眠り 大量のモニターを表示しながら作業を進める沖野の背に、比治山は今日何度目かの言葉を掛けた。
「眠いなら一度仮眠をとってから進めたらどうだ」
「いや……もう、少しなんだ……」
この返事ももう何度も聞いた。作業しようとする意志は少しだけ指を動かすが、すぐにぴたりと止まり、続けて首がゆっくりと傾き出す。うとうとし始めた沖野を見て、さてどうしたものかと比治山は悩んだ。先ほどからこれの繰り返しなのだ。このままではいつ終わるのか分かったものではない。
「沖野」
「……うん……あと少し……」
繰り返される会話にいい加減痺れを切らした比治山は椅子に座る沖野に近づくと、その両脇に両手 を入れ、そのままUFOキャッチャーのように身体を持ち上げて、その体をベッドの上へと放った。
「!」
さすがに驚いた沖野が文句を言おうと身体を起こすが、そのまま肩を押されて転がされると、比治山の腕の中にすっぽりと収められてしまった。
「そんなに早く進めたいなら五分だ。少しだけでも目を瞑った方が効率が良い。必ず起こす」
安心できるよう、でもベッドから逃げないよう、比治山は優しく抱きしめる。沖野も先ほどから同じ会話を繰り返しながら、作業が全然進んでいないことはわかっていたので、あと少しとはいえ一度仮眠を取った方が良いこともよく理解していた。
睡魔に抗うことを諦めて「十五分で頼む」と返すと、安心した比治山は沖野の後頭部に手をやって、自らの方に寄せる。その胸の中で彼の鼓動と暖かさを感じると、沖野はすぐに眠りに落ちていった。