御捻り「お、沖野! 御捻りをいただいてしまったぞ!」
「おひねり……また……」
「古風な言い回しだね」という言葉は飲み込む。からかうつもりではないが、文化の違いを指摘することで揶揄されていると感じることもあるだろう。比治山くんの時代ではその言い方が適切なのだろうから、余計な一言は言わない方がいい。
そして近づいて来た比治山くんがその手に持った御捻りを見せてくれた。白い紙に包まれたそれはまさに「御捻り」と呼ぶのにぴったりの様だった。
「すごい。この状態、初めて見たよ」
「本当か? 祭の時などに投げられたりしなかったか?」
「え……いや、ないな」
僕が普段ほとんど外に出ることがなかったからなのか、僕らの時代にはもうその文化がなかったのか……首を傾げていると比治山くんは驚いた様子でこちらを見ていた。
「そうか。祭で太鼓をたたいたりしてな、御捻りを貰うと『小遣いだ!!』と子供心に喜んだものだ」
比治山くんは懐かしそうに語ると、包みを開いた。
「おおお! ありがたい!! この金で焼きそばパンが買えるぞ!」
頂いた小銭を握りしめ、満面の笑みを浮かべている。すごく嬉しそうだ。そのまま「貴様の分も買ってきてやるから待ってろ、沖野!」と、比治山くんは出掛けてしまった。
あの勢いだとすぐ帰ってくるだろう。帰ってきたらすぐにお茶が飲めるように、僕はお湯を沸かす。そこで一つ疑問が浮かんだ。
「ところであの御捻りは誰からもらったんだ?」