兄貴と軍師「よくあんな策に乗ったよね。」
信長様に目通りを願い出てくるからちょっと待っててくれ、という言葉を残して駆け出していった秀吉を見送って、残されたのはほぼ初対面の二人。
僅かな時間の沈黙に耐え兼ねて、という訳ではないが、いましかないような気がしてそう口を開いた半兵衛へ、声を掛けられるとは思っていなかったのだろう、意外そうに三太夫は視線を向けた。
「…まあそうだな、突拍子も無い策だとは俺も思ったさ。敵の真ん前に城を作りたい、なんてな。」
「それはそうだよね。僕もこんなに面白い策を実行する人がいるなんて思わなかったよ。」
「面白いですまねえがな。」
でもなァ、と、三太夫が続ける。
「兄貴の協力があれば絶対にできる!って、あいつの根拠があるんだかないんだか分からねえ話を聞いてると、不思議と力を貸してやるか、って気になっちまうんだよ。それに、俺が断ったところで放っておくと何をしやがるかわからねえ、困った奴だ。」
言葉とは裏腹な穏やかな表情に、半兵衛は小さく息を呑んだ。
伊賀の忍びの頭領は、予想以上に随分と弟分を可愛がっているらしい。
「…お前にもじきにわかる。覚悟しておくんだな。」
半兵衛の様子に、己の失態、なのだろう、に気付いた三太夫は途端に眉間に皺を寄せてそう言葉を続けた。