「届かないとしても伝えたい」で始まり、「今なら伝えられる」で終わる物語 届かないとしても伝えたい。
「沖野……」
伝えたい相手の名前は口にできるのに、伝えたい言葉が続かない。
「沖野……」
口を開いても言葉になるのはそこまでだ。
認めたくなかっただけなのは自分でもわかっていた。揶揄われて、意固地になってしまったこともある。それに今伝えなくても、もっと落ち着いてから……気持ちの整理がついてから伝えたらいいと思っていた。それがこんな唐突な別れになると誰が思っただろう。
考えないようにしようと思えば思うほど沖野と過ごした日々を思い出す。桐子であった時よりも、この時代に来て沖野として過ごした日々が次から次へと浮かんでくる。それは勿論、最近の記憶だからということもあるだろうが、それよりも自分にとって大切だったのは桐子ではなく沖野だったのだという証拠の一つだろう。
「沖野……」
ちゃんと自分でも理解している。認めている。今の想いを伝えたい。俺がどう思っているのか、どんな風に貴様を見ていたのか……
けれどそれは叶わない。二度と出来ないのだ。
悔しさと苦しさと悲しさと……それら全てが今までの自分の行動に追い打ちをかけるよう責め立てる。
「沖野……どうして……」
後悔しても、もう遅いのだ。
今なら伝えられるのに。