恐怖よりも、オレを。
    そんな事を考えれば考えるほど、じくじくと熱くなる胸を抑えて首を振った。照れ臭さと悔しさから、くそ、かっけぇなぁと悪態をついて、ガシガシと頭をかく。

    首を振ったおかげで横道に目が行くと、遠くに大人に抱えられた子供が目に入った。青い服で二つに括った髪。ダグに言われた特徴と、当てにした匂いが紐付いて、あっ!と声を上げた。

    「おい!あれじゃねぇか?!」
    「ノト!」
    オレが声を上げるのと同時にダグが声を上げると、オレを置いて走り出す。女の子も顔を上げて、男から降りると全力でこっちに走ってきた。オレは残された人影の方に目を向けて、見えてきた見慣れた姿に、あ。と声を上げた。

    「ジブレット」
    「シャロット」

    兄妹がわんわんと声を上げて再会を喜ぶのと、さっきのダグとの会話を思い出して、気まずさから目を逸らす。ジブレットも思うところがあるのか同じように目を伏せた。礼を言って街の明るい方へ混ざっていく二人を見送りながら、オレはぽつりと呟いた。

    「…よかったな、見つかって」
    「……ああ」

    それだけの短い言葉の往復だけでいろんな感情が全部ひっくるめて伝わっちまうのが、くすぐったくなって、だあーー!!もう!早く帰って身体動かそうぜ!!とでかい声で叫ぶ。ジブレットはそんなオレに、はっ、と吹き出すと、競争でもするか?と子供の頃のように悪戯っぽく笑った。

    -童心に返る-
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